表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

偽彼氏の観察3

宜しくお願いします。再掲載で少し加筆していますが、内容に大きな変化はありません

頭の上でスマホのバイブレーションが響いている。今何時だろう?


ノソッ…と起きだしてサイドテーブルに置いたスマホを見た。


メッセージが5件…誰だ?送信先は全部加瀨からだった。


『おはよう』


『早く起きろ』


『当面泊まるだけの荷物を持って行く』


『今から家を出る』


『さっさと玄関を開けろ』


リンゴーン…とマンションの玄関扉のベルが鳴っている。


寝起きのまま…応対用の画面を覗き込む。加瀨が映っている。


『まだ寝てんのかよ…おせぇ~よ』


「今…開けます」


朝からイケメンの襲来だ。私達、結構夜更かししたよね?私は顔もむくんでるし…瞼は重いし、体がバッキバキに凝っているんだけど、なんで加瀨だけ爽やかなの?


うちの玄関から颯爽と入って来てジーンズにラフなニットでコート羽織ってるだけなのにイケメンですね…


「おはよー何?今起きたのか?顔洗ってこい…寝起きの顔は不細工、三割増しだ」


ってめ~!乙女の寝起きを襲っておいて、不細工とは何事だぁぁ…


文句は心の中に押し込んで顔を洗い、寝間着を着替えて加瀨の前に出ても文句を言われない程度に整えてからリビングに行った。


「取り敢えず今日から泊まるわ~宜しく!」


「そう…こちらこそ(萌えを)宜しくお願い致します」


私はペコリと頭を下げた。早速、加瀨に部屋を割り当てることにする。


「6部屋空きがあるから好きな部屋使ってね。全部見る?」


「見る、見る」


賃貸物件の内覧に来ている人みたいだな~と思いながら、玄関に近い部屋から中を案内する。


「うぉ~ここのベランダ見晴らし良い!」


「角部屋だからね~この部屋はシャワーとトイレが付いてるよ」


「何だって?部屋にトイレとシャワーついてるのか!?」


「ついてない部屋もあるよ。真ん中の二部屋。それと端の部屋と私の隣の部屋はお風呂もついてる」


加瀨は走り込んで室内を確認している。本当に内覧に来ている人のようだ。


「別に風呂は内風呂じゃなくてもいいのか?」


「あ、勿論。大きさで言ったらバスルームの方が断然大きいし~見る?」


「見る!」


加瀨は脱衣所からバスルームに入って行って、ちょっとした温泉並みの大きさの浴室に大騒ぎだった。


「フフフ実はね~ちょっと来たまえ」


加瀨を玄関の横の階段に誘う。加瀨はびっくりしている。


「ここ最上階だろう?まさか屋上行けんの?」


私は階段を上がり、屋上の扉の内鍵を開けた。


「じゃーーん!何と屋上には室内プールとジャグジーがあるのだぁ!」


加瀨は屋上に飛び出してプールとジャグジーの存在を見るとめっちゃ喜んでいた。


因みに屋上にはコテージを設置しており、お泊り気分も味わえる。ここでBBQなんていうのも乙だね。


私はパーリピーポでもない、お独り者なのでジャグジーもプールもコテージも使ったことはないけれど…


「そうだ、加瀨。あんた中々の筋肉質なお体をしているとお見受けするけど…」


加瀨は息を飲んで自分の体を抱きしめた。


「お前っ…透視でもしてんのかっ!?変態っ!」


変態なのは否めない。


「ここに住むのだったら住人専用のフィットネスサロンがこの下の階にあるから、そこ使ってもいいよ」


「何だってぇ!?おいっお前…マジで金持ちなんだな!」


「いや母親がね?」


そうだ、加瀨と騒いでいたらお腹が空いてきた。


「加瀨~変な時間だけど、ご飯食べる?」


「食べる」


加瀨はキリッとした顔で即答した。じゃあ朝ごはん兼昼食を食べましょうか~


冷蔵庫の中を開けて、納豆のパックを取り出した。


「加瀨、納豆食べられる?」


「好物だ」


加瀨はキッチンの横のダイニングに来た。


「相笠の弁当のおかず、ちょこっとしか食べたことなかったからがっつり食べるの楽しみぃ」


おお?そうかそうか!…ん?いや待てよ?


