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偽彼氏の観察2

加瀨は壁ドン状態のまま、じっと壁を見ている?


んん…壁?私を見ずに壁を見てる?


「…大理石だ」


「へ?」


「壁、大理石だ…凄いな」


「あ…ははっ?そう、凄いよね〜!」


びっくりした以上に恥ずかしいっ自意識過剰じゃない…壁ドンじゃなかった!


よく見れば加瀨が手をついている壁は私の顔より少し離れている。


「と…とにかく上がって…うん、どうぞっ!」


恥ずかしさと緊張で慌てまくりながら来客用のスリッパを出した。


「うわ…内装もすげぇ、その玄関の隣の部屋は何?」


「あ…収納部屋。私は傘とか季節にしか使わない靴とか置いてある」


「すげぇ…」


加瀨を廊下を抜けた先にあるリビングに案内する。ええ、無駄にでかいリビングです。


「なにこれ!壁がガラス張り!?って…ソファかっこいい!すげぇこんな広いの初めて見た!」


加瀨は語彙力がは下がっているのか、すげぇばかりを連発している。私は加瀨をリビングに置いておいて…キッチンに向かった。


すぐにコーヒーメーカーを起動させる。コーヒーは豆コーヒーを挽いて飲む。私のプチ贅沢だ。


「どこか適当に座って待ってて」


「お、おう」


今、加瀨が居る無駄に広いリビングは普段は使っていない。毎日の食事はキッチンでご飯を食べている。寝室は二間続きなので、前室にテレビや机や本棚等の家具を置いてある。


私の家の中での移動はキッチン、寝室、風呂場とトイレと洗濯場とベランダぐらいしか移動しない。使っていない部屋が6室もあるという無駄っぷりだ


「はい、ブレンドコーヒーのミルク付き」


加瀨のコーヒーの好みは把握している。加瀨は俯いている。


私もミルクコーヒーを入れて豪華な推定○○万円のソファに腰をかけた。マンションに最初から置かれていたソファで、自分で買ったものではない。


「明日、お見合いって本当?」


「うん」


「行くつもりだった?」


「…う~ん。仕方なく?」


加瀨はやっと私の方を見た。


「俺が恋人宣言して助かった?」


「助かった!」


私は即答した。そこは間違いない。加瀨の機転のお陰で明日、したくもないお見合いをしないで済む。


加瀨は頷いた。


「そうか…。じゃあ当面は『彼氏』のフリしなきゃな」


「へ?」


「へ…じゃねーよ。あのお兄さん達ならしつこく言ってきそうじゃないか?」


確かに加瀨の言う通り。


「加瀨…聞かないの?」


「何が?」


加瀨はコーヒーを飲んで微笑んでいる。美味しかった?笑顔もイケメンですね。


「こんな豪華なマンションに住んでいる理由…」


「聞いて欲しいのか?」


「半々…」


「そうか…じゃあ話したい事、話せる範囲のことだけ話してみろよ」


何と顔もイケメンだけど、話術の誘導の仕方までイケメンじゃないか!もはや何にでもイケメンつけときゃいいだろ状態になっているけれど…


「え~とさっきマンションの入口で騒いでいたのは元、義理のお兄様達です」


「元、義理の兄?」


そう問いかけてきた加瀨に私は頷いて見せた。


「私は…赤ちゃんの時に父の再婚により、義理の母とあの義兄達が家族になって…それで14歳の時に親が離婚して、ここに住む形で1人暮らしになったの」


ちょっと端折ったけど、簡単に言うとそんな感じだ。間違いではない。


「14歳で!お父さん何してるんだよ?」


これは答えにくいけど…まあいいか。今時珍しい事例でもないし。


「会社の若いねーちゃんと浮気して逃げたの」


「……」


加瀨、絶句しているね。


「元、義母と実父は泥沼離婚だったんだけど、私とは円満別居?みたいな形でね。このマンションは生前贈与で義母から頂いたんだ」


「せ…生前贈与ぉ!?」


「義母の一族、お金持ちなのよ?私は違うけどね。と言う訳で、全然赤の他人だけど未だに元義兄達は私の兄みたいな存在だし、義母も普通にお母さんしてくれているし…親戚の手前、別居の状態にはなっているけど、ここに住む間は家賃もいらないし駅から近いしセキュリティーの万全なマンションに住めるし助かっている、以上です」


