第11話
「目が覚めたって! 司織、大丈夫かっ!」
先生が出ていったのと入れ替わるように、大叶が飛び込んできた。走ってきたのだろうか。少し息を切らしている。
「もう大丈夫になったよ。ちょっと小説書くのに集中しすぎてな」
「あれか、あの検閲庁からの命令のやつだよな。司織はすごすぎるからって疑うこともないのに。まあでも、司織がAIを使っていようが俺はお前の親友だ。どんな選択をしようが応援するぜ」
「そうか、」
どんな選択でも応援する、か。前々から思っていたが、あいつはよく気づく。そして、下手な深入れをしてこない。もしかして気づいているのだろうか。
「俺は司織の二作目の『冬を駆ける』もスランプ後の『暗闇の光』も、どっちの作風も好きだぜ」
大叶は二カッと親指を立てて笑って教室に戻っていった。なんだかかっこよく見える。これは薄々気づいているな。全く観察眼が鋭い。どちらの作風も好き。俺自身で書いた小説も好きな人はいる。なんだか心の何処かが温かくなるのが感じられる。
さて、問題と向き合わないと。本当のことを打ち明ける、つまりはリボルとお別れを告げる。それか、打ち明けないか。でも、どちらにしろいつかはバレてしまうだろう。いや、もしかしたらバレないかもしれない。その可能性にかけて言わないべきだろうか。ああ、頭がこんがらがってきた。
――かっこいいを教えてやるっ!
昔、リボルに言ったことが脳裏を掠める。そうだよ。俺はかっこよくなきゃいけない。あの日から決めたことじゃないか。だったらどうするか決まった。逃げていても仕方ない。真っ向勝負をしようじゃないか。
*
「で、話っていうのは?」
先生が目の前には座っている。
「俺、話す決心がついたんです」
「決心ということは、だよな」
少し頭を抱えるような仕草をして、ため息とともに先生は言った。
「ええ、実はAIを使っていました」
「そういうことだよなあ。なんで司織はそれに手を出したんだ?」
「三年ほど前の時、スランプを抜け出すためにです」
「あのときか。話題になったりしたからよく知っている。でも、気になることがある。なんで急に作品のレベルが下がったんだ? 最初のと同じクオリティのものを書くことを司織はできたんじゃないのか?」
「そのことですか」
ゆっくりとその時の感情を蘇らせる。
「あのときは大きな賞を取って、もてはやされて神童だ、天才だなんて言われて有頂天になっていました。それで、才能があると思って努力をおこったってレベルが下がりました。その結果が顕著に出たのがあの『冬を駆ける』です。最初と同じような評価をされると思って出したら、批判ばっか。それで散々凡人だの書くのをやめろだの言われて、もう後が無いってなりました。その辺りでリボルと遭って小説を書いてもらいました。その時、AIの小説を書く能力に感動しました。こんなに面白いものを書けるんだって。これを使えば生きていける、そう確信しました。これが、AIを使うようになった経緯です」