尻が壁の穴にハマってたクラスのクールビューティな巨尻JKを引っ張って助けたら「自分は決してふしだらな女ではない」と必死に言い張られたけどそこそこ懐かれた話
『この間助けてからそこそこ懐かれたクラスメイトの自称クールビューティな巨尻JK 百百川瓜姫さんに電車内で太ももを押し潰される話』
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8/27、尻ミステリー、まさかの続編です。
「誰か助けてぇ……」
その尻は、か細い声で途方に暮れた声を出していた。
俺――下校途中の高校ニ年生・藤村三蔵は、思わずその光景をしばしまじまじと観察してしまった。
尻だ。
人間の尻だ。
それも――相当に巨大な。
これぞ尻であると言える――実に見事なものだった。
あろうことか――巨大な人間の尻が、住宅街のブロック塀から突き出ていた。
否――ブロック塀の一部を突き破り、人間の尻が生えていたと言った方がいい。
アスファルトに咲く花ならぬ、コンクリートに生える巨大な尻――。
それはちょっと今まで見たことのない、とんでもなくド根性な尻であった。
気だるい下校途中、住宅街のブロック塀の穴に生えた人の尻をガン見しながら、戦慄に立ち尽くす男子高校生の俺――。
それは大変不躾な行為には違いなかったが、俺がそれを発見しなければ、この尻はこれからもずっとこうして途方に暮れ続ける他ない状況であるだろう。
俺がまじまじと観察したとして一体誰が咎めるというのだろうか。
しかし――見れば見るほど見事な逸物だった。
何故なのか、尻はスカートがまるっとめくれ、ストッキングに包まれた尻だけが宙に浮いている。
その黒ストッキングのせいでその尻の巨大さが気の毒なほどよくわかるのだけど――ちょっとこれだけの大物には、少なくとも俺は今までの人生でお目にかかったことがないように思う。
人間の尻というのはどれほどの大きさが平均なのかは知らないし興味もないけれど、目の前の尻はそれにしたってあまりに大きすぎる。
よく見れば、足元に落ちている紺色のスクールバッグの隅には、俺の通っている高校のものである校章も印刷されている――この尻と俺とは同窓、ということか。
宙ぶらりんになっている黒ストッキングの二本の足は、その上に乗っている巨大な物体を常時支えているとは思えないほど細く、ときたまふらふらと弱々しく揺れた。
ストッキングはその巨大な尻にたっぷり面積を取られているらしく、足が揺れる度にミチミチと命乞いするかのように軋んだ。
「誰か助けてぇ……死ぬよぉ……死ぬよぉ……」
巨大な尻が、その立派さに似つかわしくない声で弱音を吐いた。
その声に、あろうことか聞き覚えがあった。
この甲高いような低いような不思議な声――。
俺はその尻に向かって、思わず関わり合いになる声を発していた。
「百百川、さん……?」
その声に、意外にもその尻は敏感に反応した。
「うぇ――!?」と悲鳴を上げた尻がビクンと高度を上げた。
「だ、誰……!?」
「あの、藤村だけど……藤村三蔵。尼高井高校の、同じ二年C組の……」
「二年C組……!」
その尻は助かったというように左右に揺れた。
「藤村……藤村三蔵君! わかるよ! あの教室の左後ろに座ってる……!」
「そうそう。百百川さんは一番前の一番右の席だよね?」
「そうそう!」
尻は首肯するように、元気よく上下に揺れた。
やはりこの尻――それも特大の尻は、同じクラスの百百川瓜姫さんのもので間違いないようだ。
俺はしばらく百百川瓜姫という人物を頭に思い浮かべた。
直接話すのはこれが初めてだけど、俺の頭の中には「とにかくクールな美少女」という、身も蓋もないイメージが既にインプットされていた。
この尻のの名前は、百百川瓜姫さん。
誕生日は知らないが、早生まれでないのならば、おそらく同い歳の十七歳。
成績は学年で五指に入るほど優秀で、強豪である我が校の陸上部ではエースである、稀代のスプリンター。
性格は真面目で冷徹、走っていたり、勉強していたりする姿にはとにかく隙というものがなく、彼女を知るほぼすべての人にクールなイメージを持たれている孤高の人。
近寄りがたいイメージとは裏腹に、その優秀な成績と品行方正さで教師陣の覚えもめでたく、二年生でありながら生徒会預かりの委員である風紀委員長を勤める才色兼備の美少女だ。
だが――風紀委員長という重役にありながら。
まず根本的に、彼女そのものは全く公序良俗に則った肉体ではなかった。
その言い回しの意味は簡単だ。
