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セイナ草ってやつ



 エルバークに帰ったオレたちは、すぐに冒険者ギルドに向かい依頼完了の報告をした。

 ついでにメロウトレントを適当に割った木材を売却して、売上と報酬を折半。流石トレント種の木材だけあって、それなりの金額になった。


「ふむ……時間が空いたな」

「まあ、移動に時間がかかってないしな。普段はどれくらい依頼をこなしてるんだ?」

「目ぼしいものをひと通り受注して、あとは外に出ずっぱりだな。日帰り出来ても大体夕方から夜にかけての帰りになる。ちなみに、採取依頼と討伐依頼を同時に受けるのが基本になっているな」

「はー……なるほど、それで何度も行き来する事ないようにしてるわけか」

「うむ。とはいえ……今回は流石に想定外だったが」


 や、申し訳ない。

 なんせクロウってチート乗り物があるもんで。


 しかし、そうするとどうしよう。

 クロウを頼れば移動時間は格段に短縮されるわけだから、もう2つくらいは依頼をこなせるかも知れない。

 その場合は変わらず討伐依頼になるだろうけど。


 ……エルバーク観光でもするか?

 いや、流石にナシだな。

 ゾクタンの頃にさんざん見て回ったし、今更エルバークの観光なんかする必要ないしな。そもそも観光するにしてもそんなに大層なものはないし。


「んー……どうしたもんかな。なまじクロウがいるせいで、移動時間を勘定に入れる必要がないんだよな」

「贅沢な悩みだな。……おお、そうだ。刹華殿、セイナ草の採取に行くのはどうだろうか?」

「セイナ草か……」


 セイナ草は世界のほぼ全域に生息する草で、HP回復ポーション、MP回復ポーションの調合素材のひとつだ。

 これ単体で持っている効果は極微量のHPMP回復なんだが、他の調合素材でもってそのどちらかを際立たせて増幅し、それぞれのポーションになるというわけ。

 回復ポーションとして扱われるものには必ずこのセイナ草が調合素材として入るので、需要の増減がなくいつでも歓迎されて、それなりの値段で買取をしてもらえる割に買取価格にも変動がない、駆け出し冒険者にはたいへん優しい素材だ。


 ただ、このセイナ草、世界のほぼ全域に生息するとは言うものの見た目はそこらの雑草と変わらないので、駆け出しの冒険者が雑草とこれを区別するのはものすごく難しい。セイナ草だと思ったらなんてことはない雑草でした、なんてよくある話だ。

 そんでもって、雑草と見た目が変わらないのを利用して、セイナ草として雑草を摘んできて売るっていう詐欺もあった。


 まあ、セイナ草が雑草と変わらない見た目をしているっていうのは周知の事実なので、大体みんな鑑定系スキルを噛ませてたけども。

 上手いこと詐欺れなくて歯噛みした詐欺師が相当数いたとかいなかったとか。いやー、アホだよねぇ。


 ともかく。

 セイナ草を探すのは、なかなかどうして難しいものだ。

 ゾクタンのトップランカーたちをして、鑑定系スキルなしでは規定量の採取は難しい、と言わしめる難易度であるからして。


 オレ?

 オレは出来るとも。今も昔も、スキル《鑑定の魔眼》があるからね。

 なかったら? それは無理。うん。無茶を言うもんじゃない。そういうものじゃないんだよ、セイナ草っていうのは。わかるかい?


「お嬢様はセイナ草の目利きには覚えが……?」

「もちろん。これでも冒険者だからな。そこらの貴族子女よりはセイナ草を見分けられるとも」


 おっとぉ……? これはどう判断すればいいんだ?