「おいっそうだよ!加瀨、あんたまさか弁当まで作って欲しいとか言うのではないのか?」


加瀨は目を輝かせている。


う~んこれは家事分担までもう少し話をしておくかな?


話し合いは後でするとして、中途半端な朝食の時間になったがTHE日本の朝食みたいな感じを狙って食事を作っていく。


大根おろし(付合せはお好みでちりめんじゃこ)と納豆(付合せはお好みで青ネギ)だし巻き、なめこの味噌汁、お漬物。


洋食も出してみた。


クロワッサン(市販)、ベーコンのアスパラ巻き、即席のコーンスープ、じゃこ入りサラダ、ヨーグルト(市販)、豆から挽いた珈琲。


キッチンテーブルに座って待っていた加瀨の前に和洋の食事を出すと、益々顔を輝かせた。


「両方食べたい!」


と加瀨は言い、さすがに加瀨の胃がびっくりするんじゃねぇかな?という心配をよそに恐ろしい速度で食べていく。


私はクロワッサンを食べながら偽装同棲に際して、料理当番をどうするか?を聞いてみた。


「洗濯と掃除は自分の分は自分でする。ただ…料理はそんなに得意じゃない」


と、加瀨は上目遣いで私を見てきた。なんだその甘えるような目は?


「そりゃそうだよね。私ぃ加瀨が社食でも、かつ丼か天丼しか食べてるのみたことないし。よし、分かった。萌えと尊さと等価交換だ。加瀨の分も料理をしよう。ただ、少しはバイト代を払いたまえ」


加瀨はコピー用紙に『誓約書』を書いてみせてきた。おおっなるほど~それから話し合って毎月、料理当番のバイト代として2万円を加瀨から貰うことになった。


安いか高いかは分からないが、私はこれでいい。


さて…洗い物を一緒にしてくれている加瀨を見上げる。あんた~この豪華な部屋に似合う男だね!


それはともかく加瀨は結局、私の隣の部屋に住むことにしたようだ。


「離れてるの寂しいから」


と1人になったら死んじゃうウサギみたいなことを言ってきた。上目遣いはヤメロ!


そんなウサギな加瀨は自分の部屋の片づけを始めた。


さて…食い扶持が増えたので食材を買い足しておかなきゃならない。私は買い出しリストを作成する。


トイレットペーパーとお米と…醤油に味噌、なんだこれ結構な重量とかさ張る食材ばかりじゃないか。


私は部屋にいる加瀨に外から声をかけた。


「加瀨ぇ~私、買い物に出て来るよ。留守番宜しく」


するとすぐに加瀨が部屋から顔を出して


「ちょっと待ってよ。一緒に行っていい?荷物持つよ」


と、良く気が付くイケメンですね!を発揮してきた。


「ん~?でも結構な量だし歩きでは疲れるよ?私なら自転車に積んで持って帰れるし」


「相笠…チャリで買い物行ってるの?お嬢様なのに?」


「お嬢じゃないよっそれにお嬢様に対して偏見があるよ~お嬢だってチャリは乗る!因みに電動自転車だ」


加瀨はなぜだかニヤッと笑った。


「俺、車に乗ってきてるし、送迎するよ」


何だって?車?


「あんた車持ってんの?え?今乗ってきてるの…どこに停めてるの?」


「ちょっと歩いた所のパーキング」


「早く言いなよ~ここに二台分駐車スペース確保してるから、好きな方に置いておいて」


加瀨は目を丸くしている。


「二台も駐車場借りているの?」


「借りてないよ、自分のだもん」


うっかり口が滑ったけど、加瀨は気にしていないようだ。へぇ~とか言いながらコートを羽織っている。


このマンションは私の個人所有だ。駐車場は兄と母が車で来た時の為に最初から二台分空けてある。加瀨は私の親に遭遇しても私に対する対応は前と変わらない。


そうか心に秘める嘉川への熱い想いが、財力も権力も寄せ付けないのだな、流石輝き男子!


