世の中色々あるもんで
転生トークもほどほどに、回収した草をギルドに持っていく。
見た目的には草としか形容のしようがないの、面白いよなぁ。回復ポーションを作る時には何が何でも必要になるのにさ。
「これは……セイナ草の納品、という事でよろしいですね?」
「ああ。でさ、オレの予想が正しければそこにあるの全部、セイナ草のはずなんだ。セイナ草以外は存在しないはずだから、ちょっと確認してみて欲しい」
「そうでなくとも鑑定はしますが……セイナ草だけ、なんですか? 本当に?」
「保証する。間違いなく100%セイナ草オンリーだ」
「うぅん……わかりました。とりあえず鑑定してみますね」
そう言うなり、エリカが受付カウンターに差し出した草に鑑定をかける受付嬢。
ちなみに、ギルドの受付嬢――特に冒険者ギルドと商人ギルドの受付嬢になるには鑑定系スキルの修得が絶対条件とされている。理由は言わずもがな。
やがて鑑定を終えたらしい受付嬢は、心底驚いたという表情で口に手をあてた。
「……信じられません。この目で見て、鑑定スキルで鑑定して、なお信じられません。何を――いったい何をしたら、こんな事が可能なんですか!?」
「セイナ草だったよな?」
「ええ。ひとつの混ざり物もありません。ただのひとつの例外もなく、ここにあるものは全てセイナ草です。鑑定系スキルでも使ったんですか!?」
「いいや? 使ったのは攻撃系魔法ひとつだけ。どうやってかは教えられないけど、攻撃系魔法ひとつだけを使って、セイナ草のみを採ってきたんだ。なあ、お嬢様?」
「うむ。正直、自分でやっておいて未だに信じ難いのだが、確かに攻撃系魔法ひとつのみを使って、セイナ草のみを採って来た形になるな」
嘘みたいな本当の話である。
というのも、ゾクタンでは、冒険者ギルドでセイナ草の納品を行う際には受付嬢に『根ごと引っこ抜いて持ってきてください』と説明される。
実際、そうしないと受付で受け取ってくれないし、どんだけ積み上げようが1ゼルにもしてくれないんだが、自分で調合するプレイヤーは話が違って、いかに簡単に短時間でセイナ草を必要分採取するかというのは散々に議論されてきた議題だったのである。
その界隈にはオレも身を置いていて、そうして考えに考えて行き着いた果てが『斬撃属性を持った魔法で一帯を薙ぎ払う』だったわけだ。
まあ、まさかドハマりするとは思わんかったけども。
偶然って怖いね?
「まあ、やり方はちょっと教えらんないけど、気が向いた時に納品するし、こっちのお嬢様に頼んでも一緒だからさ。あ、ちなみに今回のは全部お嬢様にやってくれ。オレは何もしてないんでね」
「わかりました。そのように――」
「待って欲しい。確かにセイナ草を採取したのは私だが、こうしてセイナ草ばかりを集めて来られたのは刹華殿がそのやり方を教えてくれたからだ。刹華殿に8で私が2といったところだろう。そのように処理してくれ」
「おいおい。冒険者としての活動資金は持っておくに越した事はねえんだから、お嬢様が持っとけよ。現時点でもオレより持ってないじゃねえか」
「刹華殿がホムラヤモリの素材を売ったからではないか! そもそも、金銭的には私は困ってはいないのだ。刹華殿よりランクも高く、旨みのある依頼はいくらでも受けられるし、トライセル侯爵家の者として最悪実家に泣きつけば良い。今後何かと入り用なはずの刹華殿が持っておくのが良いはずだ」
いちいち言う事が尤もなんだよな、エリカ。
んでも、オレは普通の冒険者には当てはまらないから、金銭的な心配は要らない。香燐のとこで鍛えたおかげで《鍛冶》スキルも生えたし、素材は自分で調達出来るしな。
大体、生産系スキルは粗方生やしてあるから、金銭的に困るような事はないんだな。ま、エリカはそれを知らんのだけども。
「いやいや。オレは別に武具屋に行く必要も、錬金屋に行く必要もないんだよ。そのへんのスキルは生やしてあるから、武具にもポーションにも困らないんだ。帰る時に話しただろ?」
