強面のヒゲ面のハゲとかいう属性過多
エルバークの街並みにきゅいきゅい騒がしい鎌鼬三姉妹と歩くことしばし、冒険者ギルドに到着するなり、叫び声が聞こえてきた。
『――何度も言っているだろう! 私が被害者だ!』
…………めんどくせぇなあ。
エリカは良くも悪くも直情型で、口は上手くない。
冒険者としての歴はそれなりだが、プレイヤーと接触する時点においても立ち回りに難があるので、正直冒険者なんかさっさと辞めて屋敷に篭ってる方がマシ。
どうせ今のだって、捕縛してあるはずのバカどもの口が上手いんでギルドの連中がそっちに引っ張られてんだ。エリカとは相性が悪い。
「それでも貴族かよって話なんだよな……。ま、行くけど」
どのみち冒険者登録は必要なので、冒険者ギルドの建物へ歩を進める。
入ってすぐに目に飛び込んできた光景は、予想通り、エリカVS強姦未遂犯たち&ギルドでたむろしてるアホどもだ。
「……クソが」
口の中でそう呟く。
こちらを認識して少し嬉しそうな表情になるエリカを一旦無視して、受付カウンターに立つ。
「冒険者登録を頼む」
「えっ――あ、はい、新規のご登録ですね。それでは、こちらの書類に名前と年齢をご記入いただいて、それからこちらの水晶に手を触れてください」
一瞬呆気にとられた受付嬢はすぐに我に返ると、カウンターの下から書類と水晶玉を出してきた。
書類には魔法的処理がしてあって、この水晶玉と併用する事で個々人の魔力パターンを記録し、ギルドカードに個人識別用データとしてインプット出来る――とか、確かそんな設定だったな。
魔力パターンを精査する段階でその時点でのレベルがギルド側にバレるので、スキル《隠蔽》などで誤魔化そうとしても無駄なんだよな。
とにかく、書類に名前と年齢を書いて、水晶玉に触れる。
水晶玉が大きく光を発したらもう終わり。あとはギルドカードを貰うだけだ。
「ありがとうございます。こちら、ギルドカードです。なるべく失くさないようにお願いしますが、万が一紛失した場合には50万ゼルで再発行が可能ですので、頭の片隅にでも置いておいてください」
ゼルはゾクタン世界の統一通貨単位だ。
さておき。
ギルドカードを貰ってインベントリにぶち込んだら、エリカに向き直る。
「あまり、芳しくないみたいだな」
「うむ……私が襲われたと言っているのだが、どうにも聞き入れてもらえんのだ」
「ま、あんたは口が上手くはないしな。なあ、受付のお姉さん。確か、ギルドカードの罰則歴のところは、リアルタイムで更新されるんだったよな?」
「あ、はい。確かに、ギルドカードの罰則歴は、その方が犯した犯罪行為について、罰則を受けたか否かに関わらずリアルタイムで更新がなされます。例えば、今エリカさんが主張しているように強姦行為が行われたのであれば、それはもうギルドカードに表示されているはずです」
「そうだよな。でさ、未遂に終わっただけの犯罪も表示されるんだったよな?」
「その通りです。仮に未遂に終わったとしても犯罪は犯罪ですし、王国法においては未遂であろうと罪は罪と判断されます。リスフィラ王国内の各ギルドも当然それに準じるものですので、いずれの場合であっても犯罪は犯罪です」
うん……この認識は、やっぱり間違ってないな。
「じゃあ、お姉さん。今そこで縄かけられてる連中のギルドカード、確認してもらえないかな。偽造や改竄は出来ないにせよ、中立的立場であるギルドの職員が確認した方が、色々と角が立たないだろうし」
「わかりました」
受付嬢は短く答えると、受付カウンターのこちら側にやってきて、絶賛捕縛中の男達の懐からギルドカードを取り出し――しばらく確認した後、口を開いた。
