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17.

 関係者全員が舞台の中心に集まる。

 さてさて。お待ちかねのリザルトタイムである。


 まず執事のヒューレンさんが口火を切る。


「では決闘前の約定に従い勝者のシュウ殿は、敗者のリリア様に『パシリ』を要求できます。間違いないですね?」


 ヒューレンさんの表情に若干の戸惑いが浮かんでいる。

 公式にパシリの要求をする機会なんて無いだろうから心中お察しする。


「ありません」

「――――ない、です」


 対戦相手の意気消沈っぷりが半端無い。

 だがそこで追撃の手を緩めてやるような愁傷な心は――――当然の如く――――持ち合わせていない。


「では要求するパシリの内容をどうぞ」


 全員の視線が集まる。


「ええ、簡単なお使いでも頼もうかと考えています」

「お使い、ですか?」

「ええ、そこの負けた御嬢さんに一つお遣いをお願いします」


 この時の為に事前に準備していた大銀貨をポケットから取り出す。


「?」

「まずお駄賃ですね、交通費にでもして下さい」


 お遣いの交通費としては高額に分類されるであろう額を手渡す。


「これを使って奴隷の売買所に行って下さい。それで自分を売ってきて下さい。それでそのお金を持って帰ってくる、または届けさせて下さい。以上です」

「――――」


 一瞬で場の空気が固まった。最初に復帰したのはイケメンお兄さんだったが


「そんなこと!!」

「その要求は承認できない」


 被せるように学院長が言葉を作る。その口調は硬い。


「なぜ?」

「その内容は君の言う『パシリ』から逸脱しているからです」

「いえいえ。あくまで私が要求しているのは『お遣い』であってそれ以上の意図はありません。よって要求は逸脱していないと愚慮いたします」

「本当にそんな要求が認められると思っているのですか?」

「思っているから申しております。

望むものが違うので相手への要求は互いに異なるでしょうが、その本質は対等だと考えます」

「どういうことだね?」

「つまりお互いに価値あるモノ、意味あるモノを賭けた、その結果でしょう?

片方の価値あるモノと、もう片方のゴミとならばそもそも決闘は必要ありません。

仮にリリア様が勝者だった場合、私はほぼ全裸で校庭を走った上で退学する羽目になった訳ですが、それを今リリア様に要求したらどうなります?」

「それは――――認められる訳がないでしょう」

「それはなぜ?」

「リリア君は女性です。そんなことを許す訳ないでしょう」

「じゃぁ男性なら許されると?」

「そういう事ではありません。大体、それを了承したのは君自身でしょう」

「そうです」

「だったら」

「ええ、だから『死以外の結果は全て容認する』のが私のスタンスです。命があって五体満足ならば再起は可能です。もちろん売られたのちに再起するのは相当運が必要でしょうが」

「――――」

「言ったでしょう?対等であると。私が認めるなら対等な彼女にもそれは当てはまります。もしそれが駄目であれば最初から拒否しておかなくてはならなかった」

「それは詭弁だ。そもそも君は平民、彼女は貴族だ。最初から対等であるはずがない!!」


 熱を帯びてくる口調に返す言葉はどこまでも冷めている。


「無論そんなことは分かっていますよ。だから武器も持たず不利な状況だったでしょう?ハンデという形でね。学院長の言う詭弁を通す為に」


 他にもその弁を補強する為にわざわざ最強装備で来るように布石を打った。さらには一試合目が終わったあとで、実質無料で二戦目を引き受けた。


 持たざる者が持っている者と同じ舞台に上がるには。越えねばならないハードルが多すぎる。


「もし逆の立場で彼女が私に勝利せしめると言うのなら話は変わりますが。試しますか?」


 学園の制服を着ただけの無手の彼女が、武器を持ち防具を揃えた自分と。

 そしてもし本当にやるなら次はルール無用(アルティメット)でやる事を提案してみようか。


「――――君は一体何が望みなんです?」

「望み?勘違いをして頂いては困ります。これはただの清算(リザルト)。不平等な立場、不平等な条件。それを踏み越えた先にあるジャイアント・キリングが偶発的に成されただけに過ぎません。勝者の権限に於いて、事前の契約により交わされた敗者の責務を執行して頂く。ただそれだけですよ」

「だが『その執行には学園長の承認が必要である』」

「では『適当な代案』をお願いします」


 相手の視線を真っ向から返す。


「――――リリア君の売却額を確認しその金額の一割増しを」

「却下」

「では二割増しで」

「お断りします」


 即断で拒否。そもそも


「お金が必要なら最初からそう言っていますから」

「いい加減にして下さい。君の無茶な要求は学院長として到底承認出来ない」

「それは困りましたね。学院長ともあろうものが生徒間の調停もできず、あまつ喧嘩別れになってしまうとは。本当に残念です」


 言えば相手が渋い顔を見せる。

 大変だねぇ、外聞と醜聞を気にするお貴族様は。


「こんなことを言いたくはありませんが、もし仮に君の要求が通ったとして。――――リリア君の実家が黙っていませんよ?」

「説得が無理なら今度は脅迫ですか?中々にウェットが効いていて私好みではありますが、それならそれで覚悟を決めましょう」


 相手がそれを望むなら、全力でそれに臨もう。

 後悔する暇もないくらいの絶望を。

 延々と続く苦役と共に。

 こんなお遊びで無い本物の生存闘争。

 生きるか、死ぬか。殺るか、殺られるか。

 もちろん自分が敗者になる可能性を忘れない。

 下らない意地を張って、無意味に骸を晒す。アホにはお似合いの結末だ。

 そう。つまり、それが、覚悟だ。

 結果に対しての権利とそれ以上の責任。


 男二人の睨み合いは唐突に終わる。

 第三者の介入により情けない声が響いた。

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