2016年10月13日 10時24分
「班長、生存者です!」
「大丈夫ですか?今出しますからね。」
気がつくと美由は瓦礫の中に埋もれていた。
上から手が伸びてきて、引っ張り出される。
ザー
-こちら浜松警備6、第五高専にて生存者を1名発見。32班で護衛して裾野の防衛線まで撤退します。
-警備司令了解。最後の生存者とする。速やかに撤退せよ。
「よく頑張ったね。もう少しの辛抱よ。」
女性に手助けされながら、美由は歩き出す。
「電力公社の白瀬です。あなたを安全な場所まで送り届けます。」
周りを見ると、武器を構えた女性が他に3人居た。ヘルメットには電力公社のマーク。背中には「浜松電力管区」と書かれている。
「班長!前方よりカテゴリー1が2匹飛来!」
「寺田、中山、地絡剣用意!」
美由を抱えた女性が叫ぶ。
名前を呼ばれた2人が黒い剣を取り出して構える。
「私は生存者を車に。内海はフォロー!」
「走るわよ。」
そう言われて美由はよろよろと走り出す。後方で剣撃の音が聞こえる。
校庭に停めてあるジープに美由と白瀬、内海が乗り込む。
「寺田と中山を回収後、裾野防衛線まで撤退。」
「了解!」
内海は応答し、エンジンを始動して車を発進させる。
部室棟前では電力公社のSGが2人、手を振っていた。横には雷獣の死骸が2匹転がっている。
「寺田、中山無事か?」
「白瀬班長のしごきに比べればどうってことないですよ。」
寺田と中山を乗せ、ジープは南に向かって全速力で走る。
御殿場市街は破壊され、炎に包まれていた。
萩原の交差点を左折し、国道246号線に入る。
国道246号線には横転した車や、乗り捨てられた車が散乱していた。
隙間を縫うようにジープは走っていく。
ザー
-浜松警備6、こちら統合警備司令!浜松32班無事か?応答せよ!
車載無線に白瀬班長は応答する。
-こちら浜松警備6、32班全員無事。国道246号線より裾野防衛線に進入予定です。
-警備司令了解。よく無事だった。
「もうすぐ着くわ。」
励ますように、白瀬班長は美由に声を掛ける。
「他にも生存者はいなかったんですか?」
美由が尋ねると、白瀬班長は悲しそうな顔をして首を振る。
「御殿場の人たちは、ほとんど行方不明だそうよ。あなたの高専でも助けれたのは数人程度。私達の力不足だわ。ごめんなさい。」
「そんな...。」
美由は絶句した。近くに住む両親と姉は無事だろうか。
「両親と姉も御殿場にいるんです!なんとか安否を確かめれませんか!友達も...!」
「とりあえず、沼津の避難所に行ってみて。逃げてきた人達はそこに集まってるらしいから。」
前方に自衛隊の戦闘車両と、有刺鉄線が見えてきた。
「着いたわよ。もう大丈夫。この先の雷獣はすでに殲滅しているわ。」
ほっとしている暇は無かった。早く沼津の避難に行かないと。
「あなた名前は?」
そういえば自己紹介をしていなかった。
「美由...竹下美由です。助けてくれてありがとうございました。」
「当然の職務よ。」
ジープが停止して、美由と4人のSGは降車する。
「あそこに救護テントがあるわ。怪我を診てもらいなさい。」
「いえ、沼津の避難所に行ってみようと思います。」
「分かったわ。駅前から避難バスが出てるはず。利用するといいわ。」
「ありがとうございます。」
白瀬班長に会釈してその場を立ち去る。
美由は裾野駅までの道を急いだ。
............
第三高等専門学校は臨時の避難所として解放されていた。
校舎前の掲示板には探し人の一覧が載っている。
両親と姉の名前を探すが、一覧には無い。
家族を探して高専内を彷徨う。
体育館は遺体安置所となっていた。雷獣に襲われて酷い状態になった遺体たちが寝かされている。
私は確かにあの時雷獣と相対した。普通なら喰い殺されていただろう。
「なんで助かったんだろう私...。」
ふと隣で泣いている男の子に目がいった。
1つの遺体の前に跪ずいている。
「畜生...山本...鈴木...なんで...なんで...!」
ボロボロの作業服を着用し、額からは血を流していた。メガネをかけているが割れている。
目からは大粒の涙をこぼし、遺体の手を握っている。
歳は同い年くらいだ。第三高専の学生なのだろうか。
美由の目からも涙が溢れ出す。
「お父さん...お母さん...姉ちゃん...茜...未来...由紀...うわーん!」
その姿に釣られて美由も泣いてしまった。
............
≫はままつでんりょくかんく【浜松電力管区】
日本電力公社の中部支社管内の管区の一つ。雷獣災害に伴い、沼津電力管区の応援として派遣された。
静岡県内は他にも天須羅電力管区、静岡電力管区、富士電力管区、伊豆電力管区が存在した。