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「ヒャッフー――――!」


 テンションぶち上げである。

 何がそんなにって、神狼よ、神狼。

 今オレは、零滅ノ神狼ことクロウの背に跨って、大地を疾走している。これがまた速ぇのなんのって。

 …………まあ、馬とかみたいに鞍や車があるわけじゃないから、STRに頼って脚でクロウの身体にしがみついてないとぶっ飛ばされるけど。時速? んまぁ……そうね、大体150くらい?

 ちなみに、リスフィラ王国を目指している。


 リスフィラ王国。またの名を緑の王国。

 開発されているところは開発されているものの自然も多く残り、王国全土に渡って肥沃な大地に恵まれているので大体が農耕地帯。

 その特性上エルフ族が多く存在しており、他の種族とも仲が良く、実際二代前の王妃はエルフだった。

 先代国王はエルフを娶りはしなかったので、現在の国王はエルフのクォーターにあたる。

 農耕が盛んなのはもちろんの事、魔導具開発も盛んで、世界に普及している魔導具シェアの7割がこのリスフィラ王国だ。


 余談だが、ゾクタンを初めてやるプレイヤーはこのリスフィラ王国を選ぶ事が多い。

 のんびりとした風土だし、初心者には合ってるかもね。


「んー……もうそろそろリスフィラの辺境に着く頃か。クロウ、スピード緩めて」


 オレの言葉にウォン! と返事をすると、ギャロップ状態から徐々にスピードを落として歩きへと移行してくれるクロウ。

 よーし、これでもうしがみついてる必要ないぞ。

 筋肉痛になるわ。


 さておき。

 オレの記憶が正しければ、もうすぐリスフィラ王国の南西の辺境都市エルバークに到着するはずだ。

 周りは牧歌的な平原と遠くに見える森林。いやはや、のどかで結構。


「この辺りまで来るとモンスターモブのレベルもちょっと控えめになって、過ごしやすくていいなぁ。な、クロウ?」


 クロウに話を振れば、返事をするように小さくウォフと鳴いてくれる。

 なんなら鎌鼬三姉妹もいるから、話し相手には事欠かないぜ。


 そうして、話を振る、ウォフウォフ、話を振る、ウォフウォフと繰り返していると、周りが平原から森林へと遷移していった。

 コンクリートジャングルもそれはそれで色々便利でいいんだけど、こういう自然のものもいいよなぁ。心が洗われるっていうかさ。


『キャアアアアアッ!!』


 そうそう。

 女の子っぽい悲鳴が聞こえてくるとか本当に――えっ、悲鳴?