つまり、百百川さんをこの世に創り出した何者は、出るところと引っ込むところのバランスをそこそこスリリングにセッティングにしてしまったらしいのである。
つまり百百川さんは、言ってしまえば砂時計のような、縄文時代の遺跡から発掘される土偶みたいな、色々と普通の範疇には収まらない身体つきの人なのだ。
俺の友達――いや全校の男子の中にも、そのスリリングな設定に魅せられてしまい、その動向を常に視線で追っている熱心な奴もひとりやふたりではない。
彼女が走れば、男子だけでなく女子まで生唾を飲み込む。
全校集会の時に彼女が登壇すると、男子は一斉に前かがみになって血眼になる。
つまり、百百川瓜姫という人は男女ともに――男子からは特に――それはそれは人気のある生徒だったのだ。
なるほど、あの百百川さんなら引っかかるところに事欠かないだろうな――。
俺がなんだか悟りを得た僧のような気分で微笑むと、百百川さんの尻が言った。
「あの――」
「うん?」
「藤村君、悪いんだけど――助けてくれるかな?」
俺は先回りをした。
「押せばいいの? 引っ張ればいいの?」
「引っ張って欲しい!」
尻は即答した。
「あの、左側にブロック塀崩れたところあるでしょ? トラックはまだいる?」
「トラック?」
俺は素早く左側の路地に視線を走らせた。
閑静な住宅街の夕暮れ時には、トラックどころか自転車すらない。
「いや――いないけど」
「よかった……! そこからこっちに回れるから回ってくれる?」
なんだか――「あの」百百川さんの尻にしては、やけに饒舌な尻だと思った。
百百川さんといえば、普段はそのシャナリとした身のこなしと「そう」「へぇ」「わかったわ」の三語だけで大抵の会話を済ませてしまうような、極めてクールな人だ。
しかし――この尻はどうだろう。三語どころかやけに饒舌で、憎たらしいくらいよく動く。
その上、口調はやけに弱気で、子犬のように人懐っこい感じがする。
本当にこの尻は百百川さんなのだろうか――その疑問はともかく、そう指示された俺は、わかった、と頷いた。
「あ、その前にちょっと待って!」
と、突然、百百川さんが声を上げた。
「あの……それより先に、何かでお尻を隠してくれると嬉しいかも……」
もじもじ、と音が聞こえそうなほど、尻と足がもじもじした。
ああ、と俺は頷き、ブレザーを脱いで丸出しの尻にかけた。
ようやく衆目から守られた百百川さんの巨大な尻が、安心したように緊張を失った。
見ると、ブロック塀の向こうは昔はなにかの工場だったらしく、もう放棄されて随分経っているらしかった。
その工場が無人になってからブロック塀は半分放置されているものらしく、なるほど確かに一部崩れた箇所がある。
そこをまたいで塀の反対側に回ると、日当たりも風通しも悪い湿った空気が溜まっていた。
視線を右に向けると――やはり百百川さんがいた。
腰から上をほとんど壁の向こう側に突き出させて手を振っている。
穴の縁に巨大な尻が引っかかった上、色々とたわわな上半身の重みで足が宙に浮いてしまい、腰骨の辺りを中心にヤジロベエ状態になってしまったのだと、その時俺は初めて理解した。
「こっちこっち!」
はーい、と俺は応じて、百百川さんの前に立った。
百百川さんの顔は、薄暗いここで見ても、なんだか赤く見えた。
「あの……藤村君」
「何?」
「その――見ちゃったよね?」
「いや、よく見えなかったよ」
白々しいほど完全なる嘘だった。
百百川さんのスカートは完全にめくれており、ストッキングと、意外にも過激な黒の下着はお天道様の下に丸出しだった。
案の定、百百川さんの顔は俺の白々しい嘘のせいで更に真っ赤になり、服の袖で顔を隠した。
「もう最悪……誰かに見られたかも……」
「ちなみに、何時間ぐらいこうなってたの?」
「たぶん二時間ぐらい……」
「二、時間……」
「どうしよう……これ見られてたらもう学校に行けないよ……」
「あの、デカシリー……いや、デリカシーないこと言うけど、外からは百百川さんの顔は見えてないんだから、大丈夫じゃないかな」
俺の吐いた白々しい気休めに、百百川さんは力なく首を振った。
「もう、うちの生徒がこれを見てたらなんて言うか……今まで風紀委員長として積み上げてきたイメージが台無し……ボールがバラバラになる程のパワースイングで学生生活を棒に振っちゃうよ……」
「イメージ?」
俺は間抜けに鸚鵡返しした。
百百川さんは身体つきこそ派手だが、反面、誰からもクールさを知られた孤高の人だ。
てっきりそれが地だと思っていた、それが本人の涙ぐましいイメージ作りの賜物だった?