 貴族子女は基本的にセイナ草なんか目にしないはずだから、そういう意味で言えば冒険者をやってるエリカはそこらの貴族子女よりも目利きが出来るだろう。

 だけども、それはあくまで調合先のポーションしか見た事がない貴族子女を基準に考えた話であって、冒険者を基準に考えた話じゃない。

 なんなら、エリカの中の基準が『自分と同じように冒険者をやっている貴族子女』になっている可能性も否めない。否めないあたりがやべぇんだけども。


 いやー…………どう判断したもんかな。

 顔は自信満々なんだよな……無駄に。

 いっそ踏み込んで訊いてみるか。


「ちなみに、同ランクの冒険者と比べたらどうなんだ?」

「バカにしてくれるな、刹華殿。私も冒険者をやって長いし、Cランクにまでは到達しているのだ」

「そうだよな。Cランクまで来てるんだし、セイナ草の目利きくらいは――」

「うむ。当然出来ないとも」

「よっしゃ、一発殴らせろクソお嬢様」


 なんだそのドヤ顔は。

 そんで、どっから出てきた自信だ。ん?

 その自信満々なドヤ顔の根拠を言ってみろ。


「よくそれでセイナ草を納品しようと思えたな。ん?」

「いや、トレント種の簡単な狩り方を知っている刹華殿ならば、セイナ草の見分けくらいはつくかと」

「……まあ、やってやれない事はないけども」


 これでもゾクタンのトッププレイヤーの自負があるんだ。セイナ草の目利きくらい、やってやれない事はないとも。

 それに、ヒューマンだった前世と違って鬼神の今世は魔眼スキルもある。セイナ草の目利きなんか、魔眼スキルに頼れば一発だ。

 だとしてもエリカ(お前)が自信満々なのは意味不明だけどね!


「ならば良いではないか。セイナ草はいくらあっても構わないのだし、刹華殿の活動資金を調達するにはちょうど良いだろう?」

「あー……まあ、確かになぁ……。ていうか、お嬢様、オレの活動資金の事なんか気にしてくれてんの?」

「命と貞操を守ってくれた恩人だからな。先達として、やれるところまでは面倒を見ると決めている」


 相談もナシに!?

 まあ、ありがたいんでいいんですけどね。


「でもアレよ? オレ、こっち来るまでの狩りで稼いだ素材売ったから、資金は割と潤沢よ?」

「む? ちなみに今、どのくらい持っているのだ?」

「ギルドに預けてるのが10万と、今もらった報酬や素材売却金額と合わせて……手持ちが20万と8000ゼルだな」

「…………おかしいな。私より金持ちだ」

「何言ってんだ。トライセル侯爵令嬢より金持ちな駆け出し冒険者がいてたまるか」

「いやまあ、それはそうなのだが。家を考えなければ、今の私よりも稼いでいるな、と」

「……ちなみに冒険者としての手持ちは?」

「手持ちは5万ゼル。ギルドに預けているのが18万ゼルだな」


 総計23万ゼル。……なるほどぉ。


「まあ、オレのはエルバーク周辺にはいない魔物の素材を売った結果だし、比較対象としてはありえない相手だろ」

「……まあ、そういう事にしておこう」


 そういう事にしておいて、どうか金輪際俎上に上げないでいただきたい。

 いやほんとに。


「しかし、そうすると私の気遣いは無駄だったか。駆け出しなのだし、稼いでおいて損はないと思っての事だったのだが……」

「んー……いや、行こうか。せっかくだから、鑑定系スキルなしでも出来るセイナ草の見分け方を教えるよ」

「そんなものがあるのか!?」

「実はあるんだ。んじゃ、行こう。どうせ時間も余ってる事だしな」


 セイナ草を筆頭とする一部の需要の途切れない素材に関しては、他の依頼同様にクエストボードに依頼が貼り出されず、常設依頼という扱いをされる。

 常設依頼は依頼書の貼り出しはないし、報酬金も存在しない。依頼書の貼り出しがないから受付で手続きをする必要もない。

 代わりに、当該素材を受付に直接持っていく事が出来て、買取額を1.3倍で計算してくれる。

 何が常設依頼になっているのかは受付で確認が出来るし、これだけでもランクアップに必要な実績にはなるので、駆け出しのFランク冒険者はとりあえずこれだけやってれば間違いがない。


