本心
とある夜。居酒屋の個室で、二人の男が食事を終えたときのこと――。
「いやー、結構食ったな。あはは、お前、金大丈夫?」
「ああ……」
「ん? どうした? 顔が貧乏くさいぞ」
「いや……なあ、実は頼みがあるんだけど」
「頼み? なんだ、言ってみろよ。聞くかどうかは別だけどな。ははは!」
「あはは……いや、ちょっとさ、面接の練習をしたいんだよね」
「面接? 何? お前、会社クビになったの? ははは!」
「いや、そうじゃなくて、おれが面接官のほうで、採用面接の練習をしたいんだ」
「ああ、お前ももうそういう立場になったか。大学卒業して、もう三十代だもんなあ、俺ら。お前なんて特に禿げたもんな、ははは!」
「おいおい、やめてくれよ、ははは……。それで、手伝ってくれるか?」
「おう、いいよ。俺が就活生役だな。五万でやってやるよ」
「えぇ……」
「じょーだん、じょーだんだよ! ははは! 馬鹿だなあ。やってやるよ!」
「ああ、ははは……ありがとう。じゃあ、始めるぞ……」
「うーい」
「……おい、ここへ何しに来た」
「は?」
「は? 『は?』ってなんだ、おい貴様! どういうつもりだ!」
「ちょ、ちょっと待って」
「なんだその言葉遣いは! 『少しお待ちください、面接官様』だろうが! 殺すぞ!」
「いや、待てって! 待てよ!」
「おお、なんだよ……?」
「いや、なんだよじゃねえよ。出だしからおかしいんだよ」
「いや、いい感じでできてたのに、なんで止めるんだよ」
「あれで!? 鬼教官みたいになってたぞ」
「ああ、あんな感じでいいんだよ」
「いや、絶対ダメだろ。就活生が震え上がるぞ」
「だから、それが狙いなんだよ」
「はあ?」
「最近の若いやつはうまく自分を隠すから、ああやってベールを剥がしてやるんだ」
「ふーん、圧迫面接ってやつ? でも、そんなにうまくいくかね……」
「まあ、無職のお前にはわからないだろうな」
「うるせえな!」
「ほら、本性出た」
「ただ失礼なことを言っただけだろうが。もう協力しないからな」
「悪かった、悪かった。もう一度頼むよ。な、な?」
「……仕方ねえな」
「じゃあ、いくぞ……金」
「え?」
「金」
「え、金って?」
「金よこせよ……」
「はあ? あ、いや、どうしてですか、面接官……様」
「いいから出せよ! 二十万!」
「いや、二十万なんて今持ってないですよ!」
「じゃあ、親に連絡して持ってこさせるとかいろいろとあるだろうが! その足りねえ頭で考えろや!」
「いや、あの、待って、待って」
「ねえなら親を質に入れてでも金を作ってこいや! それが借りたもんの義務だろうが!」
「だから待てって!」
「はあ、はあ、どうしたんだよ?」
「落差がすごいな。そのキョトンとした顔やめろよ」
「せっかくいい感じだったのになあ……」
「あれで!? もう、ほぼヤカラだったぞ」
「あれぐらいの勢いが必要なんだってば。ほら、続けるぞ」
「いや、もうやらねえよ……」
「いいからやるんだよ! 志望動機! 当社を選んだ理由を言え!」
「え、えっと」
「どうせ金だろ! 金! それと家から近いからだろ! クソがよ! こっちの気が弱いからって、借りた金返さずにまた借りやがって! 家が近いからって、しょっちゅう、うちに来るなよ! あと、ここも奢らせようとしたよな! この無職が! 金返さねえなら死ね! 社会のゴミクズ! あああぁぁ!」
「お前の本性が出ちゃってるじゃん……」