「確かにそれは聞いたし、理解もしている。活動資金を持っておくに越した事はない、と言ったのは刹華殿ではないか。ならば、ランクの高い私よりランクの低い刹華殿の方が優先されるべきだろう」
「ランクなんかすぐに上げられるんだから、今ランクが低いのはあんまり関係ないだろ。オレは宿も世話になってるし、クロウだって置いてくれてる。こういうところで恩返しさせてくれよ」
「それこそ無用だ。そもそもそれは、私をあの者たちから救ってくれた恩返しという事で世話しているのだから、恩返しの恩返しでは意味がわからないだろう」
「や、それはそうかもしれないけど――」
「あ! の!」
もう我慢ならん! とでも言いたげな声色で、受付嬢が声をあげた。
「もう5対5で分けておきました。それから、受付カウンターは夫婦喧嘩をしてイチャつく場所ではないので、用が無ければ速やかに空けてください」
「イチャついてはいない。この分からず屋を説得しているのだ」
「別に恋愛感情もないしな。あと、分からず屋はそっちね」
「そういうのをやめてくださいって言ってるんですよ。なんなんですか? 日がな一日ここに座って、何十人もの冒険者の相手しているのに出会いがない私を殺したいんですか?」
受付嬢の切なる願いであった。――かどうかはわからないけど、今にも血涙を流しそうな顔だ。
誰だ。彼女をこんなにも追い詰めた奴は!
……オレですね。申し訳ない。
「や、そんなつもりは……なあ?」
「う、うむ。私とて出会いが無いのは同じ事だしな」
「何言ってるんですか。エリカさんはその気になればトライセル侯爵令嬢として縁談相手をいくらでも選べるじゃないですかバカにしてるんですかバカにしてるんですよねそうですよねあー私も男を選べる身分に生まれたかったなー」
「いや、それは……」
これは流石に相手が悪い。
ひと息で言い切ったあたりに、生半可な覚悟では触れられない狂気を感じる。
エリカや他の高ランク女性冒険者では、これに太刀打ちするのは無理だろう。
これだからこじらせた喪女は。
「まあ、なんだ、今後に期待って事で」
「刹華さんはどうなんですかエリカさんに恋愛感情がないなら私が立候補したっていいじゃないですかまったくエルバークにいる冒険者ときたらどいつもこいつも魅力に欠ける連中ばっかりで私の理想になんて1マイクロすら届かないのにコナ掛ける事だけは一人前でちょっとは自分磨きしたらどうなんですかねねぇそう思いませんか?」
「あー……まあ、冒険者ってのは大体そんなもんだしな。ちなみにオレは多分無理だと思うぜ? 別にエルバークに腰を落ち着けようとは思ってないしな。当面、余裕をもって生活出来るだけ稼いだら、この街とはおさらばだ」
そもそも、ここエルバークに来たのは冒険者登録とクロウたちを合法利用出来るようにするため以外の理由は無いしな。
ヴィルトーガ帝国よりはリスフィラ王国の方が、変なのに絡まれる確率は低いだろうなーなんて考えての事でもあった。まあ、変なのに絡まれはしなかったけど、変なのに絡まれてるお嬢様を助ける事にはなったか。
通りがかりで誰かを助けるなんて、前世じゃ考えられなかったな。
そういう場面に出くわす事もなかったし。
ま、のべつまくなしにレイプ魔だの強盗だのが現れてもらっても困るんだが。どう考えても治安終わってる。
「えっ。刹華さん、エルバークにずっといるわけじゃないんですか!?」
「うん。あんまこういう事言うと敵を作りそうで怖いんだけど、オレからしたらエルバークってあんま旨みないんだよな。ダンジョンがあるわけでも、特別貴重な素材になる魔物がいるでもないし」
所詮エルバークは辺境都市でしかない。
強いて言うなら、鬼人族の里に行く際の橋頭堡というか……まあ、仮の拠点になる程度か。
それ以外の旨みというと……ぶっちゃけちょっと思いつかない。いずれにせよ、ゾクタンのプレイヤーであったならば、誰もが一様に『エルバークには旨みがない』と評するだろう。
