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05.

「やっほー、セリス。久しぶり」


 知り合いならではの気安い挨拶が交わされる。


「もうちょっと、受付らしい挨拶はないんですか?」


 ヤレヤレ口調のセリスさんだがその雰囲気は柔らかい。

 受付の女性がにゃははと笑い、こちらに視線を移す。


「お、そこの彼が例の少年かい?」

「ええ、活動拠点の変更申請をお願いします」

「オッケー、ちょっと待ってね」


 そう言って机の引き出しから書類の束を引っ張り出し、ペラペラと高速でめくっていく。

 その様子を何とは無く見遣る。


 受付の机には『ミリアム』と書かれた札がある。他の受付にも同じ札があったので名札だろうと推測する。

 歳はセリスさんと同じか少し上だろう。年下ということは無いと思う。つまり自分よりは確定的に年上だ。


 若干くすんだ赤髪をボブカットにし、それを仕事の邪魔にならないようにピンで止めている。

 特筆するほど特徴のある容姿はしておらず、それ故に親近感は湧きやすいのではないかな、などと聞きようによっては失礼なことを心の中で思う。

 セリスさんほどの美人だと小心者の自分では緊張――――とまでは言わないが、平生通りとはならない。

 そういった意味では、このミリアムさんは受付をする人間として中々にベストチョイスな気がする。


 まぁ四つ隣には綺麗なお姉さんが座っていたのを目敏く確認していたのでこの予測は的外れな気がしないでもない。

 やはりこういう職業柄、男の方が多いので人気の受付っぽい。今も他のカウンターが空いているにも関わらず列が出来てしまっている。

 多分、利用することはないだろう。

 逆に筋肉マッチョの厳ついオッサンのカウンターもあったが、人が並ぶ気配がまるでない。誰得なんだろうか。もしかしたら一部熱烈なファンが居るのかもしれない。


(…………居るのか?)


「お、コレコレ」


 はい、という言葉と共に一枚の紙を渡される。


「名前だけ書いてくれればいいよー、後はこっちで処理しとくから」

「分かりました」


 名前の記入欄に『シュウ』とだけ書いて、紙の向きを変えて提出する。


「お、礼儀正しい子だねー。感心、感心。あ、ギルドタグ貸して」

「どうぞ」


 首から掛けていたタグも一緒に渡す。


「ふーん。シュウ、ねぇ」


 初めて真面に目がかち合う。

 それに対し愛想笑いを浮かべてみる。


(すんげー値踏みされてる)


 ここまで無遠慮なのも珍しい。

 こちらとタグに記録された情報を交互に見ながら呟く。


「略歴はガスカル冒険者ギルド(ウチ)の西方支部三号支店でセリスの推薦により登録と。登録期間は一月未満。他は不明。歳は十五、かぁ」


 眉間に皺を寄せる。


「んー、まぁ様子見かなぁ…………」


 どういう意味?という無言の質問をセリスさんに送ると、同じく無言で分かりませんという答えが返って来た。


「よし、シュウ君。しばらくの間、君は依頼の受付、報告は私のカウンターで行う様に」

「構いませんけどなぜ?」

「まぁ、色々と大人の事情があるのだよ」


 ウンウンと一人納得している。なぜかそこに胡散臭い物を感じたので


「分かりました。善処します」

「善処します、じゃなくて必ずするんです。いいですか?」


(…………んー)


 何かこう、悪意では無いけど、善意以外の思惑が透けて見えてしまうのが腑に落ちない。

 別にそこを正直に話してくれれば納得するんだが、それを隠そうとした途端に警戒心が働いてしまう。

 という訳で少しつついてみよう。


「でも受付の方が正当な理由なくそれをギルドメンバーに強制する権利はありませんでしたよね?勿論私がギルドの規約を見落としている可能性もあるので、もしそういった規約があったのなら御教示頂ければ幸いです」

「う。そ、それは…………」


 目が泳いでますよ、ミリアムさん。


「あ、ありますとも!!正当な理由が!!」

「ほう、それはどんな?」

「それはですね、初心者(ビギナー)に対してのフォローアップです。固定の受付を通すことによって今後のより良い冒険者生活へのアドバイスをしたり、自分が想像していたのとは違った冒険者生活に対する悩みを迅速に解決する手助けをすることによってギルドへの定着率を増進するのが狙いなんです!!」


 どうだと言わんばかりの説明に胸を張るミリアムさん。


 うん、理由としては弱いものの納得出来ない話ではない。でもそれ建前ですよね?


 という訳で嘘発見器を発動させます。


「だ、そうですがセリスさんの時はそう言った身に覚えはありますか?」

「無かったと思うんですが…………」

「セリスはもうちょっと空気読もうよ!!ヒトが折角一生懸命考えたのにさ!!」


 『何を』考えたのかツッコむべきか、どうすべきか。

 すでに語るに落ちているこの漫才の落としどころを考える。


 え?勿論追撃するに決まってますよ?


「そもそも、ミリアムさんが受付に居なかった場合、私は依頼の受領、報告が出来なくなるじゃないですか」

「そ、そこは臨機応変にだね」

「であれば、善処することのどこに問題があるのでしょうか。またどの程度から独自に判断、解釈を加え裁量によって臨機応変に対応すればいいのか、その指針を御教示頂けますか?」

「くっ」


 ふははは。コイツ面倒臭いって気持ちが表面に現れてますよ、ミリアムさん。

 その程度の忍耐でこの厳しい受付業界を渡って行こうとは笑止千万。

 高みを目指すには修業がまるで足りんわ!!


 片や渋面。片や黒い笑顔。

 緊張した睨み合いの場。そこに鈴を転がすような笑い声が響いた。

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