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現実恋愛

膨れっ面のひまわり

作者: 猫じゃらし


 自宅にほど近く。

 広がるひまわり畑は、僕と彼女のお気に入り。


 朝には首をもたげる花を眺め、昼には昼食を持って共に陽の光を浴び、夕方には寂しげに遠くの太陽を見送る。

 夜には、眠る花に惜しみながらさよならをして帰ってくる。


 それが彼女のルーティン。

 けれど、今日は帰ってこない。


 ひまわりが終わる頃には、種を落とした花を眺めて帰ってこない日もある。

 あるけれど、まだ花は盛りを迎えたばかりだ。


 僕はテーブルに夕食を用意したまま、エプロンを椅子の背に掛けて自宅を出た。



 僕にしたってこんな日もある。

 広がるひまわり畑を前に、今日の失敗や反省点を嘆くこともある。

 彼女に対する不満をぶつけることだってある。


 それはお互い様で、どちらが悪いということはなくて。

 だから僕もひまわりに嘆く。少しの緊張と気まずさを手に握りしめて、ひまわりに向けて嘆く。


 彼女が帰ってこない理由を、静かな夜のひまわりに聞いてもらう。



「今朝、彼女とケンカしたんだ。ほんの些細なことだと僕は思ったけど、彼女にとっては違ったんだ」

「……ふぅん」



 ひまわりから素っ気ない返事。

 驚くこともなく、僕は続ける。



「それで彼女を怒らせちゃったんだ。だから、まだ家に帰ってこなくて」

「……ふぅん」

「僕に足りなかったのは気遣い。彼女に足りなかったのは言葉。僕は、そう思う」

「……ふぅん」



 ひまわりは調子を変えずに返事をする。

 緊張が緩んだ僕の手は、自然と口元を隠した。



「僕はもう仲直りしたいんだけど、彼女が帰ってきてくれないと仲直りできないんだ」

「……ふぅん」



 そして、とうとう笑みを漏らしてしまう。

 素っ気ない返事は、少しの迷いを含ませていた。



「ねぇ、出ておいでよ。仲直りしようよ」

「……」



 返事のなくなったひまわりの足元を覗き込む。

 しゃがみこんだ彼女が、膨れっ面で地面を睨んでいた。



「今朝はごめんね。僕を許してくれる?」

「……私も悪いから」

「こっち向いてよ。ちゃんと仲直りしよう」



 膨れっ面の彼女は、だんだんと眉を下げて反省顔になる。

 お互いに「ごめんね」と伝え合い、花ひらく彼女は、ひまわりのような笑顔。



「一緒に帰ろう」



 彼女の手を取って。

 夜のひまわり畑を眺めながら、僕達は少し遠回りをする。


 あのひまわりの根元も、このひまわりの根元も、そのひまわりの根元も。君が膨れっ面をしていた、愛しい場所。

 想い合うからこそ、僕達は何度でもすれ違うんだ。


 その度に、僕は膨れっ面のひまわりを見つけ出すよ。

 


 



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― 新着の感想 ―
[良い点] 猫じゃらし様の御作品はゆったりと全体が美しくて愛おしい…。 そんな気持ちに浸りながら読めて幸せです。 彼が迎えに来てくれるのが嬉しいですよね、ひまわりさん!! しかも謝ってくれるなんて…尊…
[良い点] 抒情的で情緒的で、読み始めから読んでいる最中、それに読後まで、いずれも趣深いと感じさせてくれました。「愛しい場所」という表現が、身勝手な物言いながら、身近さを匂わせてくれました。さすが実力…
[一言] なんと文学的で、叙情的で、素敵な作品でしょうか。 僕と彼女の穏やかな関係性。僕が彼女に向ける揺るぎない愛情。ひまわりに隠れて答える彼女の可愛らしさ。 こんな作品書いてみたいなぁと思いました。…
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