俺がそう思っていると、ハッ、と百百川さんが失言に気づいたように息を呑んだ。
「あ……違うの」
「え?」
「違うの! とにかく違うの! ね!? 私は風紀委員長なの! 決してこんなところに理由なくパンツ丸出しでハマってるようなふしだらな女じゃないの!」
「うっ、うん……」
「うっ……!? その顔は信じてない! キィー! これは違うんだって!」
バンバンと両手でブロック塀を叩き、壁の向こうに突き出たふしだらな巨尻を揺らして。
百百川さんは気の毒なぐらい必死に自分はふしだらな女ではないと言い張った。
「いい? 私は風紀委員長! いつでも! どこでも! 何度でも! 病めるときも健やかなときも! いついかなる時も品行方正でクールビューティな私なの! わかるよね藤村君!? お願いだから納得して! ちょっと丸出しのパンツ見たぐらいでふしだらな女だって勘違いしないでよねっ!」
「おっ、おう……」
随分必死な声と表情に俺が思わず気圧されると、百百川さんは再びハッとした表情になり、それからシュン、と項垂れた。
「あ、いや……あの、ごめんね、こんな事頼んでるのに怒鳴っちゃって……」
「あ、いやいいよ、気にしないで」
「ごめんね。両手を引っ張ってくれれば抜けると思うからさ……」
だからお願い、と、百百川さんは抱っこを求める子供のように両手を突き出した。
なんだかさっきから感じていたけど、可愛いなぁこの人……と、再び悟りを得た僧侶のような心で微笑み、俺はその両手を取った。
「じゃあ行くよ……せーの!」
俺は地面を踏ん張り、百百川さんの両手を思いっきり引っ張った。
途端に、ミシミシ……と嫌な音が壁の向こうから発し、壁が軋んだ。
しばらく大きなカブよろしく百百川さんの身体を引っ張った俺は。
ある事実に気がついて愕然とした。
抜けない――!?
満身に力を込めながら、俺は信じられない思いでブロック塀を見た。
百百川さんは目をぎゅっと閉じ、うーっとうめき声を上げながら、引っ張られる両腕の痛みにじっと耐えている。
だが――そんないじらしい忍耐とは裏腹に、一体どんな密着度でハマったものか、百百川さんの身体はびくともしない。
そりゃそうだろう。百百川さんの身体はごくごく単純化してしまえば瓢箪か砂時計のような形をしているのだ。
その唯一くびれた部分がほぼ穴にジャストフィットしているのだから、生半可な力では抜けるはずがなかった。
しばらく、ああでもないこうでもないと試行錯誤し、いろいろ体勢を変えて引っ張っては見たものの、状況に変化はなかった。
十分近い格闘の果に、俺は額に汗の珠を貼り付けながら肩で息をした。
「抜けないね……」
「うん……」
俺と百百川さんは互いに沈痛な表情で頷いた。
「消防とか――呼ぶ?」
俺は遠慮がちに訊いてみた。
百百川さんは項垂れたまま、長く沈黙した。
「どうしよう、こんな恥ずかしい格好で救助とかされちゃったら――私、もう学校行けないよ……」
百百川さんの声が震え、ぐすっ、と湿った洟の音が聞こえた。
ふと――俺は百百川さんの両手首を見た。
真っ白な肌に、俺の手の跡が痛々しく残っている。
これ以上、この手を引っ張るのは流石に酷だった。
そしてそれ以上に、救助を要請するのはもっと酷だった。
俺は覚悟を決めた。
「百百川さん」
「うん?」
「ごめん、先に謝っとくわ」
「うぇ?」
「嫌かもしれない、気持ち悪いと思うかもしれないけど――我慢してくれ」
俺はそう断ってから、壁から突き出た百百川さんの腋の下に両腕を回した。
途端に、百百川さんは驚いたように大きな声を出した。
「ふっ、藤村君――!?」
「いい? 百百川さん」
俺が耳元に言うと、途方もなく柔らかく感じていた百百川さんの身体がびくっと固くなった。
「俺の背中に両手を回して」
「う、うん――こう?」
「よし、そんな感じ」
そう言いながら、俺も思い切り身体を密着させ、百百川さんの肩甲骨の辺りで両手をぐっと握り締めた。
俺は右足でブロック塀を踏ん張り、全身に力を込めた。
「よし、もう一度引っ張るぞ――せーの!!」
気合とともに、俺は腕と右足に思いっきり力を込めた。
両腕を引っ張るよりも、本体である上半身を引っ張ったほうが力は伝わりやすいはずだ。
俺に抱きついてくる百百川さんの腕の力も強くなる。
首のあたりに感じる百百川さんの体温が火傷しそうに熱く感じた――それと同時だった。
増大した力と、無理くり穴を通り抜けようとするケツ圧に、コンクリート製のブロックも遂に耐えきれなくなったようだった。
ボゴッ、という湿った音とともに、ブロック塀が欠けた。
途端に、グラグラとブロック塀が揺れ――雪崩を打って内側に崩れ出した。
「うわ、わ、危ない――!」
俺は慌てて百百川さんを倒壊するブロック塀から引き剥がした。
まるで山崩れだった。
近くに落ちていた錆びた一斗缶を、崩れてきたブロックが容赦なく押し潰した。
一斗缶がひしゃげる下品な音とともにブロック塀はバラバラに崩れ落ち――後には抱き締め合ったまま呆然とする俺と百百川さんが残された。
「抜けた――」
俺が呆然と呟くと、ぱっと百百川さんも笑顔になった。
「や、やった! 抜けた、抜けたよ――!」