ここで働いてる受付嬢や別邸を構えるトライセル侯爵家には悪いが、結局のところ辺境は辺境でしかないというところかな。
「特段思い入れがなければ――そうだな……ラスタスで活動してた方が、冒険者としては旨みがあるだろ」
ラスタスはこのリスフィラ王国の北東に位置するダンジョン都市の名前だ。
街の中心にはダンジョンの入口のある広場が存在していて、それを囲むように冒険者ギルドだの各種商店だのが並んでいる。
ここエルバークから行くとなると、馬車を乗り継いで行くなら1ヶ月と1週間、馬に乗っての単独行なら3週間と少しってところか。クロウでも2週間前後くらいかな。
空を行けるなら、途中で休息を挟んでも3日もあれば着くんじゃねえかなぁ。
「うぐぐ……言いたい放題言ってくれますね……!」
「残念ながら事実だしな。まあでも、引退間近のロートルが適当に稼ぎながらのんびり暮らす分には、この街も悪くないだろ」
「刹華殿、もう少し歯に衣をだな……」
「ははは。でもな、お嬢様。そんなエルバークだから、お嬢様はトライセル侯爵に冒険者活動をやらせてもらえてるんだと思うぜ? これがラスタスなら、ふん縛ってでも家から出さなかっただろうな」
ラスタスは確かに旨い。
だが、ダンジョンは旨いばかりではない。
いつだってスタンピードの危険に晒されているし、ひとたびそれが始まれば誰も彼も無事では済まないだろう。
プレイヤーじゃないんだから。
だから例えば、かわいい自分の娘がどうしても冒険者をやりたいと言ったのなら、ラスタスではなくエルバークに活動の拠点を置けと言うだろう。
冒険者稼業はただでさえ危険と隣合わせで、普通の人々よりも死が近くにあるんだから。
トライセル侯爵家はエリカしか子供がいないはずだから、これでも苦渋の決断だったはずだ。
まあ、流石に1人だけはマズいと感じて、今頃2人目を仕込んでる最中かも知れないけど。
トライセルは侯爵家だし、エリカはどう見ても成人済(15歳以上)だし、嫡子が冒険者やってんのは貴族社会的にはアウトだしな。
あー、でもアレか? エルフが多くいるから、そういうところには寛容なのかね。長命種は種の繁栄とか存続の本能が薄いって聞くし、そういう意味で意外と困ってないのかも……?
トライセル侯爵家にエルフがいるなんて話は、ゾクタン時代にも聞いた事はないけども。
「……なあ。つかぬ事を訊くけど、トライセル侯爵家にエルフっていなかったよな?」
「うむ。我がトライセル侯爵家は純然たる人族の血筋のはずだ。もしかしたら大昔にはエルフや他の種族の血も入っていたやも知れんが、今となってはそれも薄れて久しいだろうな」
「だよな……」
「何か気になる事でもあるのか?」
「や、一人娘なのに好きにさせてんのはなんでなんだろうなーって。単純に疑問だっただけ」
「ああ、それか。私の母が元はトライセル侯爵家お抱えの冒険者でな。そのせいだろう」
トライセル侯爵夫人か。
残念ながらゾクタンでは、トライセル侯爵家はエリカとその名前だけが表に出ていて、それ以外に関してはわからない事ばかりだったんだよな……。
でも、そうか……冒険者上がりの母親だから、一人娘が冒険者稼業を許されてるのか。あわよくば結婚相手も見つけて来いって事なんだろうな……。
「トライセル侯爵は冒険者だった侯爵夫人を見初めたわけか」
「父も、母と一緒に冒険者をやっていた時期があったそうだ。当時はそれなりに鳴らした二人パーティだったらしい」
「……侯爵家の嫡男、なんだよな?」
「我が父は三男だな。上の2人の叔父上は、それぞれ商売や芸術の道に行っている」
「あー……別に長男が継ぐわけじゃないのか」
「いや、基本的には長男が継ぐものだぞ。少なくともリスフィラの貴族社会ではそうだ。叔父上たちは2人とも家を継ぎたがらなかったらしいからな。お鉢が我が父に回ってきたのだ」
苦笑するエリカ。
なるほどなぁ……そういう背景があるから、エリカも冒険者活動を許されてるのか。母親が冒険者だった事も手伝って、って事なんだろうな。
……貴族としてはだいぶ特殊だな?