加瀨は暫く唖然としていたがポツンと


「お前、ポヤポヤしていると思ってたけど、元お嬢様だからなんだな」


「うりゃ~!どういう意味だ!」


加瀨はちょっと笑っている。


「いや擦れてないっていうのかな…人が良いというか、そうか…うん、分かった。その逃げた親父はどうしてるの?」


はあ、そこも聞いてくる?うちの親父、結構な胸糞親父なんだけど?


「まあ…何というか典型的なクソ親父でね。時々お金を無心にくるわけよ」


加瀨が目を吊り上げた。


「今も来るの?」


「たま~に?1年に1、2回?」


「結構な頻度じゃないか!何か…その、危ないことないのか?」


あ~えっと…これ言うと加瀨どう思うかな…


「まあ…危ないというか、威圧的に会いに来る感じではあるよね。金よこせっ!みたいなね」


「渡してるのかっ!?」


「だって…怖いもん。昔から怒りっぽい人だったし…」


加瀨がソファから立ち上がった。私の視界が暗転した。


え?何?


気が付くと私の体は加瀨に抱きしめられていた。


壁ドン(未遂)の次は、抱っこハグですかぁ!?


「加瀨…あの」


「…怖かったな」


いやあの…?どうしよう?加瀨の背中に手を回して背中を叩く。


「あの、言い方が悪かったのかな?え~と、父親とは直接会っている訳じゃないんだよ?」


加瀨は体を離すと、私の顔を覗き込んだ。


「あいつは私の連絡先は知らないし、会いに来るって言っても、このマンションの下のインターホン越しで、しかも居留守を使うから直接会話した事無いもん…それで後であいつにお金を送金しているだけなんだ。このマンションもね、賃貸でお義母様から借りているって嘘をついているし、私のお給料から渡せるお小遣い程度しか渡してないから…さほど実害は無いんだよ?」


加瀨はキョトンとした顔をした後


「それでも子供にたかりに来ているには違いない」


と表情を強張らせている。おまけに


「1人でこんな広いところで生活させておくのも心配だな。いや、セキュリティー面ではここの方が安全なのか?でも、通勤の行き帰りが心配だな…」


とかブツブツとそんなことまで言い出した。いやそれ本当に『彼氏』がする心配みたいだし?


「加瀨がそこまで気にする必要はないよ?それにお見合いだけ上手く避けられれば別に彼氏のフリしなく…ても…」


加瀨が段々と怖い顔になってきた。初めて気が付いたよ。イケメンの真顔でおまけに半眼って作り物の彫刻みたいでそれは恐ろしい、無の顔になるのだね…


「彼氏のフリは俺にとっても都合がいい…あ、ていうか…その方が有難いっていうか」


私はピーンと来た。


これアレだよね?嘉川との叶わぬ恋のカモフラージュというか、私という偽物を隠れ蓑にして本命の嘉川を心の中で思い続けたいっていう偽装工作じゃないかな?


そうだよね?絶対そうだ。


私は加瀨の手を取った。加瀨は何故か慌てている。耳が赤い…あ、女子に手を握られるのは気持ち悪いのかな?


私はパッと手を放してから加瀨を見詰めた。


「大丈夫だよ。どんどん偽装に使ってもらって構わないから!崇高な想いだよね~うんうん、分かっているよ。つぶさに観察させておくれ!」


「何かよく分かんねぇけど…相笠の彼氏のフリ、しててもいいの?」


「勿論だよ~彼氏でも恋人でも何でも来い!」


加瀨が私の肩を掴んで来た。あれ?女子の体に触るの苦手ではないの?あ、私は女子枠じゃないのかな?