やったぁ! と続きそうな百百川さんの歓声に、俺も嬉しくなった。
思わず百百川さんを見た瞬間――その顔がびっくりするぐらい近くにあった。
「ぅえ――?」
なんて綺麗な鳶色の瞳――。
宝石のようなそれを思わず知らず覗き込んでしまうと、百百川さんの顔が一瞬で真っ赤になった。
「いやっ――ごっ、ごめん――!」
「え?」
俺が間抜けな声を上げると、百百川さんが俺の両手を振り払い、慌てたようにその場からずり下がった。
離れてからよく見れば――そのときの百百川さんは相当に際どい姿になっていた。
引っ張られた時にボタンが引きちぎれたらしく、パンツと揃いの黒い下着がブラウスの裾から大胆に覗いている。
ブロック塀に擦れたのか、ただでさえパツパツのストッキングはあちこち破れ、肉圧によって大胆に引き裂けていた。
まるで力士十人に揉みくちゃにされた直後のような、極めてあられもない己の姿に気づいた百百川さんは、ヤカンが沸騰するような悲鳴を上げた。
百百川さんは頭を掻くやら顔を隠すやら、しばらくフルパワーでパニックを起こすと、やおら真っ赤な顔で俺を睨んだ。
「ふっ、ふじっ、ふじ、藤村君っ!」
「うっ、うん……」
「ごめん、ありがとう! あっ、あの私――あの、その、あうう……もっ、もう帰る! 帰るとも!」
「帰るとも?」
「あっ、ああ……もう! あのっ、もっ、もう会えないと思うけど、このご恩は忘れないから! じゃあね、また明日学校で!」
よくわからない一言ともに、百百川さんは立ち上がって駆け出した。
うぃやあああ! という奇声に長く尾を引かせながら、百百川さんは陸上部のエースとは思えない、凄くだばだばとした走りで去っていってしまった。
しばらくして――。
百百川さんは、ハッ、となにかに気づいた声を発して、それからこちらに戻ってくる足音が近づいてきた。
なんだろう、と思っていると。
バッ! と、百百川さんの顔が崩れたブロック塀から覗いた。
「藤村君!」
「う、うん――?」
「今日見たことは忘れて! また明日から品行方正でクールビューティな私として接してね! いい!? 絶対だよ!?」
「う、うん――」
「よかった! それじゃ!」
それだけ釘を刺して、百百川さんは再びだばだばという下品な足音を立てながら走っていってしまった。
なんだったんだろう――。
俺はしばらく呆然と、百百川さんのケツ圧によって崩れたブロック塀を見ていた。
一人残されると、なんだか妙に冷静になってきた。
そもそも、百百川さんはなんでこんなブロック塀にハマっていたのだろう。
俺はようやくそのことに考えが及んだ。
あの品行方正でクールビューティな百百川さんなのに。
たまたまブロック塀の向こう側が気になって穴を覗き込み、そのままハマってしまった、ということが有り得るのだろうか。
何が何だかわからない気持ちで辺りを見回した俺は――ふと、足元に紺色のバッグが落ちていることに今更気がついた。
俺のはまだ肩にかかったままなので、つまりこれは百百川さんが忘れていったものということになるだろう。
俺は首だけ伸ばしてブロック塀の向こうを覗いた。
もう人の気配はしないし、さっき百百川さんはすごい勢いで走っていった。
ああ見えて百百川さんは陸上部の短距離選手であるから、俺が走って追いかけたとしても追いつけまい。
仕方ない、明日学校で届けるか――。
そう思いながら、俺は埃に塗れたブレザーを羽織り、二人分のバッグを担ぎ上げて立ち上がった。
◆
「ただいま」
「んー」
アパートのドアを開けると、カタカタ……というキーボードを打つ音と、低い声が重なって聞こえてきた。
自分の分の通学バッグを床に落として部屋の中に入ると――ノーブラのタンクトップにパンツ一丁という、痴女風の女がいた。
女は長い前髪をごっそりとヘアピンで持ち上げ、コンタクトではなく眼鏡で、椅子の上で胡座をかきながらパソコンに向かっていた。
部屋の中とは言え、あまりにも不埒な風体の女を見て――当然、俺は遠慮なく口を尖らせた。
「姉ちゃん」
「んー?」
「カーテン開けっぱでふしだらな格好すんなっていつも言ってるだろ? 向かいのアパートから丸見えだよ?」
「うるさいぞー弟の分際でー。今いいとこなんだから邪魔しないでよ。いよいよ第一の殺人が起こるところなんだから」
「被害者はどうなって死ぬ予定?」
「全身を二十五のパーツに細切れにされて壺に入れられる」
「エグっ」
「エグかないわ。所詮は架空の人物の話よ」
俺の姉である藤村四乃は、ほとんど抑揚なくそう言った。
俺とは四つ年が離れているこの姉の職業は――小説家である。
しかも手掛ける作品は、手練のミステリファンですら顔を背ける猟奇殺人専門。
大学入学とともにとある高名なミステリ小説賞で大賞を射止めから、まるでテニスのスマッシュのように力作を上梓し続け、有名作家にもファンであることを公言する人がいる人気小説家だった。
実力派、新進気鋭という名声以上に、人前に露出する時は常にバリッとしたスーツ姿で現れる、怜悧な美貌のミステリ作家として知られる姉の――その正体がこれだった。
弟の俺から見ても、姉は幼い頃からとにかく奇人変人の類に入る人間だった。
