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再誕

どの程度描写するか悩みながら書いたので初投稿です。



 ホワイトアウトから明けると、オレは何やら温かい液体の中を漂っていた。

 人肌程度に温かく、どこか安心するような、ともすればいつまでも眠っていられそうな、そんな液体の中だ。


 はて、ここはどこだ?

 オレの予定では、今ごろはもう強くてニューゲームが始まっているはずなんだが。

 こんな温かい海の中で暢気に揺蕩っている、場合、じゃあ……。

 ……………温かい海?

 なんだ? 今オレはどこにいる? 視界がぼやけて何も見えないっていうかそれ以前に辺りが真っ暗過ぎて何も見えん。

 オレのゾクタン二周目は? 鬼神での二周目は? そもそも今オレはどこにいるんだ?


 ていうか、なんか身体の感覚がおかしいぞ。なんていうか、なんだろう……思ったより短い?

 あれ? オレ確か、種族鬼神の身長190cm近くのイケメンをクリエイトしたはずだよな?

 え? あれ? なんで? この感覚、胴長短足とかってレベルじゃないぞ? なんか身体も腕も脚も手もちっちゃいぞ? これはまるで……そう、赤ちゃんみたいだ。


 あれ、なんか嫌な予感する。

 …………えっ。まさか、そういう事なの?

 リアリティモードってつまり、そういうアレなの?

 ゲームを飛び越えてお前が鬼神として生まれ直すんだよ! お前が赤ちゃんになるんだよ! とかいうアレなの?

 ん? あれ? なんか温かい海、どっかに流れてない? ていうか温かい海じゃなくてこれ羊水? だとしたら、なんだ、破水か? オレの今生のオカンはもう既に臨月妊婦って事か? もう予定日なんか?


 あー……なんか身体が引っ張られる。羊水の流出先に行け行けって言われてるみたいだわ。赤ん坊としての本能ってヤツか?

 まあ、破水したからには出ていかないとな。羊水の中じゃないと赤ちゃんは……ね。いつまでもお母さんのお腹の中でとはいかんからね。

 えっと、とりあえず面倒はかけたくないから、逆子にならないようにしっかり頭向けといて、と。

 あっ、へその緒、首に巻き付いてたりしないよな? 前世のオレは母さんの腹ん中でへその緒首に巻き付けてて緊急帝王切開で生まれたらしいから、気を付けとかないと。

 まあ、気を付けたところで何ができるわけでもないんだけれども。


 あっ。あー、頭がだんだん進んできましたよぉ。

 関門たる子宮口を抜けて産道……というか膣にレッツゴー。

 いやぁ、狭いなぁ。もうギッチギチよ? こんなとこ通られたら、そら世の中のお母さんは痛いですわ。感情のままになんやかんや口走りますわ。


 お、なんか頭のてっぺんが涼しいぞ。

 誰がハゲだよ。生まれたてはみんなハゲだわ。いや誰がハゲやねん。

 あー、いいね。だんだん外の世界に出てきてますよー。音とか全然わかんないけど、肌に感じる涼しさでなんとなくわかるわ。

 ……そういえば、赤ちゃんって生まれてすぐに泣かないと色々心配させちゃうんだったな。息してないとか死んじゃったんじゃないかとか。

 正直この精神年齢で人前で泣くのはかなり抵抗があるんだが……背に腹は代えられないか。泣かないからって心肺蘇生されても困るしな。こっちゃ生きてんのに。


 おっ、全身が出ましたよー?

 よーし、ここだな? 泣くぞー?


「ほぎゃあ! ほぎゃあ!」


 こんなもんでどうでしょ。

 泣くってのも疲れるんだから、こんなところで勘弁してくださいな。

 あ、なんか抱かれてる感覚! 誰だろ、オカンかな? なんでもいいけど、温かくて安心するなぁ。


 ……おや? この、オレを抱いてる人以外の人が見当たらないぞ? 気配が全然ない。なんでだ?

