偽彼氏の観察4
宜しくお願いします
徐々に加筆と手直しを増やしております。
ショッピングモールの買い物を済ませて家に戻ると、加瀨が今住んでいるマンションに戻って、もう少し荷物を持って来ると言って出かけようとした。
「1人で大丈夫?何か手伝おうか?」
と声をかけると、加瀨は少し思案していたが
「手伝ってくれると助かる」
と、微笑んでくれた。ごめんよ…加瀨、あなたの綺麗な笑顔を見ると自分の邪な思いを見破られそうで胸が痛い。
そう…上手いことを言いながら、加瀨のマンションについて行って見たいものがあるのだ。
少しでも嘉川への悲恋の執着の欠片(物的萌えグッズ)を採取出来ないかと思っているのだよ!
主に本棚の裏側とかベッドの下とか……あれ?これ息子のエロ本を探そうとしている母親みたいじゃね?
心に疚やましさを抱えたまま、加瀨の住むマンションに向かった。そして車で20分少々で小綺麗なワンルームマンションの駐車場に着いた。
実は男の人の1人暮らしの部屋に突撃するのは初めてなのだ。フハハハハハッ!
「おーい、駐車場で高笑いしてると通報されるぞー」
「すぐ参りますっ!」
慌てて、マンション入口で呆れ顔で立っている加瀨の元へダッシュした。しかし加瀨と共に室内に入ろうとした私は、加瀨に玄関先で待て!と言われた。
「少し片づけて来る。5分待て」
「……」
「何だよ、その目」
「いいえ別に…はい、残り4分40秒!」
加瀨は舌打ちをして部屋の中へ入って行った。
ちっ…舌打ちしたいのは私の方だっ。今、絶対に嘉川への愛のポエムとか嘉川のことを想いながら編んだ手編みのマフラーとか、嘉川のこと妄想しながら〇〇〇したアレを処分したりしているんだっーー!全部私によこせっ!
「3分経過ー!」
部屋の奥に向かって怒鳴ってやる。
「まだだっ!」
私は玄関先で見える範囲をチラチラと見て嘉川への愛の残像を目を光らせて探すことにした。
どこだ…どこだぁぁ!?
「おい、もういいよ…って床に這いつくばって何してるんだ?」
「はい……お邪魔します」
片づけを無事終えたらしい加瀨の後に続いて部屋の中へ入った。フム、典型的な1DKマンションですね。小ざっぱりとした男の子の部屋!みたいな印象だね。
「取り敢えず、掛け布団と枕だけは持って行きたい」
「え?それだけ?」
「布団と枕が変わると眠れねぇ…」
そうでございますか…
加瀨は来たついでに着替えなども、もう少し持って行くと言うのでクローゼットを触っている。
チャンスだっ!
私は加瀨のベッドの枕を紙袋に詰めるフリをして、ベッドの下を覗き込んだ。
何もねぇ…
更にタオルケットを畳んで、掛け布団を畳んで…さりげなく立ち上がり、壁に貼ってあるコルクボードに近づいた。
写真だ…知らない男女と若い頃の…多分大学生の頃の加瀨だ。なんだこれ、どこの芸能人だ。
他の写真を見る。これ社内旅行のだ…3年くらい前かな?加瀨と嘉川と…ん?これ私が嘉川の横に写ってなかったっけ?私もこの写真、焼き増ししてもらって持ってるし。
あれ?写真をよく見ると……嘉川の横の端が切り取られている。私が切られている。
はっ!そうかっ!?加瀨と嘉川のツーショットにする為に、邪魔な私の写真を捨てたんだ!
あああっ!嘉川とのツーショット欲しかったよね!分かる…分かるわっ私が邪魔してごめんね〜!いくらでも煮るなり焼くなりして邪魔者(私)を捨ててやってぇ!