昔から頭はズバ抜けてよかったし、顔の造作も人並み以上だとは思うのだけど、とにかくだらしなくて、際限なくものぐさなのだ。
この姉はとにかく「締め付け」の類が一個でも身体にあると途端に不快になるという面倒な体質の持ち主で、そのせいか仕事をするときはいつも基本的にほぼ全裸だ。
俺が進学と同時にこの部屋を借りた時、家賃を全額負担する代わりにこの部屋を書斎兼仕事場にしてしまった姉は、俺が何度注意しても頑なにこのほぼ全裸スタイルでの執筆をやめようとしない。
そのおかげで俺には女物のパンツやブラジャーに対するほぼ完全なる抗体が出来てしまい、さっきの百百川さんのあられもない姿にも全く興奮できないという、極めて不健康で悲しい男子高校生になってしまったわけである。
全く、この姉さえこうでなけりゃな――。
何故か損をした気分の俺がため息をつきながら百百川さんのバッグを床に下ろすと、姉がクンクンと鼻を鳴らした。
「くさい」
ん? と俺は姉を見た。
姉はキーボードを叩く手を止め、俺を上から下までジロジロと見た。
「サンゾー……もしかしてアンタ、彼女とかできた?」
突然の物言いに、俺は眉間に皺を寄せた。
「とか、ってなんだよ? それに女の世話なんて姉ちゃん一人で十分だよ」
「ふん、言うようになったわね弟の分際で。いい年してアンタ彼女もいないの?」
「姉ちゃんはいたことあるのかよ? 彼氏か、もしくはそれに準ずるものが」
「いいから答えな。アンタからいつもと違う匂いがすんのよ。気になるじゃない」
どういうわけだか、この姉は昔から鼻と耳が異常にいいのだ。
俺は首を振って――それから、あ、と声を上げた。
「もしかして、これのこと?」
俺が百百川さんのバッグを見せると、姉は露骨に不審そうな表情になった。
「置き引き――とかではないでしょうね。アンタそんな事ができるぐらいちんちんでっかくないもんね」
「姉ちゃんは俺のちんちんの何を知ってるっていうんだよ。拾ったの。たまたまだよ」
「ほーん、そんなデカいバッグ落っことしたことに気づかない人間いるの?」
「いたよ。しかもブロック壁の穴にハマって抜け出せなくなってた」
「ほほう。短編のネタぐらいにはなるかもしれないな。話してみろ」
俺は『壁から尻事件』の顛末を、なるべく脚色なく姉に伝えた。
途中、説明不足なことがあると「それってこうだった?」「こうなっていたんじゃない?」と姉は勝手に事件の全容を補完していった。
この姉は風体こそふしだらだが、頭の中身は恐ろしく整理整頓が行き届いているらしく、僅かな違和感や乖離も見逃さないのである。
俺が語り終えると、姉はしばらくパソコンの画面を見つめながら考え込んだ。
「いや正直、俺も驚いたよ。だってあんなにミッチリハマってると思ってなくてさ。やっぱりさ、人間ってなにか穴があったらつい覗き込みたくなっちゃうんだろうね。穴があったら入りたいお年頃――」
てっきり笑われるかと思ったけど、姉はクスリとも笑わなかった。
それどころか、俺が思いもよらないことを訊いてきた。
「サンゾー。その子、パンツ見えてた?」
俺は露骨に顔をしかめた。
「姉ちゃん、いくら自分が痴女スタイルだからってそういう質問は感心しないぜ。いくら俺だって同級生のプライバシーぐらいは……」
「なに勘違いしてんだタコ。いいから答えろ。いいか、くれぐれもごまかすなよ――パンツは見えてたか?」
「ああ答えてやるさ。スカートがまるっとめくれて丸出しだったとも」
「どの程度?」
「アメリカに大統領の顔が彫られた岩山があるだろ?」
「ラシュモア山?」
「あれの中のジョージ・ワシントンの顔ぐらいだ」
「ほとんど丸出しか……」
そして意外なことに黒い下着だったとも、と言うと、姉はそこから何を納得したのか、何度か頷いた。
「さらに質問。アンタはそのブロック塀の崩れたところに、トラックか何か停まってなかった?」
俺は少し驚いて答えた。
「おお、よくわかるねぇ。俺が来たときはもういなかったけど、百百川さんがトラックが停まってないならそこから入れるって……」
「そのブロック塀の穴の位置は? アンタの胸の高さぐらい?」
「たぶんそれよりちょい下ぐらいだな」
「その百百川さんの身長」
「百五十センチぐらいかな」
そう、百百川さんは色々とデカいけど、身長はその限りではない。
クラスでもどちらかと言えば小柄な部類に入る人だし、その低い身長のせいでますます過激なセッティングの身体が目立つ人なのだ。
姉はしばらく何かを考えて――それから何度か頷いた。
「サンゾー」
「何?」
「私は弟として、アンタを小さい頃から色々と鍛えてきたつもりだと思う」
「へ?」
「けれど――根本的に再教育の必要がありそうね」
姉は呆れたような表情で俺を見た。
「どういうこと?」
「はぁ、ニブいわね……私の書いてる小説ならアンタもう殺されてるわよ。逆さ吊りにされた上で首から生き血をすっかり抜かれてね」
「俺、人助けしたのにそんなひどい殺され方するの?」
「はぁ。これが我が弟か、全く……」
レンズの奥の姉の目が俺を叱るように鋭くなった。
