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雷獣  作者: ごーまるな
18/34

2016年10月13日 10時24分

「班長、生存者です!」

「大丈夫ですか?今出しますからね。」


気がつくと美由は瓦礫の中に埋もれていた。

上から手が伸びてきて、引っ張り出される。


ザー

-こちら浜松警備6、第五高専にて生存者を1名発見。32班で護衛して裾野の防衛線まで撤退します。

-警備司令了解。最後の生存者とする。速やかに撤退せよ。


「よく頑張ったね。もう少しの辛抱よ。」


女性に手助けされながら、美由は歩き出す。


「電力公社の白瀬です。あなたを安全な場所まで送り届けます。」


周りを見ると、武器を構えた女性が他に3人居た。ヘルメットには電力公社のマーク。背中には「浜松電力管区」と書かれている。


「班長!前方よりカテゴリー1が2匹飛来!」

「寺田、中山、地絡剣用意!」


美由を抱えた女性が叫ぶ。

名前を呼ばれた2人が黒い剣を取り出して構える。


「私は生存者を車に。内海はフォロー!」

「走るわよ。」


そう言われて美由はよろよろと走り出す。後方で剣撃の音が聞こえる。

校庭に停めてあるジープに美由と白瀬、内海が乗り込む。


「寺田と中山を回収後、裾野防衛線まで撤退。」

「了解!」


内海は応答し、エンジンを始動して車を発進させる。

部室棟前では電力公社のSGが2人、手を振っていた。横には雷獣の死骸が2匹転がっている。


「寺田、中山無事か?」

「白瀬班長のしごきに比べればどうってことないですよ。」


寺田と中山を乗せ、ジープは南に向かって全速力で走る。


御殿場市街は破壊され、炎に包まれていた。

萩原(はぎわら)の交差点を左折し、国道246号線に入る。

国道246号線には横転した車や、乗り捨てられた車が散乱していた。

隙間を縫うようにジープは走っていく。


ザー

-浜松警備6、こちら統合警備司令!浜松32班無事か?応答せよ!


車載無線に白瀬班長は応答する。


-こちら浜松警備6、32班全員無事。国道246号線より裾野防衛線に進入予定です。

-警備司令了解。よく無事だった。


「もうすぐ着くわ。」


励ますように、白瀬班長は美由に声を掛ける。


「他にも生存者はいなかったんですか?」


美由が尋ねると、白瀬班長は悲しそうな顔をして首を振る。


「御殿場の人たちは、ほとんど行方不明だそうよ。あなたの高専でも助けれたのは数人程度。私達の力不足だわ。ごめんなさい。」

「そんな...。」


美由は絶句した。近くに住む両親と姉は無事だろうか。


「両親と姉も御殿場にいるんです!なんとか安否を確かめれませんか!友達も...!」

「とりあえず、沼津の避難所に行ってみて。逃げてきた人達はそこに集まってるらしいから。」


前方に自衛隊の戦闘車両と、有刺鉄線が見えてきた。


「着いたわよ。もう大丈夫。この先の雷獣はすでに殲滅(せんめつ)しているわ。」


ほっとしている暇は無かった。早く沼津の避難に行かないと。


「あなた名前は?」


そういえば自己紹介をしていなかった。


「美由...竹下美由です。助けてくれてありがとうございました。」

「当然の職務よ。」


ジープが停止して、美由と4人のSGは降車する。


「あそこに救護テントがあるわ。怪我を診てもらいなさい。」

「いえ、沼津の避難所に行ってみようと思います。」

「分かったわ。駅前から避難バスが出てるはず。利用するといいわ。」

「ありがとうございます。」


白瀬班長に会釈してその場を立ち去る。

美由は裾野駅までの道を急いだ。


............


第三高等専門学校は臨時の避難所として解放されていた。

校舎前の掲示板には探し人の一覧が載っている。

両親と姉の名前を探すが、一覧には無い。


家族を探して高専内を彷徨う。


体育館は遺体安置所となっていた。雷獣に襲われて酷い状態になった遺体たちが寝かされている。


私は確かにあの時雷獣と相対(あいたい)した。普通なら喰い殺されていただろう。


「なんで助かったんだろう私...。」


ふと隣で泣いている男の子に目がいった。

1つの遺体の前に(ひざま)ずいている。


「畜生...山本...鈴木...なんで...なんで...!」


ボロボロの作業服を着用し、額からは血を流していた。メガネをかけているが割れている。

目からは大粒の涙をこぼし、遺体の手を握っている。

歳は同い年くらいだ。第三高専の学生なのだろうか。


美由の目からも涙が溢れ出す。


「お父さん...お母さん...姉ちゃん...茜...未来...由紀...うわーん!」


その姿に釣られて美由も泣いてしまった。


............

≫はままつでんりょくかんく【浜松電力管区】

日本電力公社の中部支社管内の管区の一つ。雷獣災害に伴い、沼津電力管区の応援として派遣された。

静岡県内は他にも天須羅電力管区、静岡電力管区、富士電力管区、伊豆電力管区が存在した。

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