 なんかこう、すごく事件性のある悲鳴だったけど……。ワンチャン動物の鳴き声ってセンも――


『誰かぁ!!』


 ないですね。はい。

 んもー、せっかく平和な風景だったのに、なんだってんだよ。


「クロウ、悲鳴が聞こえてきた方角に急げ」


 そうリクエストすれば、ウォン! とひと鳴きして駆け足になるクロウ。


 そうしてしばらくクロウの背に揺られていると、遠目に、後退りをする女の子とそれを追い詰める数人の男達の姿を確認出来た。

 めんどくさそうなシチュエーションだぁ……。


「――ん? うわっ! なんだぁ!?」


 男達のうちの一人がこちらに気付いてそんな声をあげる。

 なんだって言われても、鬼人族と狼ですけど。


「なんだテメェ!」

「なんだって言われてもなぁ……通りすがりの者ですけど」

「だったら早くどっか行けよ!」

「無理だろ。大体お前らこそなんなの。性犯罪者予備軍?」

「私の命を狙っている者です!」


 と女の子。

 そういえばこの女の子、どっかで見た覚えがあるんだよな……格好自体は冒険者のそれだけど、顔が……こう、どことなく見覚えがある。

 んー…………? もしかしてだけど――


「お前、トライセル侯爵家の人間か?」

「そうだ!」

「あー……なるほど。じゃあ、お前がエリカ・トライセルか。思い出せてよかった」


 エリカ・トライセル。

 リスフィラ王国のトライセル侯爵家の長女で、淑女教育よりも冒険者に魅力を感じてしまっているご令嬢。実際冒険者として活動してる。

 ゾクタンでは、とあるサブクエストの依頼主としてプレイヤーと接する事になる子だ。


「わ、私を、知っているのですか……!?」

「まあ、ちょっとね。――よいしょっと。じゃあクロウ、お兄さん達に遊んでもらっておいで。殺す一歩手前でやめとくんだぞ」


 クロウの背中から飛び降りて、刺客っぽい男達にけしかけてやる。


「バッ……! やめろ!」

「この、クソ犬うわあああああっ!!」


 男達に飛び掛かるクロウ。

 一瞬でパニックに陥る男達。

 それを唖然として見守るエリカ。


 ……なるほど、これがカオスか。


「それで? なんだってまた、こんな森の深い場所で襲われてたんだ?」

「……彼らは、エルバークで一緒になった冒険者だ。元々は彼らがここに来るクエストを受注していて、私はヘルプをして欲しいと言われて来たんだ」

「ところが、フタを開けてみれば身代金と若い女の身体目当てのクソどもだったわけだ」

「ああ。……どうか笑ってくれ。私は大して自衛も出来ない、バカな女だ」


 まったくその通りだ。

 ゾクタンでもお前は持ち前の正義感でトラブルを拾ってくるアホ女だったよ。

 わざわざそんな事言わないけどな。

 とはいえ、こいつに泣かされたプレイヤーは数知れず……。


「冒険者なんて、ギルドって管理団体がなけりゃ破落戸(ごろつき)の集まりだからな。気を付けろよ、お嬢様」

「肝に銘じておこう。ところで、そちらは……?」

「オレは刹華。鬼族の里、鬼灯の家の刹華だ。そっちのデカい狼はクロウ。オレがテイムしてる」

「鬼人族か……! にしては、角がないような?」

「普段は隠しておけるんだ。だから、見た目はヒューマンと変わんねえよ」

「なるほど! っと、改めて名乗らせていただこう。トライセル侯爵家長女、エリカ・トライセルだ。恥ずかしながら冒険者をやっている」


 本当に恥を知れお前は。

 ゾクタン時代のアレとかコレとか、言ってもしょうがないからわざわざ言わないけど、忘れねえからな。


「で、だ。クエストはフェイクで襲われかけて……この先はどうするんだ?」

「とりあえずエルバークに帰ろうかと」

「ま、そうか。アレはどうする?」


 ぽーん、ぽーんとクロウにお手玉されている男達を指して尋ねる。

 後ろ盾っていうか、裏で糸引いてるヤツはいなさそうだし、殺してしまっても問題なさそうだけど……連行した方がギルドに疑われないで済むか。


「どうする、とは……?」

「殺すか、ギルドに突き出すか。オレは直接被害を受けたわけじゃないし、どうするつもりもない。ただ、冒険者稼業に身をやつしているとはいえ、貴族家のお嬢様に手を出しかけた事は、十分処刑事由たり得ると思うが」

「つまり、私次第か」

「そうだな。……まあ、一旦エルバークに帰るでもいいと思うけど。ロープで縛ってクロウに引かせれば、多少地獄を見るでしょ」


 要するに市中引き回しの刑というヤツだ。

 もっとも、馬じゃなくて狼だし、最大でも時速70km前後が精一杯の馬と違ってクロウの速さはちょっとしたレーシングカーくらいはあるので、最悪途中で死ぬかも知れないけども。


「それでは死んでしまうのでは……?」

「まあ、そうだな。でも別に構わないだろ? どのみち、毒にはなっても薬にはならん奴らだし。それに貴族社会の女性は処女性が求められるわけで、強姦未遂に遭ったなんて知れたら、お前どうするつもりだ?」

「それはそうだが……どうせ私のような花より剣の女は貴族社会では必要とされない。父上や母上も、最初の頃こそ口出ししてきていたが、今となっては黙認しているからな。仮にここで処女を散らす羽目になったとしても、自業自得だと言われただろう」


 そう語る彼女の目にあったのは諦観だった。

 どこまでも諦めた目。

 どうせ自分の言い分は理解されない。それならば、どこでどんな目に遭おうと関係ない。

 そんなような目だ。


 ……やりづらいなぁ。

 お前ゾクタンじゃそんなキャラじゃなかったじゃん。

 そりゃあ確かに? オレがセンシティブな話題を振ったし? それに答えてくれてるだけってわかってるけど? いくらなんでもキャラ違い過ぎんか?


「――まあいいや。それで? 結局どうするんだ?」

「うむ……とりあえず連れて帰ろうと思う。彼らと私が一緒にエルバークを出たのは確認されているし、彼らだけ帰らないとなれば要らぬ嫌疑がかかりかねないのでな」


 然も有りなん。


「じゃ、やるか。クロウ、もういいぞ」


 そう呼びかけると、クロウは即座にオレのところにやってきて身を伏せた。

 その巨体の向こうでは重たいものが草地に落ちる音と共に『ぐえっ』という短いうめき声が聞こえた。


「さてさて……頼むから抵抗しないで、大人しく縄かけられてくれよ。そうすりゃ、とりあえずエルバークまでは五体満足で運んでやるから」


 と言いながら、クロウにさんざん遊ばれて抵抗する気力の消失したらしい男達に縄をかけていく。

 万が一にも移動中に死なないようにスキル《符術:守護》の符を男達に貼り付けておく。

 このスキルはVITバフを付与するものだが、符術スキルのバフスキルの中でも一番効果の弱いものになる。


 男達を縛ったロープの先はクロウに括り付ける――のではなく、オレが手に持っておく。

 両脚と持ち手に意識を割かないといけないけど……まあ、どうにかなるでしょ。死にゃしねえさ。たぶん。


「はい。じゃあ、お嬢様も乗って。死ぬ気で捕まってないと死ぬから、ちゃんと掴まっててな」

「うん。……うん? うん」


 今一体何を言われたんだろう? とでも言いたげな顔をしたエリカをクロウの背中に引っ張り上げてやる。そのまま彼女は両手をオレの腰に回した。

 ところで、タンデムをする時は運転者の腰を掴んだり腰に手を回したりするんじゃなくて、シート後方のバーを掴んだりするのが良いそうですよ? ま、クロウにそんなもんないけど。


「いいかな。じゃあクロウ、さっきみたいに道なりに頼む。なるべく急いで」


 と話しかければ、ウォン! と返事が返ってくる。

 それが耳に届く頃にはゼロから一気にトップスピードまで加速して、この森に入るまで歩いてた街道まで出て、エルバーク方面へダッシュ。

 ゼロヒャクが云々とかゼロヨンがどうこうじゃない。最初からクライマックス――じゃなくて、トップスピードだ。とんだ暴走車である。


 エルバークに着くまでこの腰に感じる腕が解かれない事を祈ろう。

 解かれた時は……諦めようね!

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