Next Birth Online
久しぶりに心機一転なので初投稿です。
よろしくお願いします。
【おめでとうございます! あなたが最初の攻略者です!】
目の前に浮かび上がるウインドウには、そんな事が書いてある。
少し透過された黒みの強いウインドウの向こう側では、およそ『RPGのラスボスってこんな感じだよね』という感じのモンスターが崩折れ、端のほうからサラサラと粒子になって消えていっていた。
「……っし。シナリオ全クリア」
ウインドウのテキストによって、ようやくラスボスを倒した実感が湧いてくる。
ここまで長かった……。いやほんとに。
「オレのゾクタンもここで一旦終わりか……」
ゾクタン。
正式名称をNext Birth Onlineというフルダイブ型のVRMMORPGである。
Next Birthから取ってゾクタン。
誰が最初に言い始めたかは知らない。
ゾクタンには、他のVRMMOタイトルとは一線を画す仕様がある。
最初、このゲームにログインする時にはキャラクタークリエイトで自分のアバターを作るのだが、そこから先、単なるプレイヤーとして街に放り出されるわけじゃない。
キャラクリが終了していよいよゲーム開始! となると、AIによって、クリエイトした自分の『最初の街に来るまでの人生』が設定されるのだ。
まあ、これはフレーバーでしかないので、それが設定されたからといってゲームプレイには直接は関わりはないのだが。
しかし、全く関係ないというわけでもない。
というのも、このバックストーリーの設定によってゲーム内に家族がいる事になるのだ。
バックストーリーの設定は、いくつかのアンケートに答えて、その答えをAIが計算に入れた上で組み上がる。
例えば、もの作りが好きだと答えれば、それをAIが拾い上げ、金細工師の家の子とか鍛冶師の子とかいうバックストーリーが付く。
場合によっては両親健在だったり片親だったり、はたまた両親は他界してて祖父母に育てられたとかいうバックストーリーになる事もある。
要するに、アバターに設定したキャラクターとしてこのゾクタンの世界に誕生し直すのである。
実際問題、生まれてから最初の街に来るまでのバックストーリーがしっかりと用意されているあたり大したものだ。
最初の街に来てからのストーリーは、全プレイヤー共通のストーリーを進めていく事になる。
キャラクタークリエイト時に選択した種族によって多少の差異はあるらしいが、基本的にはまったく同じストーリーのようだ。
そして、ストーリーを進めていってラスボスまで倒し切ると――
【シナリオを全て攻略したあなたは転生する事が出来ます。現在の種族のステータス成長補正、所持金、所持アイテム、倉庫のアイテムを引き継ぎ、新たにキャラクタークリエイトする事が可能です。転生しますか?】
――というポップアップが眼前に出てくる。
選択肢は『はい』か『いいえ』。
ここで『はい』を選べば、名前と種族を再選択し、アバターの細かい部分をいじり倒して『転生』する事が出来るという寸法だ。
逆に『いいえ』を選べば転生はせずに、このままラスボスのドロップ品を回収して今までのゾクタンライフに帰る事となる。
こういうシステムだ、というのは以前から公式にアナウンスがあったので、特段の驚きはない。
これまでのゾクタンライフで考えに考えた末に出した答え――『はい』を選択する。
【転生するにあたり、モードを選ぶ事が出来ます】
……おや?
「モード? そんなシステムの説明、公式にあったか?」
自他共に認める記憶力をフル稼働してみるが、どのタイミングにおいても公式からそんなアナウンスがあった事などない。
とすれば、これは一体どういう事なんだ……?
【モードには2種類あります。ひとつは、今までと同じほどほどの強さの敵とドロップ率のスタンダードモード。ひとつは、敵が強くなる代わりに獲得出来る経験値やアイテムドロップ率が上がったリアリティモード。どちらを選びますか?】
ふーむ……スタンダードとリアリティか……。
ま、ノーマルをクリアしたんだから次はハードでしょ。
という事でリアリティモードをぽちー。
【一度リアリティモードにすると二度と戻れません。それでも構いませんか?】
えぇ……? ここで再確認挟んでくるの? 随分とまあ、厳重な事だなぁ。
でもオレの決意は揺らがないぜ!