「食器とか…あっ!何見てんだよ!?」
写真を舐めるように見ている私に気が付いたのか、加瀨が慌てて近づいて来た。
私はニンマリ笑いながら加瀨の美麗な顔を見上げた。
「嘉川とのツーショット写真だね♡」
「…」
「あれ~?おかしいなぁこの写真、私も嘉川の横に写ってたはずだよね~?」
笑みを深めて加瀨を見詰める。加瀨は頬を赤くしている。
「いいよ、いいよ~その代わり本棚の裏を捜索させてくれたまえ」
「本棚の裏?」
「そうだよ。そこにあんたの愛の軌跡が隠されているんだよね?」
「愛の…はっ!え、エロい本とかそんなとこにはねーからぁ!?」
私は別の意味でニンマリした。
「そんなとこには無いのなら、あんな所には隠しているんだね…さしずめ、下着などを入れているそのチェストの中だね?」
加瀨がビクンと肩を動かした。図星か…いや私が見たいのはエロい本じゃない。嘉川への萌え上がる愛の暴露本だ。
「見せなさいよ」
「なっ…絶対ダメだ!」
「誰にも言わないから」
「見せてくれたらお礼するから」
加瀨の顔色が変わった。ええ、ええ…お望みとあらば、嘉川の使いかけの割り箸でも、会社で嘉川が飲んだ自販機の飲みかけのコーヒー缶でも…私が入手致しましょう。
私は加瀨が怯んだ隙に、チェストの引き出しを開けて加瀨の靴下が入っている奥に手を突っ込んだ。硬くて平たい物に手が触れたので、それを引き出した。
「やめっ…!」
加瀨の手を振り払いつつ、私は引き出したブツを見た。
「『オフィスは淫らに燃え盛る クールツンデレ同僚を突っ込みまくりの蜜残業』」
「声に出してタイトルを読むな!」
取り出したブツは嘉川への愛の暴露本じゃなくて、美乳のおねーさんが事務机の上でミニスカの足をおっぴろげているただのエロDVDだった…
なんだ~嘉川へのラブポエム集とかじゃないんだ…
「ただのエロDVDか…何々?『残業で2人きりになった気になるアイツは普段はクールで仕事の出来る女。コピー機が壊れたと言うアイツに近づいて後ろからも前からも…』」
「あらすじを読むなっ!」
エロDVDは加瀨に取り上げられた。なんだよそれ~期待させやがってぇ。
「もう何だよ~もっとすごい愛の欠片が隠されてるんじゃないかと期待したぁ!」
加瀨は顔を真っ赤にして私を睨んでいる。
「これ以上すごいのって何だよっ。俺は結構な精神的大ダメージ受けたけどなっ!」
「オフィスラブものでしょう?普通じゃない…」
加瀨の目が怪しく光った…気がした。
「普通じゃないぞ~ものすごくエロイんだぁ~普段素っ気ない…あ~ゴホン…」
力説仕掛けた加瀨は咳払いをして会話を強引に終了させた。そしてさり気なく、本当にさり気なくエロDVDを下着と一緒にボストンバッグに入れた。
後でコッソリ見るつもりかよこの野郎ぅ…
私達はそれからお互いに無言のまま普段使いのマグカップやら、お箸…そして掛け布団や枕などを持つと、車に積み込んだ。
エロエロしいブツを見られた加瀨は別に機嫌が悪そうではない…が、気軽に話し掛けるタイミングを掴めない。
そうこうしている間に、気まずいまま我が家に帰って来てしまった。
荷物を運び入れて加瀨の部屋に一緒に入る。この部屋も作り付けのクローゼットはあるが、他の家具類は一切無い。
因みにエアコンは各部屋に設置されている。床暖房もある。
「夜、寒くない?ベッドは無いけど、予備の毛布はあるよ?」
私がそう聞くと加瀨はちょっと目を見開いた後
「貸してもらえる?」
と、少し微笑んだ。よしよし、気まずいのは嫌だものね。
私は自分の部屋のクローゼットから、来客用に置いてある毛布を加瀨の部屋に運び入れた。
「今日は豆乳鍋するね」
毛布を加瀨に渡しながらそう伝えると加瀨は嬉しそうに微笑んだ。
夕食は豆乳鍋と里芋の煮物、豆乳鍋に入れた鶏団子の残りを使った、鶏団子の甘酢あえ、加瀨にリクエストを聞いて、晩酌は日本酒を出してみた。
「本日の日本酒は大分の地酒です」
「おおっ!」
私はそれほど飲まないが、居酒屋でたまたま飲んだ地酒が美味しくて取り寄せしていたのだ。どうせなら飲める人に美味しく飲んで貰いたいしね。
加瀨は鍋と料理に目を輝かせている。
「鍋美味い!里芋も美味い!鶏団子も美味い!」
いや〜こんなに喜んで貰えると作りがいがあるわ。
「鍋のスープは即席だからさ〜最近は便利だね」
「でも、1人鍋より全然美味しいよ」
加瀨様ニッコニコだ。
順調に食して鍋の具が大分減ってきた所へ、締めにラーメンの麺を投入すると加瀨は益々喜んで見悶えている。
「はぁ〜いいわ。やべぇお腹も心も温かい…」
何気に名言を語りつつ、食後に日本茶をすすっている、イケメン彼氏(偽装)。
そんな加瀨に私は気になっていたことを頼んでみた。
「加瀨」
加瀨は、何度か瞬きをした後に
「何?」
と聞いてきた。
「さっきの『オフィスは淫らに燃え盛るクールツンデレ同僚を突っ込みまくりの蜜残業』を見てみたい」
加瀨は私がそう言うと若干、白目を剥いていた。
良いじゃないかよぅ~正直興味はあるけれど、レンタルショップでソレ系の作品を借りる勇気はない。
私の前の彼氏はそんなことを聞ける雰囲気じゃなかったし、これは絶好の機会だ。
彼氏(偽装)が所持してるんだから、是非ともどんな作品なのかを確認したい。
暫く、押し問答をしたけど加瀨が折れてくれた。食後の片付けを終えた後、リビングの55型の大型テレビで見ることにした。
そしてソワソワしながらディスクをレコーダーのトレイに置いてから気がついた。
あれ?こういうのは部屋でコソコソ見るのが普通じゃなかったっけ?