 文化レベルにもよるが、産婆とか家族の誰かとかいてもいい気がするんだが。もしかしてオレの母親、村八分でも喰らってんの? 可哀想に……。

 まあでも、オレが生まれたからにはもうこの人は独りじゃなくなるわけで。


 ……さて。

 予定とは180度違う展開になってしまってはいるけど、どうせもう戻れないんだし、この人生を楽しむとしようか。

 なんと言っても結局はゾクタンの世界なんだしな。




    ◆




 それからしばらくの月日が流れて、オレも言葉を理解できるようにまで成長した。

 キャラクタークリエイトで作り上げたあの自分にはまだまだ遠いが、それと思うとこれがなかなかどうして楽しみなんだ。


 ところで、うちの母親は村八分を喰らっていたらしい。いや、現在進行形で喰らっている。

 理由に関しては母は何も語ってくれないのでわからないが、多分、大勢の反感を買うような何かをしてしまったんだろう。

 将来、オレもその煽りを受けるかも知れないが、古今東西、村八分の理由なんて大概どうでもいいような「お前なんでそれで村八分なの?」って感じの理由しかないので、対処はいくらでも出来る。

 それに何より、オレって鬼神だしな。数百年に一人生まれるか生まれないかの最強種族と知れば、他の連中もふざけた態度なんて取れないだろうさ。


 早く大人になりたいもんだなぁ……。


「――坊や、帰ったぞ」


 おっと、母がご帰宅なされたぞ。

 うちの母はどうやらシングルマザーらしいので、問答無用で兼業主婦だ。

 村八分のせいでオレをどこかに預けるという事が出来ないが、オレがビックリするほど手間のかからない子供だとわかってからは「では、行ってくるぞ」の一言を残して働きに出て行っている。

 内心不安だろうが、どうにもならないのだから仕方ないという感じだ。


「おぉ、坊や。ここにおったか。今日も大人しくしとったか? ん?」

「あい」

「そぉーかそぉーか! ふふふ。坊やが良い子で母は嬉しいぞ。ほら、母を呼んでおくれ」

「ぉ、かか……」

「それはおむすびの具じゃな」

「……かか、ぉ」

「チョコレートの原料じゃ」

「かか、たいしょー」

「大声で笑うことじゃな。……のう、坊や。前から思っておったんじゃが、随分意識がしっかりしとるの。ほんに子供かや?」


 ご想像にお任せしまーす。


「ふへっ!」

「おぉ? 笑って誤魔化すつもりじゃな? まったく、悪い子じゃなあ坊やは」

「えへへへへ」

「やれやれ、仕方のない子じゃ。まあよい。そろそろご飯にしようかの。坊やもお腹が空いたじゃろ」


 む……言われてみれば確かに。

 精神は成熟してる分、この、本当に子供の時分ってやることが無くて暇で暇で仕方ないんだよな。

 大抵は縁側に出て、日がな一日空を眺めてる。なんせそれくらいしかやることが無い。


「……それにしても。坊やのツノはいつになったら生えてくるんじゃろうなぁ? 坊やくらいの年には、儂ら鬼族ならば既に生えてきているはずじゃが……やはり、あやつとまぐわったのがダメだったのかの……」

「う?」

「すまぬな、坊や。儂がヒューマンとまぐわったばかりに、子たる坊やに要らぬ苦労をさせる事になりそうじゃ」

「かあ、しゃ」

「……ま、まあ、まったく生えてこぬというわけでもあるまいよ。普通儂ら鬼は二本角じゃが、一本くらいなら鬼とヒューマンのハーフにも生えてくるやもわからぬからな。必ずしも親の因果が子に報うわけでもなかろうよ」


 悲しげな顔で母はそう言い、オレの頭を撫でる。

 安心してくれ、母よ。いつになるかはわからないが、オレはこの額に三本のツノを生やす事になるからな。

 本来鬼神という種族はそういう種族らしいから、今しばらく待っていてくれ。……ホントは三本もツノいらないし、なんなら消したかったんだけどな。

 生えたツノ、引っ込めるとか出来ないかな。必要に応じて生やしたり仕舞ったり、みたいな。


「何はともあれ、元気に育っておくれ。それが今の母の願いよ」

「あい」

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