少女の願い
次の日、机に「死ね」「キモい」「ニヤケ男」の文字。
何事かと思ったら、僕の正体が男だということが、どこかからバレてしまっていたようだった。
クラスの女子から総スカンを食らってしまっているようだった。
話しかけても無視されてしまう。
そりゃまあ、何食わぬ顔で女子トイレに入ってしまって、体育の時間は何食わぬ顔をして女子と一緒に着替えをしたからな。
ポーカーフェイスにしたつもりだが、どこかでにやけ顔になっていたんだろうか。
自分の昨日一日の行いを振り返って反省してしまう。
そして、自分が生理2日目であることに気が付いた。
ナプキンの交換をしたいのだが、もしかして、女子トイレに入れてもらえなかったりするんだろうか。
ずーんと頭が重くなった。
リーゼント野郎木谷が近づいてくる。
「よう、元気がねえじゃねえか、ボサボサ女」
「うるさい。こっちはケンカする元気もないんだよ」
「フラフラじゃないか。大丈夫か?」
「大丈夫なわけねぇだろ。この野郎」
「そっか」
それだけ言葉を交わすとあっさりと去っていった。
いじめの一味ではないのだろうか。
僕はナプキンの交換のためにトイレに向かった。
個室から出てくると、5人の女子に囲まれて罵声を浴びせられた。
「きめぇんだよ、このオカマ男!」
「学校来んじゃねぇよ!」
これはやばい。
やばいんじゃないか。
このままでは、僕は、不登校になってしまいかねないと思った。
これを相談できる相手、相手はいないのか。
しかし、転校してきたばかりの僕には頼る相手もいなかった。
その日、家に帰ろうとした僕は、不良風の男子に用事だと言われ、強引に力づくで体育館裏に連れてこられてしまう。
「お前に恨みはないが、愛しの彼女に頼まれてね。ちょっとかわいがらせてもらうよ」
胸を力づくでもまれる。
痛い。こわい。女から見て男という生き物がこんな怖いものだとは思わなかった。
「ちょっと待たんか!こら!」
どこかから声が聞こえ、木谷達也が現れた。
「変な女がこっちに来いというから来てみたら、嫌がってるじゃないか!なんてひどいことしやがる!」
不良風の男はリーゼントに立ち向かうが、柔道風の投げ技で叩きこんだ。
「げほっ!げほっ!覚えてやがれ!」
不良は去っていった。
「大丈夫か?新崎」
「あ、ありがと」
「今日、元気なかったからずっと心配だったんだ。お前をいじめてくるやつがいたら、守ってやるから言ってくれよな」
胸が高鳴ってしまう。
いや、これでときめいたらホモではないか。
残念ながら、僕にはそのケはない。
しかし、こいつ意外といいところあるんじゃないか。
すっかり見直してしまった。
「ところで新崎。お願いがあるんだけど」
「なんだよ」
「パンツ見せてくれないか?」
「はあ?」
「いいだろ。ちょっとだけでいいからさ」
「なんだよ。ちょっといいところあるなと思ったのに。それが目当てだったのか?ふざけんじゃねえ!」
「どうですか?あの2人は」
未来からやってきた紳士は少女に尋ねた。
「まだ、歯車は噛み合っていないですけども、時間が過ぎたら、徐々にいい関係になっていきそうな予感はしますね」
「そうですか。良かったですねえ。」
「頑張ってね。パパとママ」
私の名前は木谷優里枝。
父「達也」と母「真琴」との間に生まれた。
2人が結婚しないと、私はこの世にはじめから存在しなかったことになる。
タイムマシンで未来から恋のキューピッドをしにやってきたのだ。
-完-