うっかりしていた。大画面で繰り広げられる、アレやソレ。
最初は集中して見ていたけれど、結構唐突に始まるんだな〜とか、いやいやそんな展開ある?とか、画面にツッコミを入れていたら冷静になってきた。
画面の中は結構な佳境だ。私は無の表情をしていたようだ。
「相笠…まだ見るの?」
と加瀨がおずおずと顔を覗き込んで聞いてきた。
よく考えたらソファに男女(偽装恋人)が並んで観賞するものではないな。ひょっとしたら加瀨は今、猛烈に照れ臭いのではないか?
そう想い至ると、途端に申し訳ない気持ちが膨れ上がってきた。
「ごめんね、加瀨に折角見せて貰って言うのもアレだけど、クールツンデレの良さが私には分からんわ」
と、多分真顔だと思う表情を向けて答えたら、加瀨はまた若干白目を剥いていた。
「無自覚怖ぇ…」
意味が分からない…
エロDVDは佳境だったけれど、加瀨は再生を止めるとケースに戻してしまった。
「最後まで見ないの?」
「見たところで、どうも出来ない」
よく分からない。
加瀨はDVDを手に持つと、足早に部屋に戻った…と思ったらまたリビングを顔を出した。
「あ、それと一応彼氏だから俺の事、拓海って呼ぶようにしろよ。その方がお母さん達に変に勘繰られなくていいだろ?」
「あ…はい。そうだね〜じゃあ私の事は千夏って呼んでね、拓海」
加瀨…今日から拓海は自分で呼べと言ったくせに驚いた顔で私を見た。
「無自覚怖ええぇっ…」
だからさっきからそれ何だよ!?
私は後から入ることにして、拓海がお風呂に入っている間に明日のお弁当のおかずの下ごしらえをすることにした。
今日は嘉川とのツーショット写真という萌えアイテムやスーパーの店員さんに嘉川を重ねて見たりする尊い拓海の姿を観察することが出来た。私に対する萌えのご褒美を沢山頂けたな。
これは愛しの尊き彼氏(偽装)に御返しをさせて頂かないとね!
よしっ!名付けて『嘉川への愛と尊さの詰め合わせ拓海(匠)弁当』だぁぁ!
そうと決まれば、海苔の飾り切り作っとこ。ハサミで海苔を切っていると拓海がお風呂から出てきた。
「上がったよ〜」
「は…ぃ!?ちょっとっ半裸はやめてよ!」
うはぁ〜艶かしいね!拓海は綺麗なシックスのパックさんですねー!背中の筋肉までが綺麗ですねー!
「何だよ、彼氏だろ?しかも未来の旦那だし?」
いや?え?まあ、そういうことも確かに了承しましたし…確かに未来の旦那(偽装)なのも間違いじゃないけど〜
「分かったよ…拓海の好きにすれば?」
ちょっと睨みながらお風呂上がりのシックスのパック偽彼氏を見ると、拓海は顔を手で覆って天井を向いていた。
何かやべぇとか、ぶつぶつ言ってるけど湯あたりしたのかな?
