2022年4月13日 18時10分
俺は治療のため、菖蒲ヶ池にある西日本電力静岡病院に搬送された。
人間ドックで何回か来たが、夜に来たのは初めてだ。
一応頭を打っているということで、検査のため金曜日までは入院することとなった。
コンコン
病室の扉をノックすると同時に配電1課の田口課長と技術営業2係の鈴本係長が入ってきた。
「おう優人ぉー。大丈夫かぁ?」
田口課長が心配そうな顔をして聞いてくる。
「女の子に助けられるなんて情けないじゃないですかぁ?」
鈴本係長はいつも通りの感じだ。
「すいません心配かけて。車もダメにしちゃって。ご迷惑をおかけします...」
「いいんだいいんだ。優人が無事でよかったよ。金曜までは休んでいいから。こっちのことは心配するな。」
「ありがとうございます。」
田口課長は皆に優しくて慕われている。評判の良い課長だ。
「月曜からは災害速報の報告書書いてもらうからな。時系列で整理しておいてよぉ。」
鈴本係長は面倒くさそうな顔をして俺に言う。
業務中にケガや事故をすると、災害速報として全社的に共有を行わなければならない。原因や対策も練らなければならず、かなり面倒くさい。
「はは、整理しておきます。」
苦笑いで俺は答える。
10分くらいさっきの出来事のことを話したのち、課長と係長は帰り支度を始めた。
「両親には無事だって連絡しておいたからな。これから来るんじゃないかな。」
「警備部の女の子に改めてお礼言っとくんだぞ。」
そう言い残して2人は去っていった。
一息ついて窓の外に目をやった。病室は地上8階にあるため、市街を一望できる。
街の中心部の高台には大きな洋館がそびえ立ち、ライトアップされて青色の光を放っている。
「テスラ館」と呼ばれるこの施設は、かの有名なニコラ・テスラが雷獣研究のために建てた洋館で、今は雷獣研究の歴史や天須羅市の歴史を展示した西日本電力のPR施設となっている。
俺の住む西日本電力掛川寮もテスラ館の敷地内に建っており、館の東隣にある白い三階建ての建物がそうだ。
掛川寮の名前の由来は、なんでも昔は「掛川城」というお城だったらしく、明治4年の廃城とともにニコラ・テスラによって洋館に建て替えられたらしい。
その流れをくんでかは知らないが、テスラ館周辺は掛川という地名がついている。
俺はぼーっとしながら、天須羅市の夜景を眺めていた。
≫二コラ・テスラ
19世紀中期から20世紀中期の電気技師、発明家である。日本にしか存在しない雷獣に興味を持ち、明治時代の始めに来日。その後の雷獣研究により世界にとって大きな技術発展をもたらした。電気や電磁波を用いる技術の歴史を語る上で重要な人物であり、磁束密度の単位「テスラ」としてその名を残している。