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01.

「こんにちはー」

「いらっしゃいませ」


 笑顔で挨拶を返してくれるのは、顔馴染みになった受付の御嬢さんだ。


「ガスカル冒険者ギルド、西方支部三号支店へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 他の冒険者には毎回こんなに慇懃な挨拶はしていない。

 通い出してから早三週間以上。顔馴染みになる程度には通っているのに、変わらぬ丁寧な接客で好感が持てますね。正に受付嬢って感じがグッドです。


「買い取りをお願いします」


 言うと一瞬目元が引きつった気がするが、きっと気のせいだ。だって受付嬢だもの。


「畏まりました。ちなみに納品される品目は?」

「グローブウルフを少々」

「ま、またグローブウルフですかぁ?」

「はい。今日も沢山狩れましたよ」


 にっこり。


「ち、ちなみに具体的な数は如何程で?」

「んー」


 聞かれて記憶を辿る。

 あいつら馬鹿なのか無駄に襲い掛かってくる。いくらでも、と言葉を足せる程度には。

 なので数は数えていない。いないので――――


「三十くらい?」

「支店長!!」


 受付嬢が椅子を倒し、泣きながら奥へ引っ込んでいく。


(あーるぇー?)


 おっかしいなー。初日に五匹しか狩れなかった時でさえ、驚きと尊敬の眼差しだったのに。


 どうしてこうなった?


 すぐに四十過ぎくらいの男を連れて帰ってきた。

 その男の顔には、またお前かと言わんばかりのウンザリした表情を浮かべている。


「おっさん、ちーっす」


 馴れ馴れしい挨拶に男の顔が怒りで歪む、がすぐに諦めた顔で息を吐く。


「おい、クソボウズ。昨日、言ったよな? グローブウルフはどっかのバカが毎日大量に売りに出すから供給過剰だ。狩るのは控えろって」

「聞いた聞いた。でもすげーよな。グローブウルフをそんなに大量に狩って来るなんて。しかも毎日。俺もその実力にあやかりたいなー。なんて」


 生え際が後退しつつある額に、青筋が浮かぶ。


「ほう、聞いていたのにグローブウルフを三十も持ち込むたぁ、一体どう言う了見だぁ?」


 あぁン? とまるで路地裏にでも居そうなチンピラみたいに凄んでくる。


「だから控えてるだろ? 昨日は六十三、だったっけ? 半分以下じゃん?」

「それを世間一般じゃ大量って言うんだよ、知ってたか?」

「え、じゃあどっかのバカって、もしかして…………俺の事?」

「分かってやってるだろうが!!」


 目が血走って来たのを確認し、ここらが潮時かと改める。

 これ以上の漫才はヘイトが溜まるだけなので打ち止めにしよう。


 衝動的に吐きたくなる溜息を飲み込む。


「しょうがないだろ? 討伐指定種ってのは見かけたら狩るのが義務なんだろ? それを無視した結果、ギルドを追放になった奴の話は最初の説明の時に聞いたぞ?」

「物事には限度があるのを知らんのか? 手隙だったら極力狩ってくれよ、あんまり義務は無視し過ぎるなよ、てことだ」


 要はバランスってことだろ?分かってるけどさ。


「いつも通り、森の入り口で手隙だったのと余りにも大量に居るからそれを無視するのは『無視し過ぎ』に該当するのか判断が付かないんですけど?」

「…………そんなに大量に居るのか?」


 若干の嫌味を混ぜた言葉に返ってきた驚きに、今度は溜息を飲み込めなかった。


「それは一週間前から言ってるんだけどなぁ」


 大方、調子に乗った新人が大袈裟に言っている、その程度の認識だったのだろう。


(分かり合えないって悲しいねぇ)


 すでに隠す気の無くなった溜息を垂れ流す。


「別に狙って狩ってる訳じゃ無い。向こうが間断無く襲ってくるから仕方なくやってるんだ。今日だって半分くらいは威嚇だけで追い返してるんだぞ」


 それでも襲ってくるのはもう獣以下の知能だと思うんだ。

 いや、威嚇か通じる分まだギリギリ獣の体を保っているのだろうか、どーだろうか。


「噂が現実味を帯びてきやがったな」


 オッサンの苦みの掛かった呟きは上手く聞き取れず聞き返す。


「何?」

「クソガキには関係の無い話だ」

「残念。クソガキじゃなくてクソボウズだ」

「クソボウズにも関係の無い話だ」

「そーですかよ」


 大人はすぐそうやって子供を除け者にする。


(まぁ、いいけどね)


 守られているということなのだろう、多分。

 そう好意的に解釈しておいた方が精神衛生上好ましい。


「とりあえず査定はしておいてやる。明日からは森じゃなくて草原で草むしりでもやってろ」

「へいへい」


 投げ遣りに返してから建物から出ていく。

 査定は夕方には終わっているだろう。


 ――――終わってるよね?



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