2016年6月10日 14時15分
............
「...ということで、アース鉄塔によって、14箇所のエリアに雷獣を閉じ込めることに成功したって訳だ。」
午後1番の授業は、ほとんどの学生がうとうとしていた。
森谷教授の「電力史」の授業は電気に特化した歴史を教えてくれるため、電気学科の俺にとってはとても興味深い。
「なぜ雷獣が生まれたのか、なぜ日本の本州にしか生息していないのかは未だに謎のままだ。」
雷獣が日本にしか居ないのは、高専に来てから初めて知った。アース鉄塔の連なる景色が、世界中に当たり前に存在するとずっと思っていた。
「雷獣は人に危害を加えるが、一方で人類に大きな恵みをもたらしたんだ。皆んな知っていると思うが、ラジュウム電池。君達のスマホとか車に入ってる電池な。これは雷獣の体内蓄電機構を参考にしたものだし、このコンセントから来てる電気。これも雷獣の体内発電機構を参考にした核融合発電で行われている。」
昔は発電も動力も石油を燃やしていたと聞いていた。石油の出なかった日本は、連合国の石油禁輸政策に腹を立て、戦争を起こした過去がある。
最初は優勢だった日本だったが、昭和17年の東京空襲でアース鉄塔に穴を開けられ、大量の雷獣が東京の街に襲いかかった。
戦争どころでは無くなった日本は直ちに降伏。進駐軍と共に事態を収束させた昭和20年には、東京はおもちゃ箱をひっくり返したような酷い状況になっていたらしい。
そんなどん底だった日本を復興させたのは、雷獣研究の産物として生まれた。高寿命・大容量の蓄電池と、完全にクリーンな発電機構であった。
「ほんとニコラ・テスラ様々だよなあ。テスラが今の日本を作ったと言っても過言では無いな。あとは松永安左衛門。彼がラジュウム電池と核融合発電の産みの親だ。この2人はテストに出るから覚えておくんだぞ。」
ニコラ・テスラは雷獣研究のために来日して、雷獣研究の基礎を作った凄い人らしい。この研究を引継いだのが、テスラの7番弟子である松永安左エ門で、のちに「電力の鬼」と言われるくらい雷獣研究や日本の電力基盤の構築などに尽力した。まさに電気に取り憑かれた偉人だ。
「昔は雷獣に人を捧げる生贄文化もあったみたいだし、雷獣遣いとかいう雷獣を操れる人達も居たそうだ。マユツバだけどね。」
俺もこういったオカルト系の話は大好きだ。
雷獣遣いの話は有名で、アース鉄塔の内側、樹海の中には雷獣遣いの集落が今だに存在し、雷獣と共同生活をしてるなんて話を動画サイトで見たことがある。
授業終わりのチャイムが鳴る。
「それじゃあ今日はここまでにしようか。週番!あいさつたのむ。」
「きりーつ、れい!」
今日は金曜で6限終わりのため、久々に実家に帰ることにした。
寮で素早く身支度を済ませて、北に向かって歩いていく。
東名高速道路の沼津インターチェンジからは、名古屋行きのバスが運行している。普段の帰省は格安の高速バスを使っていた。
バス停に着いたと同時に、名古屋行きのバスがタイミング良くやってくる。中を見るとかなりの混雑率だ。
「東名浜松までですか...。ラッキーですねお客さん、1席だけ空いてますよ。」
今日はかなりついている。
「7B席です。ごゆっくり。」
「どうも。」
チケットを受け取り、7B席に向けて歩いていく。お隣には同い年くらいの女の子が座っていた。菓子パンを美味しそうに頬張っている。
「お隣すみません。」
「どうぞ。」
顔を見ると結構可愛い。こんな可愛い子と隣になれるなんて今日は本当についている。
俺はドキドキしながら着席した。
............
≫らいじゅう【雷獣】
電気をエネルギーとし人を食らい、空も飛ぶ生物。いつ発生したのか、なぜ人を食べるのかは不明。本州の山岳部のみに生息。江戸時代の随筆や近代の民俗資料にも名が多く見られる。