「ヒントはやるからよく考えなさい。あのね、その壁の穴はアンタの腰より下の高さぐらい、つまりその百百川さんの胸の高さぐらいにあった。見つけたときには両足が浮いてたんでしょ? 踏み台もなくそんなところによじ登って、尻がハマるまで身体を突っ込めるわけないじゃない」
それは――確かにそうかもしれない。
俺が素直に「まぁ、それは……」と肯定すると、姉は続けた。
「それにねサンゾー、百百川さんはスカートがまるっとめくれてパンツが丸見えだったんでしょう? これが第一、有り得ない。物理的に絶対にありえない」
「は――?」
俺はその言葉に、しばらく考えた。
そう、あの時確かに、百百川さんのパンツは丸見えだった。
否、スカートがまるっとめくれていた、と言ったほうが事実に近い。
いや――違う。
確かに、頭から穴に突っ込んだのなら、スカートはそうはならない。
百百川さんがあんなところにハマっていた理由。
「トラックはまだいる?」という言葉の意味。
壁の前に置かれた錆びた一斗缶。
違う――逆だ。根本的に逆なのだ。
俺が目を見開くと、姉は満足そうに頷いた。
「あ、なるほど――そういうことか」
「多分ね。アンタ、どえらい勘違いしてその百百川さんの乙女心を傷つけるところだったわよ。どこの世界にそんなくだらない理由でブロック塀の穴にハマる女子高生がいるもんかよ。よくよく反省なさい」
「だはは……申し訳ない」
頭を掻きながら、俺はすぐに別の事を考えた。
「でも、百百川さんはなんでそんな事したんだろう。百百川さん、あの廃工場に用でもあったのかな――?」
その時だった。
ブーン、ブーン……というバイブレーションの音とともに、百百川さんのバッグからけたたましい音で音楽が流れ出した。
はっと姉を見ると、許す、というように姉は頷いた。
ファスナーを明けると、そこには《家》という表示とともに着信を告げるスマートフォンが入っていた。
だけどそれ以上に――そのバッグに入っていたものを見て、俺は全てを納得した。
なるほど、それでか――。
俺と姉は頷き合い、それから電話に出た。
『あのっ、もしもし!?』
電話の向こうから、随分慌てている百百川さんの声が聞こえてきた。
『あのっ、実はその、携帯……というかバッグを置いてきてしまって……! あの、そのバッグ、あっ、あとそれから携帯も私ので、あの、多分手帳とかに百百川瓜姫って名前が入ってると思うんですけど……!』
「大丈夫大丈夫。落ち着いて百百川さん」
俺が落ち着かせるように言うと、百百川さんが絶句した。
「俺だよ、藤村三蔵。百百川さん、廃工場のところにバッグも携帯忘れてっただろ?俺が預かってたから大丈夫だよ」
『ふっ、藤村君……!?』
百百川さんが素っ頓狂な声を上げた。
「百百川さん、確かこの町内だったよね?」
『うっ、うん……そうだけど』
「丁度よかった。百百川さん、またさっきの工場まで来れる?」
『うぇ――?』
百百川さんは驚いたようだった。
『い、いくらなんでも悪いよ! 助けてもらった上にそんなことまでしてもらうなんて! わっ、私が今から藤村君の家に行くから――!』
「いいのいいの。あの工場に用もあるしね。それじゃ、一時間ぐらいしたら工場に来てね」
俺はそれだけ言って、さっさと電話を切ってしまった。
姉を見ると、姉はちょっと呆れたように見た。
「アンタね……せっかく関わり合いになった女の子との電話なんだからもっと楽しませようとか努力しなさいよ」
「いいじゃん別に。姉ちゃんだって同じような感じだろ? ――それよりも姉ちゃん」
俺が縋るような目と声で言うと、フン、と姉は無表情で鼻を鳴らした。
「仕方ないわね……アンタが全部面倒見なさいよ。私はそういう人間じゃないんだから。このものぐさな人間にトイレの始末とかさせないでよね」
姉はそれだけ事務的に言うと、またふしだらな格好でPCに向き直ってしまった。
◆
「あっ、ごめん藤村君!」
その声に、俺は振り返った。
流石短距離の選手らしく、弾むように――否、実際にいろんな部分を弾ませて、パーカーにジャージという服装の百百川さんがやってきた。
百百川さんは膝に手をついてしばらく呼吸を整えた。
きっと余程の勢いで走ってきたのだろう。
「ごめ……わざわざ届けに来て……もらっちゃって。私……さっきすごく……慌ててて……!」
ひとつ、発見だ。
百百川さんは慌てると、とにかく『ごめん』が口をついて出る人らしい。
クラスではクールで孤高に見えていたのは、意外にこの謙虚で卑屈な性格故なのかもしれない。
「全然気にしてないよ。ほらこれ、百百川さんのバッグとスマホ」
俺がバッグを差し出すと、それを受け取った百百川さんが眉をハの字にし、がばっと手を合わせた。
「もう今日は何から何まで本っ当にごめん! 重かったでしょう? 後でお礼はちゃんとするから――!」
「お礼なんていいよ。――それより百百川さん、コイツのことなんだけど」
俺はYシャツの胸の部分を覗き込んだ。
俺の顔を見て、胸の中でぬくぬくと温まっていたキジトラ模様の子猫がピョンと顔を出した。
百百川さんは目玉がこぼれるのではないかと思うほどに目を見開いた。
「あ、え、エンラク――!?」
エンラク?