「拓海、気分悪いの?冷蔵庫にスポーツドリンク入ってるよ」
拓海はフラフラしながら冷蔵庫を開けるとペットボトルのスポーツドリンクを取り出して飲んでいる。
「明日の朝ごはんは和食にする?洋食?」
拓海はまだ顔を赤くしたまま、どっちでもいい…と言った。
「そうしたらまずは一週間ごとに和食と洋食交互にしてみようか?そのパターンがしっくりこなければ変えればいいし」
「お、それいいな。ん?海苔…それ何?」
「これはお弁当用だよ、ネタバレになるので全ては見せられないっ!」
と、言って海苔の飾り切りを覗き込もうとした拓海の前に回り込んだ。
ひょぇ!?湯上がりのしっとりとした前髪が私の顎に当たって上目遣いの拓海の目が私の顔の前にある。
「千夏…」
「な、何?」
「おでこに海苔がくっついてる」
「…!?」
恥ずかしい…猛烈に何かを勘違いしたので恥ずかしい。
そうだ、拓海は嘉川LOVEを貫いているはずだ。女子のエロエロしいDVDを見たりするので、男女どちらにもイケる口なんだろうけど…私なんかに欲情する訳がない。
欲情…単語すらも生々しい。妄想するのはやめよう…私は飾り切りの海苔を片付けると、お風呂に入ることにした。
そういえば、男の人と初めての同棲(仮)だ。寝起きの不細工な顔や完全スッピンを見られる訳だ。まあいいか。拓海が私を見ても何も起こる訳じゃないしね。
「ふぃ〜っ」
お風呂から上がってキッチンに行くと、拓海がリビングでテレビをつけたままノートパソコンを弄っていた。テーブルの上には資料?のようなものが置いてある。
結構真剣にパソコンを叩いているので、私は声をかけずにお弁当のおかずの下ごしらえの続きをした。
おかずの下ごしらえが終わり、トイレに行って出てくると、丁度拓海はリビングから出てきた所だった。
「お疲れ〜寝るわ、おやすみ」
「ん、おやすみ拓海」
何だか拓海がじーっと見詰めてくる。あ、もしかしてスッピンだーとか思ってる?
拓海がスッと手を伸ばしてきたので構えていると、拓海は私の頭を撫でてきた。
ん?何だ?
「おやすみ」
深夜に極上の笑みを撒き散らして、イケメン彼氏(偽装)は部屋に入って行った。
夜中に心臓に悪いよ。
翌朝
いつもより早目に起きて、お弁当を作った。(嘉川への)愛の籠ったお弁当に仕上がったはずだ。今日の朝食は和食にしてみた。鱈の西京焼き、もずく酢、大根おろし、味噌汁、漬物三種。
朝食を作っていると朝から爽やかイケメンがダイニングにやって来た。
「おはよう、和食だ!」
「お弁当出来てるよ〜、はい」
加瀨の一食の食事量も長い付き合いで大体分かるので、細かく聞かなくても分かるのがいいね。
「なぁ…あれ入ってないよな?」
あれ?ああ、あれか。拓海の唯一嫌いな食べ物か。
「パクチーは入ってないよ」
寧ろお弁当のおかずにパクチー入るなんてエスニック過ぎると思うのは私だけ?
2人で仲良く和食の朝食を頂いて、拓海と一緒に出社するのは断固拒否をして、時間差でマンションを出ることにして別々に出社した。
「相笠さんおはよう」
「おはよう〜川上さん」
おや?川上さん、今日は素敵な色合いの口紅をお使いだね?今年の秋冬の新色かい?
「相笠さん今日、まだ営業部の栗本さんの領収書がまだ提出されてないから回収に行こうね」
とそれはそれは嬉しそうに微笑んでいた。
おお〜っそうか!今日再び営業部に突撃出来る訳だね。
野上課長に新色の口紅をプルンと見せることが出来るね。栗本の馬鹿でもたまには役に立つじゃないか!
私は『愛の狩人』を取り出し、秋冬の新色ルージュの唇に恋を乗せて川上さんは今日も野上課長への愛を囁く。尊い…と日記にしたためた。
お昼休み、川上さんと後輩の女子2人と食堂に向かった。お昼が近づくにつれて笑いが止まらない。
拓海、お弁当喜んでくれるかな〜!海苔の飾り切り頑張ったもんな〜
拓海のお弁当はご飯とおかずに分けた二段重だ。そしてご飯の蓋を開けると海苔で『ヨシカワ』と字を描き、周りにハートに切り取った海苔を配置した…グフフ。
そしておかずの方には唐揚げやきんぴらごぼう等を入れつつ…チーズオムレツの上に『LOVE』の文字をケチャップで描いておいた。
ご飯とおかずを合わせて『ヨシカワLOVE』だ!どうだ!