「ギルドカードに強姦未遂の表記があります。よって、この一件はエリカさんが全面的に正しく、彼らは犯罪者として扱われます」
淡々と事実だけを述べる受付嬢の言葉に、エリカと対立していた冒険者たちは狼狽える。
もしかしたら何かと世話になってたり、ちょっとやそっとでは切れない絆を結んでたりしたのかも知れないけど、残念ながら己の欲望を理性で制御出来なかった成れの果てがこいつらであるのは間違いないので、どうか諦めて欲しい。
「そりゃよかった。助けてくれって言うから助けたのに、くだらんバカどものせいで骨折り損になるとこだった」
「なんだと!?」
「なんだ、文句あんのか? もしかしてお前、こいつらと一緒になって犯罪の片棒担いでたりしないか? ギルドカードはきちんと確認しておけよ。世の中、悪い事してやろうってヤツはいくらでもいるんだからな」
突っかかってきた男にそう返してやると慌ててギルドカードを確認し、何もなかったのかホッと胸を撫で下ろしていた。
「受付のお姉さんも、わざわざ悪いね」
「いえ。これも仕事のうちですから」
「ところで、冒険者ギルドは素材の買取なんかもしてくれたよな? それ用の受付とかあるのか? それともここで?」
「量による、という答えになるでしょうか。魔物数体の素材の扱いであれば、ここでも可能です。10体以上となると……流石にここで処理をするのは他の冒険者さんの邪魔になってしまいますので」
「あー……ま、そうだよな。そういう時はどこに行けばいいんだ?」
「カウンター左手にあります扉から奥に行っていただくと、専用のカウンターがあります。担当者は少々強面ですが、仕事に間違いはないので信用いただけると」
「ありがとう。じゃ、早速行ってくるよ」
言われた通りにこちらから見て右奥の扉をくぐると、その先にはスキンヘッドにヒゲ面のオヤジのいるカウンターがあった。
ゾクタンの時はこんなんじゃなかったけど、ドアで仕切りがしてあるのは、高額買取になった時にそれを狙うヤツが現れないようにって策なのかもな。
「よう、兄ちゃん。こっちに来たって事は、相当量の素材があるわけだな?」
「ご明察。ま、ホムラヤモリの素材しかないけどね」
「ホムラヤモリだぁ? 兄ちゃん、登録はしたばっかりだろ?」
「ああ。冒険者登録したのは今日、ついさっきだな」
「だってのにホムラヤモリかよ?」
まあ、言いたい事はわかる。
ホムラヤモリってレベルは低いヤツでも70はある。
本当なら昨日今日冒険者になったようなヤツに倒せるはずのない魔物だ。
「オレは鬼人族だからな。雷鳴峠なんか庭みたいなもんさ」
「あぁ……兄ちゃん、鬼の里の生まれか」
「ちなみにホムラヤモリの素材はほとんど5年前に狩ったヤツのドロップだ」
「…………兄ちゃん、今いくつだ?」
「15だ。里からは今日出てきたばっかりだな」
そこまで言うと、係りの強面はフリーズした。
厳密にはローディング中かな。
「……………」
長ぇな、ダイヤルアップかよ。
光とは言わないから、せめてADSLくらいにならんもんかね。
「おーい。大丈夫か? 意識あるか?」
「――ハッ!? 今、15歳の男がホムラヤモリの素材を大量に持ってきた夢を見てたぜ……」
「現実だなぁ……」
「おう、兄ちゃん。ここにいるって事は素材の買取か。何を持ってきたんだ?」
「た、短期記憶障害……! だから、ホムラヤモリだって。現実逃避したいんだろうが、紛れもない現実だから諦めろって」
言いながら、今度は逃げられないようにインベントリからカウンターにホムラヤモリの素材を出す。
総数は自分でもちょっと覚えてない。なんせ5年も前の話だからな。
でも、目の前で燃えるような紅の爬虫類特有の表面に鱗のある皮が積み重ねられていくのを見るに、結構な数を狩っていたらしい。我ながらちょっと引く。