 とはいえ問題はあって。

 それら需要の途切れない素材を仮に素材Aとすると、ものすごく似通った素材Bがあって、駆け出し冒険者ではAとBで区別がつかないんだな。

 冒険者としての目利きを鍛えるにはものすごく向いてるんだけど……正直気の毒になる。


「クロウ、行くぞー」


 冒険者ギルドを出てすぐ、伏せて待っていたクロウに声をかける。

 セイナ草の採取は近場で出来るし、クロウの脚を使う必要はないかな。どのみち時間はたっぷりあるしね。


「……やっぱエルバークって人多いよな?」


 エルバークの大通りを歩きながら、そんな事が口をついて出る。

 いや、本当に多いんだよ。辺境都市とはなんだったのか、って感じだ。


「辺境である、という事に目を瞑れば、エルバークはかなり住みやすい都市と言える。それ故、だろうな」

「住みやすい、ねぇ……。まあ、危険がいっぱいのダンジョン都市よりはマシか」

「うむ。故にこそ、我がトライセル家もここに別邸を構えているわけだからな」

「そんな理由だったのかよ」


 などと話しながら、エルバークの南門を抜ける。

 目の前に広がる長く延びた街道と草原。

 リスフィラ王国は大体どこ行ってもこんなもんだが、この先が国境だと思うと、さながら世界の果てに来たような気分になる。


「エルバークから出たわけだが、ここからどこに行くのだ?」

「どこにも? そのへんでもセイナ草はあるからな」

「…………それはつまり、この草原に生えているという事だろうか」

「そうだな」

「そうなのか……!? 私の目には、ただの草原にしか見えないのだが……」


 そりゃあただの草原だからな。


「ともかく、セイナ草の見分け方を教えてもらえるのだったな。どうすれば良いのだ?」

「うん。セイナ草の目利きというと、自分でその目を養うとか鑑定系のスキルを使うだとか、そういうのだよな?」

「うむ。恥ずかしながら、Cランクになった今もセイナ草の見分けはつかない。それでも雑草とセイナ草を見比べて特徴を掴もうとしているのだぞ……?」

「無駄だからやめとけ。見た目はマジで変わらないからな。にらめっこするだけ時間の無駄だ」


 現代日本の地方で外を歩いてると、地面からほぼ直線に伸びて先の方が重力によって垂れているような、そんな雑草を見かける事があると思う。

 セイナ草の見た目はまさにそれで、このゾクタンの世界においても上述の雑草は生えている事から、見分けがまったくつかないのだ。


 では、どうやれば見分けられるのか。


 実はセイナ草はスキル《斬撃耐性》を持っている。

 植物じゃないの? と思うかもしれないけど、植物でありながらスキルを持ってるという、不思議植物なんだ。

 で、そんなセイナ草は軽い斬撃なら耐えてしまう。

 具体的には、現代にあるような草刈機では斬れない程度の耐性。


 ここまで話せばあとはわかるだろう。

 そう! 斬撃属性のあるナニカで草を刈るのである。

 オレが試した限りでは、風属性魔法の《ウインドカッター》が一番効率が良かった。


 ちなみに、セイナ草の斬撃耐性はオレが見つけた。

 誰にも教えてやんなかったけど。


「お嬢様、魔法は?」

「四大属性はとりあえず使えるが……」

「おー、優秀。じゃ、ウインドカッター用意して」

「うむ」


 言われるがままにウインドカッターを準備するエリカ。

 緑色に可視化された弧を描く風の刃が、エリカの傍らで周囲の空気を乱す。


「そしたら、足下の草を刈るようにウインドカッターを射出」

「わかった」


 言うなり放たれたウインドカッターは地上スレスレを這うように進みながら草を刈り、大体30メートルほど進んだところで霧散した。

 草原には直線に道ができ、ちょいちょいウインドカッターに斬られなかった草が生えている。


「はい。あの斬れてない草が全部セイナ草です」

「…………は?」


 ま、そんな反応になるよね。

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