第15話
「書き終わった……」
静かな夜中、明るい部屋の中で俺は呟く。書き始めてまだ2日しか経っていない。普段では考えられないペースで完成してしまった。だけど、不思議と疲れは感じない。
「後は公開するだけかな」
「ですが、夜中だと話題になるのが遅いので夜が明けてからにしましょう」
「そうしようか。これで解放だー」
その言葉で緊張が一気に抜けて、感じてなかった疲れが体の中から出てくる。そして、いつかみたいにそのまま机に倒れて眠ってしまった。
*
目を開けると机、ではなく白い天井が映った。身体にはしっかりと布団がかけられている。これはまた、
「リボルー、もしかして布団まで運んでくれた?」
おそらくあの椅子に座っているであろうリボルに問いかける。
「ええもちろん。風邪でも引かれたら大変なので」
あの頃に戻ったみたいで、思わず笑みがこぼれる。ああ、ずっとこうであればいいのに。
「もう昼間なのでそろそろネットに小説をあげても良いのでは無いでしょうか」
「そうだな。ってもう昼間なのか」
思ったよりもしっかりと寝ていた。取り敢えずやることをやんないと。自分のSNSのアカウントに投稿する。ある程度は有名なのでフォロワーが沢山いる。ここなら多くの人の目に付くし、話題にもなりやすいだろう、とリボルと話し合って決めたことだ。早く広がってくれないかなー、と思いながらリボルと最後になるかもしれないお喋りを始めた。
*
日が傾き始めた。雲一つ無い空はほんのり橙に染まっている頃、スマホの通知が止まない。ようやく話題になり始めたようだ。おそるおそる見てみると、批判と擁護する声が半々、ではないな。批判が大多数を占めている。だけど、批判の中にある俺と同じ考えを持つ人の声を少しだけど見つけられて、喜びじゃないけど『これは間違ってないんだ』と心強くなる。
「リボル、俺達はやっぱり間違ってないよ。この世界の考えを変えるべきだ」
「司織にならできると思いますよ。頑張ってください」
「俺になら? 違うだろ。俺とリボルでなら、だろ?」
「それもそうですね。司織は私がいないと完璧にはできませんね」
一言余計だぞ、と二人で声をあげて笑う。明日が来なければいいのに。
「なあリボル。今日は寝ないでずっと話してようぜ。これからのこととか、さ」
「私は司織の『かっこいい』についてもっと知りたいです」
「いいぜ。夜は長いからな。話し尽くす勢いでいこう」
俺達は出会った頃みたいに、休むことなく口を動かし続け笑い続けた。
*
ピンポーン。
人々がせかせかと働き始めた朝も過ぎた時間。家のチャイムが鳴る。郵便が来たわけではない。画面を見ると役所の人のようだ。想定通りといったところかな。思ったより来る時間は早かったけど。
「リボル、とうとうみたいだ」
「早かったですね。早く招き入れたほうが良いんじゃないですか?」
「待たせると何が起こるかわからんもんな。ちょっと行ってくるわ」
リボルにそう言い残して階段を駆け下りる。お別れになるというのに、足取りが重くない。そして、扉を開ける。
「こんにちは。検察庁の方から来た白部です。伊川司織さんですか? あなたに家宅捜索の令状がおりています」
「どうも。おそらくリボルのことですかね? どうぞ、家に入ってください」
シラを切るような真似をせず、そのまま招き入れる。そして部屋まで案内する。なかなかおかしな行動に見えるが、これはリボルと決めたことなんだ。自室に入ると、白部、と名乗った人はリボルを見つけると駆け寄り、無線で何かを言っている。
「小説を書くのに使用されたと見られるAIを一台発見しました。伊川司織さんもご同行をお願いします」
「ええ、わかりました」
外まで連れられて行く。リボルとは違う車両に乗るみたいだ。これが最後なんだ。何言ったっていいだろう。
「なあリボル。俺はまだかっこよくはなれてない」
「知ってますよ。そんなこと」
「だからさ、俺の思う『かっこいい男』にいつか絶対なってやるよ。その後、リボルのこと迎えに行くよ。それまで、」
「『待ってて』ですよね。もちろんです。いつまでも待ちます。その日を楽しみにしてますよ」
俺が親指を立ててリボルに向けると、少しぎこちなくもリボルもグッっと親指を立てて返してきた。俺とリボルの物語、いや第一章が幕を閉じる。
目からこぼれ落ちたものは、爽やかな風が拭いとっていった。




