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雷獣  作者: ごーまるな
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2022年4月13日 16時40分

彼女の助けで横転した車から抜け出した俺は、車両に寄り掛かるようにして座り込んだ。


「はいこれ、止血してください。」


隣に座り込んだ竹下は俺にハンカチを渡す。


「ありがとうございます。」


西日本電力のロゴが書かれたハンカチを俺は額に当てる。

汚したハンカチは新しくして返さないとな。そんなことを考える。

数十秒間の沈黙ののち、竹下は口を開いた。


「滝内さんは、何年度入社なんですか?」


彼女の顔を見ると意外と若い。同年代くらいかなと思いながら質問に答える。


「2018年度入社です。なので今年で5年目ですね。」


私と一緒だ!と言い竹下は笑う。


「高卒入社?それとも大卒?」

「それが高専卒入社なんですよ。」

「え!?私も高専入社!タメじゃん!」


竹下は嬉しそうに答える。

高専卒は数が少ないため、それだけで仲良くなる傾向がある。

よく見ると竹下は目がぱっちりで小柄で、俺のドタイプだ。ヘルメットを取った姿を見てみたいと思った。


「どこの高専だったの?」

「第三高専です。沼津にある。」


第三高専という言葉を聞き、彼女の顔が曇る。


「あの雷獣災害大丈夫でした?」


この質問は入社面接から始まり、同期や先輩からも何度も聞かれてきた。


「研究室の仲間が目の前で食べられて...。俺は間一髪で地下に逃げてギリギリ助かったんです。」


彼女は顔をしかめ、隣で死んでいる雷獣を睨みつけながら口を開く。


「私も当時第五高専にいた。」


その言葉を聞いて俺は驚いた。


2016年10月。東海地震によるアース鉄塔倒壊に伴い、富士山周辺に生息していた雷獣が静岡県東部地区に襲い掛かった。当時の電力公社の対雷獣職員と自衛隊で必死の封じ込め作戦を行ったが、裾野に急造で建てたアース鉄塔内に封じ込めるのが精いっぱいで、死者行方不明者も大勢出た。


第五高専はかつて御殿場にあった高専で、雷獣災害でほとんどの学生が犠牲になったと聞いていた。

今や御殿場は新しく作られたアース鉄塔の中にあり、地図からも消されている。


「クラスメイトも...家族も...みんな失った。身寄りがないんだよね私。」


なんと言葉を返せばよいのか分からなかった。

彼女は俺なんかよりも、ずっと辛い経験をしてきたのだろう。


「だから被災者枠で私を拾ってくれた電力公社には感謝してる。」


2019年4月。電力公社は東日本電力と西日本電力の2つに分割民営化した。アース鉄塔の管理体制や初動の遅さに国民から相当な非難を受けたこともあるのだろう。


「それに私、電力公社のSGに助けてもらわなかったら、あそこで死んでいたと思う。」


電力公社のSGがいなかったら、死者数は2倍以上出ていたただろうし、沼津にも住めなくなっていただろうと俺も思う。


「私は雷獣で苦しむ人を1人でも減らしたい。だから警備部を志願したんだ。」


遠くからサイレンの音が近づいてくる。救急車やら西日本電力の緊急車両、警察車両といったところだろう。

彼女は立ち上がり、俺の方に向き直る。


「あなたを助けれて本当に良かった!」


俺は彼女に惚れていた。

≫こうせん【高専】

高等専門学校の略で、高校3年と短期大学2年が一緒になった5年制の学校のことである。主人公の通っていた第三高専は工業系、竹下の通っていた第五高専は心理教育系と、さまざまなジャンルの高専があり、全国に125ヵ所存在する。

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