思わず口に出すと、百百川さんは子猫と俺の顔を交互に見つめた。
「あ、藤村君……知ってたの? えんら――い、いや、その……子猫のこと?」
俺は笑って首を振った。
「いいや、知らなかった。でも、百百川さんのバッグから子猫用のミルクが出てきたら、いくらなんでもそういうことなんだろうとは思ったよ。結構人懐っこい猫だから捕まってくれて助かったよ」
そう、あの『壁から尻事件』の発端はこの猫。
百百川さんは、この猫に餌をやるためにこの廃工場に入ったのだ。
侵入した場所は、近くのブロック塀の崩れた場所。
そこから敷地内に侵入した百百川さんが子猫に餌をやっている間に、侵入した場所の真ん前にトラックが停車してしまった。
出入り口を塞がれた百百川さんは途方に暮れた挙げ句――壁の穴を見つけて、そこから外に這い出ようと決意したのだろう。
つまり、あの時の百百川さんは、穴を覗こうとしていてハマったのではない。
あの穴から外に出ようとしていたのだ。
『サンゾー、その子、パンツ見えてた?』
さっきの姉の下品な指摘は、反面、見事にそれを裏付ける発言だった。
仮に百百川さんがこの穴から脱出しようとしたとしても、百百川さんの身長ではこの穴に首を突っ込むのがせいぜいだ。
それに胸の高さの穴から頭を出すと――当然地面に手はつかない。
もし抜け出したとしても、そのまま地面に頭から墜落してしまう。
色々ずっしりしてる百百川さんでなくとも、これは痛いだろう。
つまり、百百川さんは足から這い出なければいけなかったのだ。
あの崩れてきたブロックで潰れた一斗缶――百百川さんはあれを踏み台にしたのだろう。
百百川さんは慎重に一斗缶によじ登り、穴から両足を出した。
そこでスカートがめくれて、全てが壁の外に丸出しになった。
それでも構わず、脱出のために遮二無二尻をねじ込んだところまではよかった。
だが――百百川さんの低い身長では、地面に足はつかなかった。
焦っているうちに下半身の重さであれよあれよと体勢は崩れ――百百川さんの身体はヤジロベエ状態で壁にひっかかってしまった。
俺は工場の内側から百百川さんを引っ張ったから、尻がハマったのだと錯覚していたけれど、それは違う。
思えばあんな短いスカート履きの乙女が、随分大胆なことをしたものだ。
それもこれも、みんなこの猫のためであったのだから責められないけれど。
大体の流れを頭の中に確認していると、百百川さんはシュンとした表情を浮かべた。
驚いたり喜んだり落ち込んだり、百百川さんの表情はとにかく忙しかった。
「この間、この工場で見つけたの。ほっとけなくて声をかけたら懐いてくれて、でもうちはペットは飼えない家庭だから――」
まぁ、それだけ懐いてくれたなら、百百川さんは当然そうしたかっただろう。
だからといって見捨てることも出来ず、百百川さんは登下校の途中にこの子猫に餌をやっていたのだ。
俺にそうなった言えなかったのは、おそらく本人のイメージがあったから――こう見えて猫好き、という本性を俺に知られたくなかったのだろう。
全く、本当に見た目と中身が違うなぁ――。
俺は内心苦笑して、それから言った。
「それでさ、百百川さん。この猫のことなんだけど――ウチで飼ったらダメかな?」
ふぇ? と百百川さんはそのクールな顔つきに不似合いな声を発した。
「ウチはアパート暮らしなんだけど、猫ならOKなんだ。もし百百川さんが許してくれるなら、うちで猫――おっと、エンラクの面倒を見ようかなと思ってるんだけど……」
どうかな? と視線で尋ねると、百百川さんの顔がパッと笑顔になった。
「いいの!?」
「いいとも」
「わぁ、やったあ! ありがとう藤村君!」
百百川さんはそう言ってばるんばるんと飛び跳ね――そのままの勢いで俺の首にガッチリと抱きついてきた。
うおっ、と思っていると、百百川さんの胸で潰されたエンラクが、ムギャア、とすごい声で鳴いた。
その悲鳴に、今自分が思わず何をしたのかわかったらしい百百川さんが――あっ、と変な声を出した。
「あ――」
「えっ?」
「あぅ、あああっ、あああ……あう……!」
俺から身体を離した百百川さんが、あわあわと狼狽えた。
うわ、凄い勢いで顔が真っ赤になっていく――卒倒するんじゃないかと俺が心配になった途端だった。
百百川さんは慌てて顔の前で両手をブンブンと振った。
「あっ、ご、ごめんなさ……! あっ、今のは……! 今のは違うの……!」
「いや、百百川さん落ち着いて。俺は全然気にしてないから……」
「あ……いや、ダメダメダメダメ! ふっ、藤村君が気にしなくても私が気になるの! こんなふしだらなことしたら今まで築いてきたイメージが台無し……!」