加瀨と一緒にマンションを出る。あ、そうだ。加瀨を手招きしてマンションのエントランスホールのコンシェルジュサービスのカウンターへ向かう。


「おはようございます、相笠様」


「おはようございます、富田さん。新規住人の登録を…」


富田さんは30代後半の元ホテルウーマンだ。富田さんは加瀨の姿を認めると、少し微笑んだ。


私は、富田さんの差し出した住居人新規登録用紙を受け取ると


「加瀨、これに名前書いて~必要なの」


加瀨は微笑みながら用紙を書き込み始めた。富田さんと目が合うと優しく微笑まれた。何だか恥ずかしい…富田さんは書き終えた加瀨の用紙を見て更に笑みを深めた。


「加瀨様ですね、富田と申します。宜しくお願い致します」


加瀨はまた45度の綺麗なお辞儀をした。


「こちらこそ宜しくお願い致します」


「富田さんお買い物に出てきます」


「はい、行ってらっしゃいませ」


私はエントランスから外へ出ると、マンションの横の半地下になっている駐車場を指さした。


「ここが駐車場ね~駐車番号は1と2。どっち使ってもらってもいいからね。これがマンションの門のオートロックキー、車の中からでも門に向かって発射してたら門が開くよ」


「発射って…」


私がそう言って門扉に近づいてエイッ!とロックキーを門扉の辺りに向けると、門扉が自動でゆっくり開いていく。門扉を抜けると、加瀨にロックキーを渡した。


「これ忘れずに持ち歩いててね。忘れててもコンシェルジュのインターホン鳴らせば開けてくれるけど、手間だからね」


「了解!」


さてさて加瀨の車に乗せてもらおうかな~まさかのスポーツカーとかじゃないだろうね?車高の低い車は圧があるようで好きじゃないんだけど?


うちのマンションから少し歩いた所のコインパーキングに停めてあった加瀨の車は、濃いブラウン色の車体は丸みのある女子っぽい車だった。おしゃれ!


「女子力高っ!」


「どういう意味だ!」


私達は女子力の高い加瀨の車で少し遠方のショッピングモールに向かうことになった。


加瀨の運転は快適だった。加瀨の女子力の高い車の車内は居心地がいい。今日は普段は行かない遠方のショッピングモールに出かけるとあって私は浮かれていた。浮かれついでに車中で『愛の狩人』の観察日記をしたためていた。


「動いている車の中で書き物なんて酔うんじゃないか?」


と加瀨に心配されたが、萌えと興奮でまったく問題なくショッピングモールに着いた。


萌えは車酔いさえも凌駕する…


「食料品以外に何か買い物とか無いの?」


駐車場から出て、通路を歩きながら加瀨にそう聞かれたが、急に振られても思いつかない。


「今日は特にないからいいよ~加瀨は?」


「俺もねえな~じゃあ直にスーパーに行くか?」


私達は張り切ってスーパーが入っている区画へ出かけた。…が


「うわっアレ可愛い!」


「……」


私は駐車場を出て屋内に入りすぐ横にあった靴屋で足を止めた。許してくれっ…!この可愛い靴達が私を魅了するのだぁ…Newと書かれたポップが掲げられている陳列棚に突撃した。


「あぁ〜迷うぅ〜加瀨~右の靴と左の靴どっちが良い?」


加瀨は迷うことなく


「左の紺色」


と言った。即決だった。


「迷わないね」


「お前の中身はピンクやオレンジっぽいけど、見た目はクール系だしな」


ブルベとかイエベとかいうアレのことか?


「彼氏さんはよく見ていらっしゃるんですね〜」


んなっ!?そう店員さんに声をかけられて、違います!と叫ぼうとした言葉は加瀨の


「はい、可愛い彼女の事は24時間見詰めていますから」


と言うスイートミラクル口撃によって阻まれ、私の反撃は撃墜された。


私は口をパクパクさせるしかない状態だ。


店員さんや周りでたまたま靴を見ていた女子達が一斉に悲鳴を上げ、私に嫉妬しているのか、ものすごい目を向けてくる。


いやいやいやー!これ練習だからっ!本番の嘉川への愛の囁きはもっとねっちょりして濃厚な台詞として取って置いているからぁぁ…!


ああ…びっくりした。会計を待つ間に加瀨に怒鳴っておいた。こういうのを負け惜しみというのだろうか?


