今日のお味噌汁
「異世界の人が初めて味噌を見たらどう思うのだろう」そう思って書きました。
下ネタが苦手な方はご注意ください。
本作は、「第3回『下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ』大賞」応募作品です。
「こんな糞とも分からぬ物が食えるか!」
彼が造っていた味噌は、糞味噌に貶された。
彼が学校帰りに事故に遭い、この世界に転生してきて十日が経つ。この世界では見慣れない服を着ていたおかげか、土地の領主だという男に拾われ、世話になっていた。
「今日もそなたの国について教えてくれぬか?」
領主は彼に期待していた。これまでも、異国の者から、新しい知恵や道具を授かったことがあったという。
しかし彼は、この世界を十日間見てきて、できそうなことはほとんどないと感じていた。科学文化のレベルが段違いに低かった。魔法どころか電気もない。しかも、細長い刃物を腰に差していて野蛮な雰囲気が漂っていた。
話のネタはまだある。けれど、何もできないままだと、そのうち放り出されるかもしれない。
料理はどうだろう、と彼は考えた。料理は得意だったし、手間はかかるが魔法も電気も必要ない。
この世界は、故郷と似ていて米食だった。しかし、ご飯は硬く、おかずは塩辛く、味も単調で、飽きそうだった。
そこで手始めに彼は、味噌を造り始めた。味噌ならば、味に深みが出るうえに栄養もある。造り方は、学校で習ったことがあった。材料も揃っている。
それに、彼をこの世界に導いた神が言うには、故郷からここへ転生した者が何人もいるらしい。味噌を造れば、仲間が見つかるかもしれない。
そうして味噌を造っていたところを領主に見られ、食べ物だと言ったところ、貶されたというわけだ。
その場で舐めて、食べられることを証明しても良かった。しかし、とんでもない変態だと思われるかもしれない、ととっさに思って、やめた。
確かに、固形物の味噌が初めての人は、その見た目に驚くかもしれない。
そこで彼は、味噌汁を作ることにした。具をたくさん入れれば、汁の見た目は気にならない。材料も調整して、明るめの色にした。
汁が隠れるほど鶏肉や豆腐、野菜をふんだんに入れた味噌汁を、彼は領主に献上した。
「ほお……。これはうまい。しかも、体が温まるではないか」
あれほど味噌を貶していた領主だが、味噌汁はかき込むように食べ尽くした。
野菜・肉・魚など何にでも合い、ご飯とも相性が良い味噌汁は、またたく間に全国に広がった。
異世界から、かつての日本に転生した彼の作った味噌汁。これが、今日のお味噌汁となった。