2022年5月3日 18時30分
「あの時の...!」
スパゲッティを頬張る美由の顔を見ながら、俺は声をあげる。
「あの時のって?」
「高速バスだよ!名古屋行きの!いつだったっけなぁ。4年生くらいだったかな。金曜日の夕方くらいに名古屋行ったことなかった?」
「そんなことあったかなー。」
美由は口をもぐもぐしながら考える。
「あー、そういえば剣道の高専大会で豊田の第四十四高専に前乗りしたことあるかも。あの時はバスで行ったかなぁ。」
高専大会とは高専だけで開催している、スポーツ大会のことだ。帰宅部だった俺は参加したことが無かった。
「美由って剣道やってたんだ。俺なんかすぐやられちゃいそうだね。」
「ふふん、結構な腕前だったんだよ。会社入ってからも結構役に立ったんだ。」
美由は得意そうに笑う。
「あー、思い出したよ。沼津で隣に乗ってきた人いたなぁ。あれ優人だったんだ!」
「なんかチラチラ見てきて気持ち悪いなあって思ってたんだ。」
美由の言葉に俺はかなりの精神的ダメージを負った。
「そんな顔しないでよ!」
俺はかなり悲げな顔をしていたのだろう。美由が必死にフォローを入れてくれる。
「あの時は眼鏡かけてて結構暗めな感じだったけど、今は雰囲気変わってかっこいいよ!」
見た目に気を遣い出したのは高専を出てからだ。こうやって褒められると、嬉しくなってしまう。俺はなんて単純なやつなんだろう。
「そっかあ、あそこで会ってたんだあ。ふふふ。」
美由はなぜか嬉しそうだ。
「なんかねー。それとは別のタイミングでも会った気がするんだよね。」
「なんかこう、雷獣災害の後だった気がする。」
あの混乱期は俺も美由も記憶が曖昧で、思い出すには至らなかった。
「あ、そういえば!」
俺は声をあげ、バッグからハンカチを取り出す。
「あの時のハンカチ血だらけになっちゃったから、同型のやつテスラ館で買ったんだ。」
「えー!いいのに!」
彼女に西日本電力ロゴ入りハンカチを手渡す。テスラ電力館は西日本電力のPR施設で、グッズ売り場には、ロゴ入りのTシャツやらハンカチやらが売っている。
「あ!デンキマルじゃん!かわいい!」
「そうなんだよ。デンキマルバージョンにしてみた。」
デンキマルは西日本電力のマスコットキャラクターで、可愛らしい鬼のようなデザインのキャラクターだ。
「ありがとう。大事にするね!」
美由は大事そうにハンカチをバッグの中に入れる。
会計を済ませて外に出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
「今日はありがとう優人。楽しかったよ。スパゲッティご馳走様。」
あと4回奢らないといけない。
「うん、俺も楽しかった。また誘ってね。」
次の約束をしたかったが、シャイな俺にはできそうもない。
「さっきは酷いこと言ってごめんね。今の優人は結構タイプだよ!」
そう言い残して彼女は足早に立ち去っていった。
結構タイプだよ。夢が現実か。そんなことを彼女が言ってきたことに俺は混乱していた。
............
足早に歩く美由は頬を赤らめながら呟く。
「ついに言っちゃった...。次はいつ会えるかな。」
2人の恋はまだ始まったばかりである。
≫ぎじゅつえいぎょうにがかり【技術営業2係】
配電1課でお客さま対応や、現場調査などを行う部署。