食堂に入って拓海の姿を捜すが、いないのか?なんだ…嬉しさと気恥ずかしさで悶えるイケメン拓海様の姿を見たかったな。
残念に思いつつ…お弁当を広げて皆で食べ始めた。
「いつ見ても相笠さんのお弁当美味しそうね」
「それ、オムレツですか?」
「うん、チーズ入りオムレツ」
「わあっ!ご飯の上に海苔でハートマーク作ってる!映えるね!」
皆にお弁当箱を覗き込まれる。飾り切りで残った海苔も有効活用だ。
うんうん、味も美味しい。女子達の可愛い恋愛の話を聞きつつ、このお店が〜新作のあれが〜とか色々話しを聞いてお昼休憩は終わった。
そして私達が経理部のフロアに戻ってくると、おや?経理部の扉の前に女性が3人いるよ。あれ?あのメンバー…女子達がこちらを見た。ん?3人が足早に近づいてくる。
「ちょっと相笠さん!あなた、加瀨…拓海と付き合っているって本当なの?」
やっぱり!?この3人、加瀨 拓海の社内での歴代彼女達じゃないか!
因みに
拓海本人から、この方々と付き合っている時に具体的に誰と付き合っているとは聞いたことはない。全ては口の軽い彼女達からの自己発信だ。そして数ヶ月ですぐに別れたとのことも彼女達の自己発信で知らされる、社内の人間の周知の事実だった。
それが社内恋愛の彼女達3人共、ほぼ同じような過程を経て破局になっており、拓海はそれからのお付き合いは社外の人にしているようだ…私の知る限りでは。
更にこの彼女達は必ず一度は私を牽制しに来ている。
「私が加瀨 拓海の彼女よ!」
「知ってます」
そしてすぐ別れる…何だかなぁ。
私は経理部の前の廊下で過去カノ達が揃っているこの状況に首を傾げていた、しかも…私と加瀨 拓海が付き合っている?昨日決まったお付き合い(偽装)が何故次の日にバレているのだ?
「それ誰が言ってたんです?」
「拓海本人よ!」
私は絶句した。……あいつイケメンのくせにペラペラ喋ってっ何をやってるんだ!
「どういうつもりよ?あなたと付き合うなんてっ…」
「拓海があなたとなんて…!」
「厚かましいっ!」
私は冷静になった。この女達は何を言っているのだろうか?
「あの、失礼ですが皆さんは加瀨 拓海とまだお付き合いされているのでしょうか?」
元カノ達は言い淀んだ。
「それは…だけどっ…た、拓海はあなたと付き合うなんてっ…」
「そうよ!拓海は営業の次期課長候補でっ…」
それと、個人的な付き合いの何が関係あるのだろうか…
「加瀨がそう言っていたのですか?」
「え?」
元カノ達は固まった。
「加瀨本人が『私では釣り合わない、私では厚かましい、私とは遊びだ』と言っていたとしたら、彼は裏でこそこそ言わないで私に直接言うと思います」
私は3人をぐるりと見回した。
「そうよ。元カノだからって相笠さんに付き合いヤメロなんて言う権利あるのかな!」
1つ下の堀田さんが私の前にグイッと出るとそう言った。すると川上さんが
「加瀨さん呼んで来て確認すればいいんじゃない?」
と、とんでもない打開案を示してきた。皆に急かされて拓海に、ちょっと来いや!メッセージを送った。すると、拓海はニコニコしながら吞気に現れた…現れたよっ!?こっちの身にもなれってんだ!
「何だ?」
私は顎でしゃくって拓海に例の3人を指し示した。
「彼女達が聞きたいことがあるんだって」
「何?」
拓海は元カノ達が勢揃いしているのに気が付いたのか、怪訝な顔をした。
元カノを代表して御年30…を越えられた、子持ちの既婚者(元カノ1号)が話しを切り出した。
「あ、相笠さんと付き合ってる…って」
「そうだよ」
あっさり…バッサリ…若干隠そうかな?としていた自分が恥ずかしくなる?ほどのあっさり告白だ。
「なん…で?」
元カノ2号が震え声で聞いた。
「だってずっと好きだったから」
ペロンと軽く返答する、偽彼氏さん。
すごいね~狼狽えたりしないし堂々としたもんだ。偽装彼氏だけど…
「どうしてっ相笠さんなの?」
元カノ3号が私を指差した。こらこら?先輩を指差すんじゃないよ?
「だってずっと結婚したいって思ってたのは千夏だから」
川上さんや堀田さん達から、きゃああ!と可愛い悲鳴が上がる。華麗に嘘を重ねる、偽装彼氏&未来の旦那に私は目眩がした。
ベリーズカフェ様では、あっさりとくっついていたのですが、こちらではジレジレすれ違いを暫くお楽しみ頂ける仕様にする予定です^^