2016年7月16日 10時21分
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懐中電灯と寮の部屋に備え付けのヘルメット、学科の作業着と安全靴を身にまとい、準備は万端だった。
「よしいくか!」
俺は電気学科で仲の良い友達、鈴木と山本と協力し、分厚い鉄のフタを持ち上げた。
第三高専の地下には広大な空間が広がっていて、すべての寮がトンネルでつながっているとのもっぱらの噂だった。
学寮生活も4年目に入り、いつかやりたいと思っていた地下探検の夢が遂に叶う!
「トイレの用具入れが入口なんて知らなかったよ。」
男子寮からの地下入り口の場所は、鈴木が先輩から教えてもらったらしい。
「女子寮にたどり着ければ激アツだよねぇ。」
「先輩は寮事務室まではいけたらしいよ。」
鈴木と山本もかなり乗り気だ。
ここから外に抜け出せるルートを見つければ、夜の点呼後も風紀委員や宿直の先生に見つからずに安全に夜抜けができるようになるかもしれない。
フタを開けると、下に1.5mくらい、幅1mほどの通路が南のほうに向かって伸びており、地面には上水か下水のパイプと、電力ケーブルがはっていた。
3人は慎重に中に入った後、他の寮生にバレないよう鉄のフタをもとに戻した。
「とりあえず南に進もう」
鈴木と山本を懐中電灯で照らすと、第三高専の校章入りの白いヘルメットが光を反射して目がくらんだ。
「沼津地下帝国開拓といきますか!」
鈴木が意気揚々と先陣をきって歩き出す。俺と山本も後に続く。
トンネル内はジメジメしており、やけに埃っぽかった。
「研究室の防塵マスク持ってくればよかったなあ。」
そんなことを話しながら歩いていると、前方で道が2手に分かれていた。
「先輩の情報通りだな。右に行けばテニスコートとか、講義棟とかの学校施設。左は寮事務室とか女子寮のほうにつながっているらしいよ。」
鈴木が先輩から聞いてきた情報を得意げに話す。
あまり時間が無いということで、俺たちは二手に分かれて地下を捜索することとした。
「グッパーであぶれたやつが一人で右の道な。」
鈴木の提案に俺と山本はうなずく。
絶対一人にはなりたくないと俺は思った。
探検好きのくせに俺はさみしがり屋で臆病だ。
「グッパで分っかれーましょ!」
案の定俺だけグーで、2人はパー。単独で右ルート探索が確定した。
「やっぱり滝内がひとりぼっちか。」
「ひとりになるのが好きだね。滝内君は!」
そんなに俺ってクラスで浮いているのかな。心底俺は傷ついた。
「何かあったら電話してよー!」
そう言い残して2人は左の道へ消えていった。
覚悟を決めて俺は右側に向き直り、歩を進め始める。
「とおーかいに!そびえて名ありー!!!」
俺は怖さを紛らわすため、第三高専の校歌を熱唱しながら早歩きで探索を開始した。
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≫てんこ【点呼】
寮生が門限までに帰っているか確かめる。朝晩の2回行われる。