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雷獣  作者: ごーまるな
17/34

2016年10月12日 13時50分

............


雷獣が襲来したときは、地震の避難で校庭に出ていた。

大きな地震であったが、静岡県の建物は耐震対策がなされていて、第五高専の建物にはあまり被害が無かった。


遠くを眺めていた教員が何かを見つけて叫ぶ。


「おい!あれ!富士山の方!」


目を凝らすと、遠くから飛来する黒い点々の群れが見えた。

何百匹もいるであろう雷獣の群れが、こちらに向かって来ていた。


「みんな逃げろ!屋内だ急げ!」


誰かがそう叫んで、皆一斉に屋内に駆け込んだ。


美由と友達3人は部室棟に逃げ込んだ。

とりあえず剣道部室に避難して窓を閉め切りカーテンを閉め、施錠する。


「よし。みんな居るね。窓からは離れてじっとしてよう。」


部長の(あかね)はこんな時でも冷静だ。


「大丈夫。もうすぐ、自衛隊と電力公社が助けに来てくれるよ。」


茜がピンク色の腕時計に目をやりながら言う。


御殿場には自衛隊の駐屯地と電力公社の監視所があり、侵入してきた雷獣にすぐさま対処出来るようになっている。

5分で駆けつける。そんな謳い文句で市民を安心させていた。


「クラスのみんなうまく逃げたかな。」


未来(みく)が心配そうな顔をする。メガネの奥の目はとても心配そうだ。


「外にいなければ大丈夫だよ。きっと...。」


由紀(ゆき)は自分に言い聞かせるように言う。手にはお守りだと言うホイッスルを握りしめている。


外からは緊急車両のサイレンやヘリコプターの音、人の悲鳴が聞こえてきて聞くに耐えない。


「大丈夫。きっと助かる...。」


美由達はしゃがみ込んで耳を塞ぎじっとしていた。


3人は入学当初から意気投合し、ずっとつるんでいた大切な友達だった。学科も同じで部活も同じで4年間過ごしてきたため、何も言わなくてもお互いの考えが分かるところまで来ていた。


今まで4人で色んな困難を乗り越えてきた。厳しい新入生イビリも皆で励まし合って乗り越えたし、60点赤点の定期試験も皆で徹夜で勉強して及第点をとってきた。公認心理士の国家試験も皆で力を合わせて勉強し、つい先日全員合格することができた。


今回の災害も皆で乗り越えられる。そう信じていた。


「ひっ!」


窓の方を見ていた未来が声を上げる。

窓を見るとカーテンの先に、黒い影が見える。


茜が人差し指をたて、喋らないよう皆に促す。


皆は口を手で抑え、じっとしていた。

数秒間であったが、美由達には長大な時間に感じられた。


フッと黒い影が窓の外から居なくなる。


「助かった...?」


その刹那、轟音と共に美由は部屋の奥まで吹き飛ばされた。


衝撃でしばらく気を失う。


どのくらい気絶していただろうか。

ぐちゃりという音で意識を取戻し、身体を起こすと目の前には黒い獣が立っていた。

口からは人の手が出ていた。腕にはピンクの腕時計。

手前には、下半身の無い遺体が転がっていた。隣にはメガネが転がっている。


あの獣は雷獣で、遺体は茜と未来なのだろう。

突然やってくる理不尽な死。神様なんていないんだと美由は絶望する。

由紀の姿が見当たらない。無事に逃げおおせたのだろうか。


雷獣がこちらを向き、ヒタヒタと近づいてくる。

5秒後に私はこいつに食べられてしまうのだろう。

美由は全てを悟った。


「私もすぐに皆んなのところに行けるんだね。」


危機的な状況なのに不思議と冷静であった。

言葉が通じないであろう雷獣に語りかける。


「なるべく痛くないようにしてね。」


目から涙が溢れ出る。

美由は死を覚悟し、目を閉じて(うつむ)いた。

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