「イメージって」
俺が思わず苦笑いすると、はっ、と百百川さんがますます慌てた。
「あ、あうう……そんな顔するな! 私はふしだらじゃない! 断じてふしだらではないの!」
「もうわかったって」
「キィー! またそうやって笑う! 同学年の男子とは思えない憎たらしいほどの余裕! 私は品行方正なクールビューティなの! だって風紀委員長だもの! 両者の合意もなく男の子に抱きついたりしちゃいけないの! そんなふしだらな行為許されないの!」
ばるんばるんとふしだらな肉体を弾ませながら、百百川さんはふしだら、ふしだらと連呼した。
気の毒なぐらい真っ赤になった百百川さんは、地団駄を踏むやら顔を両手で隠すやらした後、涙目になって俺を見た。
「とっ、とにかく! いっ、今の私は忘れて、ね? 別人がやったと思って! ねっ!?」
「わかったって」
俺が頷くと、百百川さんの興奮はようやく萎んだようだった。
「あの……それとね今日はありがとう」
ふと――。
百百川さんは俺の両手を取り、ぼそぼそと俯き加減に言った。
「助けてくれただけじゃなくて、猫のことまで、とにかくありがとう。あの時はちゃんとお礼も言えなかったのに……。あの、私、もし藤村君がグレてピアスとかしたときにかばってあげるぐらいしか出来ないけど……」
もちろん俺には今後ピアスなんてする予定はなかったけど――その必死さは手の温かみと一緒に十分に伝わった。
俺は少し吹き出し気味に言った。
「うん、ありがとう。約束だよ?」
俺が両手を握り返すと、百百川さんはバッと真っ赤な顔を上げた。
「ちなみにこれは独り言だから先生には言わないでね!」
「うん? うん、それはもちろん……」
「きっとだよ? とにかくありがとう! そしてさよなら! また明日――!」
それだけ言うなり――。
うぃやああああああ! という奇声を発しながら、百百川さんは夕方と同じようにだばだばと――もの凄い勢いで走っていった。
流石は陸上の短距離選手と思える力走の度に、ジャージに危うく包まれた尻が、まるで俺にさようならをするように左右に揺れた。
二十メートルぐらい離れてから――。
はっ、と声を上げて、百百川さんが立ち止まった。
「あっ、あの、藤村君!」
「え――何?」
「たまにでいいんだけど……藤村君の家に猫を撫でに行ってもいい?」
「え? ……ああ、いいけど」
「やった! じゃあまたね!」
律儀に喜んでから、百百川さんは再びだばだばと駆け出していき、やがて角を曲がって見えなくなった。
彗星のように消えていったその姿を見ながら。
百百川さんって何だか想像していたのと違うなぁ……と他人事のように考えていた。
クールで孤高な百百川さん。
スプリンターの百百川さん。
身体は派手だけど、至って真面目で几帳面で物静かな百百川さん。
反面、一皮剥けば隙だらけで、すぐに赤面する百百川さん。
話をしてみるとあんな人だったんだなぁ――と考えながら、俺はフッと笑った。
なんだか、身体の奥底、手を伸ばしても届かない場所が猛烈に痒く感じていた。
俺に厄介な女への抗体がなかったら。
もしかしたら――。
急に、そこから先を考えるのが気恥ずかしくなって、俺は無言で踵を返した。
途中、百百川さんにしたたかに押し潰されたエンラクが、にゃあ、と不満そうに鳴いた。
8月15日、亡き祖父母の墓前に「なにかいいネタを授けてくれ」と手を合わせたましたところ、その日の夜にこんな夢を見ました。
それはブロック塀にできた穴に尻がハマって抜け出せなくなっている美少女の夢でした。
この話は徹頭徹尾、その夢の中で展開された内容となっております。
起きたときにはその下品さと、予想外のミステリ風味にしばらく笑ってしまいました。
というわけで、
「面白かった!」
「下品すぎ!」
「尻フェチにしやがってどうしてくれる!」
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実はあともう一作ネタはあるので、そのうち気が向いたら続きみたいなのも書くかもしれません。
どうぞ評価の方よろしくお願い致します。
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『エーリカさんは「オサナナジミ」 ~幼馴染のハーフ美少女が色々昔の思い出話をしてくるんだけど、アレ? 君って確か高校一年生の時に日本に来たんだよね? 俺たちって本当に幼馴染だっけ?~』
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