「……………」
「おい、それやめろ。いい年こいたオッサンが現実逃避してんじゃないよ」
「――ハッ!? おう、兄ちゃん」
「やめろっつってんだろ。しまいにゃぶん殴るぞ」
「いやスマン、ちょっと今までに見た事なかったもんだから動揺しちまってよ……。ま、でも、兄ちゃんみたいなのはたまにいるんだ。大体どっかで頭打ちになるが……稀にもっと強くなる奴もいる。兄ちゃんは――どっちだろうな?」
ニヤリ、と笑みを浮かべるヒゲ面のハゲ。
ベースが強面だからか、妙に似合っている。
「さてね。で、額は?」
「これなら、25万ゼルってところだな」
「んー……まあ、そんなもんか」
ま、所詮はホムラヤモリの素材か。あれで防具作っても炎熱耐性くらいしか付かないし、25万は比較的勉強してもらってる方だ。
「金はどうする? ギルドバンクに預けておく事も出来るが」
ギルドバンクとは、各種ギルドからアクセス出来る銀行の事だ。
実はゼルだけでなくアイテムなんかも預ける事が出来る。
まあ、インベントリがあればアイテム預ける必要ないんだけどね。
「とりあえず15万は持っておく。10万は預けといてくれ」
「わかった。そしたら、これが15万ゼルな」
ドンッ、と見た目通りの重たい音を響かせてカウンターに置かれる金貨の入った袋。それを受け取ってインベントリに。
「他に何か売っておきたいもんはあるか?」
「いや、今日のところはそれだけだ。ありがとう。折々、また来るよ」
「おう。贔屓にしてくれ」
今度はニカッと笑うヒゲハゲ。
ところで君、名前、ガラハドだったりしない?
ねんがんのアイスソードをてにいれたぞ、みたいな。
はいはい、ころうばころうば。
さておき。
笑顔が眩しいヒゲハゲに曖昧な笑みを返しておいて、ドアをくぐる。
んー……とりあえずやっておきたい事は終わったかなぁ。
ギルドだって登録が出来れば良かっただけだし、それは別にエルバークじゃなくても良かったし。あとは門衛のとこまで行って、改めてクロウを連れて入るくらいしかない……かな?
「刹華殿」
「おん? お嬢様、まだいたんだ? 下半身に脳みそ持ったバカどもとの事は終わったんだろ?」
「あ、ああ、まあな……。いや、それでだ。改めてお礼をしておきたくてな。この後、時間はあるだろうか?」
「まあ、あとは門衛のとこ行ってクロウを連れて来るくらいしかないけど。……ああ、どっか宿も探さないとな。クロウがいても問題ないとこ」
「それならば、我がトライセル家の屋敷はどうだろうか? 助けてもらった礼もしたいし、クロウくんのような大型の従魔がいても問題はない」
「……オレとしては有り難いことこの上ない話だが、いいのか?」
「問題ない。トライセル家の屋敷と言っても、要は別荘で、父や母がいるわけではないからな。いるのは私と、私の身の回りの世話をしてくれる使用人が数人というところだ」
おっと、こっちの懸念に気付かれてしまったか。
まあでも、そういう事なら特段拒否する理由もない。クロウが大きいんでどうしたもんかと思ってたが、これぞ渡りに船ってヤツだな。
「そういう事なら、世話になるよ。いきなり行って大丈夫か?」
「多少面喰らうかも知れないが、それくらいだろう。私のような人間についてくるような酔狂な使用人たちなのでな」
それはそう。
本来、エリカみたいな、令嬢でありながら剣士をやってる方が珍しいんだからな。それについてくる使用人といったら、よっぽどエリカを愛している使用人たちなんだろう。
ゾクタンの100万人を優に超えるプレイヤーをして『エリカの手綱は握れない』と言わしめたじゃじゃ馬なんだから、このエリカ・トライセルという少女は。




