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01. ある~日、森の中~

始まり、始まり

 いきなりで申し訳ないのだが、とても困ったことになっている。

 事の起こりは情けないことに不明だが、目が覚めてみたら森の中でした、テヘ☆


「…………」


 凹んだ、物凄い勢いで凹んだ。そして寒かった。

 キャラに似合わないことをすると『痛い』だけだということを身を持って実感した。


 話を戻そう。

 森の中で目を覚ますのも大概だが、そこは最悪ドッキリでいい。

 いや、よくは無い。よくは無いのだが現状において重要度はそこまで高くない。

 一番の問題は


(オレ)はだぁれ?」


 本日何度目かになる疑問を口に出せども、当然答えは返ってこない。当たり前だ、目が覚めてからずっと一人で森の中をうろついているのだから。


「…………」


 過去を深く思い出そうとする度に歩みが止まり、蹲る。

 身が竦むような悪寒は寒さからでなく自己の欠如による不安からだ。


「――――」


 歯を食いしばるように前を見る。

 森の景色を視界に入れて、休んでばかりはいられないと現実を直視させる。

 薄暗い森だが陽の光は入ってくる。まだ時間はある。

 森を抜けるか適当な場所を見繕わないと最悪、野宿だ。さらに食料の問題もある。


 大きく漠然とした不安から、それよりは小さく形のある不安に意識を向ける事で感情に逃げ道を作ってやる。

 そうしないと歩けなくなる。

 大きく深呼吸することで速くなった動悸を静め、再び歩き出す。


「リアル不審者とか、マジで笑えないんですけどもー」


 気を紛らわせるためにあえて声に出す。

 本人確認書類も無い、身分証明書も無い、金も無い。極めつけに記憶も無い。

 無い無い尽くしで泣きたくなる。

 あるのは腰のナイフのみ。

 一体どういうシチューエションなのかと、この状況に叩き込んだ奴に問い詰めたい。そんでもってぶん殴ってやりたい。

 しかもこのナイフ、果物ナイフとかいう可愛らしいものではなく肉厚で光沢の無い刃渡りが手の平よりも長い、どこの層へ需要が高いのか聞くのを躊躇う代物である。

 使い込んだ形跡も無く、新品同様。戦闘にも十分耐えれそうな、そう言った類の武器だ。


(…………ヤダなぁ)


 『戦闘に』とか『武器』なんて単語がすぐに思い浮かぶ脳味噌に、さっきとは別種の不安を覚える。

 何がトリガーになるのか分からない現状、深くは考えようにしながらも記憶喪失前の人物像に若干の懸念がある。

 どういった方向で『嫌』なのかは追々追及していくとして、少なくともそういう発想ができる程度には文化的な生活を送っていたのだろう、多分。

 しかし逆説的に考えるならば、文化的な生活を送っていたにも関わらず『戦闘』とか『武器』とかいう単語がすぐに浮かぶ程度には野蛮な文明に属していたのではないか。

 ただの武器マニアやミリタリーオタクという線も捨てきれないのだが、どっちがマシかは判断を保留にしたい。


 不毛な考えに大きく溜息を吐く。

 いい加減、喉が渇いてきたし腹も減ってきた。

 森の中なので探せば木の実くらいはあるかもしれないが、それを探し回るだけの気力が今はない。

 明確に現在地が分かっているのならばそれも有りだが、大絶賛迷子中の身の上ではさらに泥沼化するのは明白だ。

 という訳で体感時間を元に、影の方向を確認しながらおおよそで一定の方向に歩き続ける。

 何の道具もない現状、多少の方向のズレは目を瞑るしかないだろう。


 状況として、かなり詰み気味なところが辛い。

 ちなみに完全に詰むと死にます。死ねます。残念ながら。

 いっそのこと全部、夢だったらいいのになーと現実逃避してみるが抓った頬は痛いし、体の疲労は本物のようだ。


「マジでどーすっかなぁ」


 変わらない景色にも飽きてきたとき、今までとは明らかに違う音を耳が拾う。

 それは


「咆哮?」


 獣の、威嚇用ではない争う時に使う怒号だ。そして


「――――」


 ヒトの声と僅かな金属音。

 逡巡は一瞬。

 音の方へと駆け出す。

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