「次は無いっ!憶えとけよ!」


「何がだよ?」


結局、加瀨の選んでくれた紺色のパンプスを買った私は支払いを済ませ、靴の入った袋を受け取ろうといたが、加瀨が横から取り上げて持ってくれた。


「ほら、行くぞ」


…おいっ…何故左手を差し出す?それ知ってるぞ!王子様がお姫様にしている『エスコート』ってヤツだな!私だってだなーちょいとお嬢様な時もあってだなーダンスも貴明兄と踊ったこともあるんだぞー当然っエスコートもされたこもあるんだぞーどうだ、恐れ入ったかっ!


「変顔の練習、もういいか?」


「変顔の練習じゃないよ、もうっ〜分かったよ。これは予行練習だよね?本番(嘉川)をスマートにこなすための訓練だよね」


私は加瀨の左手に右手を重ねた。


そしてスーパーのある区画に行くまでに、雑貨屋で加瀨が使う食器類を買い、そして紅茶葉の専門店で茶葉を買い…ドラッグストアでトイレットペーパーとコスメ類を買い、全部加瀨に持ってもらったままスーパーに入った。


「至れり尽くせりありがとうございます、加瀨様」


「大好きな彼女さんの為だしね♪」


彼女さんのフレーズを嘉川に心の中で置き変えて練習しているのだ、言われている私はこっぱずかしいけど萌えの為だ、耐えてあげよう。


そして買い込んだ荷物をショッピングカートの下段に置いて…上段に置いたカゴの中にキャベツを一玉入れた。メモ紙を見ながら、売り場を練り歩く。


「そろそろお鍋のシーズンだけど、豆乳鍋は食べる?」


「おおっいいな~鍋の味はどれも好きだ」


「そっか…じゃあ鍋用に白菜とキノコ買おうかな」


そう言ってキノコを選んでいると…加瀨がポツンと呟いた。


「なんかこういうの良いよな…新婚カップルみたいで」


「え?」


何か加瀨が言ったのだが良く聞き取れなかったので、加瀨の方を見るとどこか遠くを見ている。その目線の先を見てみると…スーパーの若い男性店員が居て、箱から出したレタスの陳列をしていた。


加瀨の顔を斜め横から覗き込むと耳を赤くしていて、うっとりとした顔をしている。


…ん?あああ!よく見ればあの若い店員さん、割とがっちりしていて鼻筋の通った、涼し気な感じが…


嘉川に似てる。嘉川に似てるっ!


何それ何それぇ!?こんなスーパーの野菜売り場でも嘉川の残像を求めて恋焦がれているの!?萌えるぅぅ~滾るぅ~~尊いわぅ!私は鞄の中をまさぐった。


「相笠…」


「何?」


「お前、野菜売り場で何でその日記書いてるんだよ?」


「ちょっとした萌えの消化よ」


加瀨は渋い顔をした。


「早く仕舞え。ハァハァ言いながら何か書いてるの傍から見たらただの変態だから」


「……はい」


それはいけない。尊き者達を観察する愛の巡礼者のつもりが、通報されるようなことではいけない。私は粛々と『愛の狩人』を鞄に仕舞った。


スーパーの店内で加瀨はとても楽しそうだった。ビールを数種類買ったり、こんなつまみが良いとか…お弁当のおかずはコレが良いとか…。こんな楽しそうな加瀨滅多に見ないね。


「新婚さんなの?楽しそうでいいわね~」


お肉売り場で、横に並んだおばさまがニヨニヨしながらそう言ってきた時に気が付いた。


なにこれ、ほんとだよ…新婚さんみたいじゃない!ハイスペ男子の加瀨となら色んな妄想が滾るね。


「はい(妄想が)楽しいです」


おばさまと怪しい笑いで微笑みあった。


◇■◇


『愛の狩人』


××月××日(日)


今日から本格的に加瀨と嘉川の悲恋劇場を間近で観察出来るとあって興奮が冷めやらない。スーパーで会った嘉川似の男性店員に熱い目を向ける、加瀨のなんと色っぽいことか…


同居早々萌えをありがとう!尊い生き物よ…明日も恵みの糧(悲恋)を与えてくれたまえ。


明日のお弁当のおかず、何にしようかな~加瀨の分のおかずのイメージは『嘉川への愛の弁当』とかにしちゃおうかな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