女であることを自覚させられる
「君たちに新しい友達を紹介する。黒板に名前を書いてくれ」
新崎真琴とチョークで字を書く。
先生に事情を説明した時に驚かれてしまったが、とりあえず、微妙に女の名前に変えて自己紹介することにしたのだ。
「新崎真琴といいます。〇×県から父の仕事の都合で転校してきました。慣れないことも多いですが、よろしくお願いします」
「かわいいじゃん。仲良くしようねー」
「えへへ。ありがとうございます」
「えっと、君の席は木谷達也くんの隣ね」
指を示された空席の隣を見ると、どこかで見かけた顔が。
「げっ!昭和のリーゼント野郎!」
「ボサボサ女!」
まさか、こいつとこんな形で再開するとは思わなかった。
つーんと僕は顔をそむけるとあっかんべーでやり返してきた。
転校生活初日、これでは思いやられる。
それにしても今日はなんだかお腹がいたいな。
家に帰ると当たり前のように優里枝が居座っていた。
母親はなぜか彼女を客人としてもてなしていた。
「お邪魔してます」
「あのなあ。こんな体になったせいで酷い目に遭ったんだぞ」
「内心ちょっと楽しんでるくせに」
兄弟かいとこのようにずいぶんと軽口をたたいてくる。
母ちゃんもなぜかそれを軽く受け流しているようだ。
い、痛い。お腹が痛い。僕はうずくまった。
「いつつつつつ」
「だ、大丈夫?」
「トイレ…トイレに行きたい」
ゆっくりと僕は立ち上がり、ふらふらになりながらトイレに向かった。
「血が、お股から血が出てるよ」
「体が赤ちゃんを産む準備ができたみたいね。はいナプキン。使い方をレクチャーするね」
優里枝は、女の子の体の仕組みを僕に親切に解説してくれた。
なぜ、ここまでして彼女は僕に意地悪、あるいは親切にしてくれるのだろうか。
未来人の思い付きのいたずらにしては手が込みすぎていた。
「くそう。絶対に男に戻って見せるからな。なぜ僕を女にしたか知らないけど」
そう言うと、なぜか優里枝はさみしそうな笑顔を僕に向けた。
なんなんだこの女は。
ふざけてるのかと思ったら、真面目くさった顔をしやがって。
何を企んでいるんだ。
だいたい、転校初日に女の子として紹介されてしまった以上は、ずっと女で通すしかない。
男とバレてしまったら、何を言われるかわかったもんではないか。
そして、その悪夢の予感は現実のものとなる。