【それでは、リアリティモードに固定します。続いて、キャラクタークリエイトに入ります。お好きな名前、種族、外見、初期職業を選択してください】
そのポップアップが出ると共にオレの身体が光に包まれ、ラスボスとの戦闘の間から360度どこを見ても星が見える宇宙のような空間に転移した。
どうやら、ここでキャラクタークリエイトをしろという事のようだ。
最初と同じ真っ白い空間でやるのかと思ったら……なかなかいい演出じゃないか。
「そしたら……名前は本名でもいいか。どうせ本名っぽくない名前だし。種族は――あ?」
種族を選ぶ段になって、見慣れないものが現れた。
このゾクタンで選べる基本種族はヒューマン、エルフ、ドワーフ、ビースト、オーガの5種類のはずなのだが、眼前にはそれよりも遥かに多い――というより、詳細な種族名がずらりと並んでいた。
人間、エルフ、ドワーフ、オーガまではいい。
ビーストは細分化されたようで犬人、猫人、龍人などなどに分かれていて、追加種族なのか鬼とかハーフ○○とかもある。
「えー……こういうのされると迷っちゃうんだよなぁ……」
元々、最初のログインで名前を決める時も散々に悩んで決めたのだ。
選択肢が多いというのは、嬉しい反面ちょっと困る。
だってどれも魅力的だ。どんな見た目になるのか想像を絞れないのもある。
ゾクタンめ、まだこんなものを隠していたとは……。
「うーん、うーん……ん? なんだこれ?」
うんうん言いながら種族一覧を眺めていると、下の方に一風変わった種族名を見つけた。
それまでのどの種族とも違う、明らかにオーバースペックなのが期待されるその種族の名は――
「……『鬼神』かぁ」
種族名の横にあるインフォメーションボタンを押すと、種族詳細が別ウインドウで表示された。
――――――――――――――――――――――――――
【鬼神】
鬼族の中に数百年に一度あるかないか程度の確率で一人だけ生まれる。
強靭な肉体と類稀な術式適性を備え、物理魔法ともに隙がない。
また、視力も良く、あらゆる魔眼をその眼に宿す。
基本能力の高さ、成長率の高さからあらゆる職業に適性を持ち、どんな武具、道具でも十全に扱える。
主要武器は刀、弓、符。
――――――――――――――――――――――――――
「んなぁるほどぉ〜……? これにしよーっと」
どうせ強くてニューゲームなんだから、とことんまで強くなりたい。
これはもう鬼神一択でしょ。
「見た目はちょっとオーガに近いかな? 鬼がオーガに近いって事なんかね? えーっと、これをこうして、ここを変えて……」
めでたく種族も決まったので、あーでもないこーでもないと言いながらアバターの見た目をいじっていく。
鬼族の仲間という事でツノがあるのだが、これはあえて消してしまおう。……あれ、完全には消せないのか。しょうがねえな。
眼は……瞳孔は縦長で固定なのか。その代わり虹彩なんかはいじれる……と。縦長かぁ……それはそれでアリかな。
眼ぇそのまんまだとちょいと野性味が強いから、そこは顔立ちをいじってバランス取るか。どうせだしめいっぱいイケメンにして……と。
「こんなもんか?」
普通より僅かに短めの黒髪に真紅の瞳。
肌の色はヒューマンの通常色と同じだったので、ここには手を加えずに。
顔立ちは……我ながら、よくもこんなイケメンを作り上げたものだと思う。現実にいたらどんなアイドルやタレントもまず勝てないくらいだろう。カテゴライズするなら、ギリギリでワイルド系イケメンといったところ。
体型は長身痩躯で、しかし痩せすぎないくらいに筋肉質な身体。
もっと細かくいじりたくはあるが、これ以上やると流石にキリがなくなってしまうので断念。
早く遊びたいしな。
「……ん、よし! そしたら初期職業はこれにして……これで決定!」
【キャラクタークリエイトの完了を確認しました。この先、リアリティモードに入るともう二度と戻れません。本当の本当にリアリティモードで開始しますか?】
……随分と念入りだな。
「ん〜……ま、これでもしアニメやラノベみたいにゲームの世界に行くんだとしても、天涯孤独のオレには失うものなんか命くらいしかないし。リアリティモードでオッケー!」
最終確認の選択肢ももちろん『はい』をぽちー。
【最終選択を確認しました】
【Next Birth Onlineの世界へようこそ。これから始まるのはあなたの人生です】
そんな風に書かれたポップアップウインドウが閉じると、視界が一気にホワイトアウトしていった。
二度目のゾクタン、楽しむぞー!