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雷獣  作者: ごーまるな
15/34

2022年5月9日 14時30分

「ここは結構有名な場所でね。地元の人もあまり近づかないんだ。」

「確かに。すごく静か...。」


周りには荒地と民家がぽつぽつ建っていた。その中に一際目立つ大きな白い3階建の建物がある。これが掛川任侠連合事務所だ。


建物前には型落ちの黒塗りの高級車が一台停まっており、建物には監視カメラが4,5台付いている。


「インターホン押すね。」

「うん。」


ピィィンポォォオン


しばらく経つと、眼鏡をかけた小柄な男が扉を開けて出てきた。


「何か用?」


見た目は小柄だが、溢れ出る任侠オーラにビビりつつも俺は応対する。


「西日本電力です、お世話になります。電気料金の支払いが滞っているようなので、本日供給停止に伺いました。」


その言葉を聞いて、男の表情が強張る


「ハァ?聞いてねぇぞ」

「支払いの請求書も来ているはずです。確認して頂けませんか。」

「ああ?いきなり来て電気止めるだなんて、ヤクザの所業だなぁ。」


男が俺に詰め寄ってくる。


「電気代を払わずに電気を使っているんです!無銭飲食と同じですよ!」


美由が俺の前に割って入ってきた。手には警棒を構えている。


「なんだぁ小娘。俺とヤル気か?」


男は美由にガンを飛ばしながら顔を近づけた。


「よく見りゃ可愛いじゃねえか。ウチの系列で働いてみないか、お嬢ちゃん。」


美由は警棒を構えたまま硬直している。

警備部は専守防衛がモットーであるため、危害を加えられなければ正当防衛で動くことができない。

俺は我慢ならずに声を荒げる。


「やめてください!彼女に近づかないでください!」

「なんだお前らデキてるのか?」

「違います!仕事の大切な仲間です!」

「女に守ってもらうなんて情けない男だな。こんなヒョロいやつなんてやめといた方が良いと思うぜ。」


ニヤニヤしながら、男は彼女の肩に手を置いた。

美由が他の男に触られている。


「美由に触るな!」


頭に血が昇った俺が男に飛びかかろうとしたその時、後ろから身長2メートルはある大男が事務所から出てきた。


「なんだこの騒ぎは。遠野、説明しろ。」


ドスの聞いた声に男は軽く飛び上がり、大男の方に向き直る。


「は!はい!こいつらが電気代払ってないから電気を止めようと失礼にも乗り込んで...。」

「大馬鹿野郎!」


男が言い終わるのを待たずに、大男は叫ぶ。あまりの迫力に地面が揺れているようだった。


「カタギさんに迷惑かけやがって、すぐに払いにいってこい!」

「は!はい!」


男は駆け足で事務所の中へ戻っていった。


「すいませんね、坊ちゃんとお嬢ちゃん。今払わせに行きますんで。」


大男がこちらへ向き直り、丁寧にお辞儀する。


「い、いえ、今日中に支払い約束を頂ければ待つ事は出来ますので。」

「ああ、約束する。怖がらせてしまってすみませんでしたね。」


さっきとは打って変わって優しい声だ。


「はい、では私たちはこれで。」

「ああ、ご苦労さん」


俺達は大男に背を向ける。


「そういえば坊ちゃん。」


大男が俺を呼び止める。


「さっきのセリフはちょっとキザだったかな。」


改善の余地があるな。俺は軽く会釈してきびすを返す。

俺と美由はそそくさと事務所を離れて行った。


「さっきの...ちょっと格好良かった。」


美由が頬を赤らめながら俺に話しかける。

さっきのっていうのは例のキザなセリフの事だろう。


「あんな...シチュエーション...憧れてたかも。彼女に近づくなって...へへへ。」


突然美由が俺の方に持たれかかってきたので、慌てて抱える。


「私のこと...そんな...大切に...思って...はぁはぁ...。」


美由を抱えた時、すごい高熱を発していることに気がついた。

顔も発熱で真っ赤だ。


「おい美由!すごい熱じゃないか!大丈夫か?」

「ちょっとヤバいかも...。」

「ちょっと待ってろよ!」


彼女を抱えながら、俺は社給スマホを取り出して連絡帳アプリを開く。

天須羅支社警備部警備課のツリーを表示し、2係の白瀬係長に電話をかける。


「あれ!滝内くんどうかした?」

「白瀬係長!美由が高熱を出してぐったりしてて!」

「本当に?たまに美由は熱をだすのよ。大丈夫。半日も休めば回復するから。」


白瀬係長は敏腕(びんわん)女係長で、部下からの信頼も厚い。


「とりあえず下俣寮(しもまたりょう)まで連れて行ってもらおうかしら。寮母さんと、鈴本係長には私から連絡しておくわ。」


下俣寮は駅南にある西日本電力の女子寮だ。


「分かりました。寮に着いたらまた連絡します。」


そう言って電話を切り、美由を社用車まで引きずっていく。


「雷獣災害の時から...こうやってたまに熱出して...あのときの事...思い出すの...怖い。」


美由は細かく震えている。見ていられないほど彼女は弱りきっていた。


「すぐに寝かすから!」


美由を社用車の助手席に座らせた俺は、エンジンフルスロットルで車を発進させた。

≫かけがわにんきょうれんごうじむしょ【掛川任侠連合事務所】

東海地方を牛耳る任侠団体「松永組」の事務所。東海地方各地に存在。

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