「恋人でも…その、旦那でもいいのか?」


「へ?だ、旦那?う…ん?」


旦那ということは結婚?一瞬ためらったけど、別に誰とも結婚する気も無かったし…加瀨が旦那となるとこれからも悲恋や片恋を間近で観察出来ることになるだろうし…私的には一石二鳥どころか三鳥かな。


「ま…まあ加瀨が他に(偽装)結婚相手が見つからないんなら協力してあげ…」


「そっそうか!やった!ありがとうっ」


…めっちゃ喜んでしまっている。今更、他にどうぞ~と言う訳にもいかなくなった、まあいいか。


彼氏のフリの信憑性を高める為に偽装同棲をしないか?と加瀨に提案されて、これまた24時間加瀨の悲恋の一部始終を観察出来ると思い、了承するとあれよあれよと、私のうちに引っ越してくることになった。


まあ部屋は思いっ切り余っているし、心行くまで嘉川への熱い想いを私の側で吐露してくれたら家賃はチャラでいいよ…と言っておいた。


色々話し合った結果、光熱費と食費代は折半という形に落ち着いた。


「兎に角、明日のお見合いには絶対行くなよ?」


「でも、お母様とお手伝いの喜代さんが朝から来ちゃうし…」


加瀨は暫く考え込んだ後、


「夜分だけどメッセージを送ってみれば?もしかすると先ほどのやり取りをお兄さん達が連絡しているかもだし?」


とか言っているとピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。


下の門のインターホンじゃない…直接と言う事は…。私はインターホンの画面に走り寄った。


「お義母様とお義兄様…!」


加瀨も画面を後ろから覗き込んでいる。


「夜中に来襲…」


私は家の玄関を開けて元家族を招き入れた。


「……」


無言が恐ろしい。


お義母様は加瀨が渡した名刺を受け取ってから、ものすごい目で加瀨をジロジロと見ている。


「…で」


お義母様の声で体がビクンと跳ねた。


「加瀨 拓海さん。貴方は千夏と将来を見据えたお付き合いをしている…と思って差し支えないかしら?」


「はい、そうです」


「千夏は嫁入り前よ、節度あるお付き合いをされているのかしら?」


また言ってるー!貴司兄と同じこと言うなんてさすが親子ー!


「はい、誓って指一本触れておりません」


うん、それは間違いない。なんて言っても偽装交際だしね。


お義母様は大きく頷いた。


「千夏の父親の事はご存知?」


「簡単には聞いています」


お義母様は私を見て心配そうな顔をした。


「父親も…だけど、この子にストーカーが…」


ぎゃっ!お義母様!


加瀨が驚愕の表情で私を見た。


「…ごめんっ!大学の時の彼氏が…その…」


貴明兄が


「あれは千夏にたかる(うじ)と一緒だ!」


貴司兄が


「千夏の金を当てにした屑だ!」


と、義兄達は叫んだ。


「相笠…聞いてない…」


「ゴメン…今は押し掛けたりして来ないから、大丈夫かと…」


加瀨が私の手を握ってきた。私も握り返した。うん、うん…ゴメンよ。驚かせて…


加瀨は私の手を擦りながら顔を覗き込んできた。


「今日から泊まり込んでおこうか?」


加瀨っ?何でそうなる!?お義母様達も驚いて仰け反っているじゃないか!


しかもあんた指一本触れておりませんって言いながら、今、手を握っちゃってるよー!


嫁入り前の娘と2人っきりにはさせられない!と柘植親子が騒いだので、加瀨は柘植親子の車で自宅まで送られることになった。


すごく緊迫した車内になりそうだ、大丈夫なの?


「加瀨、大丈夫?ついて行こうか?」


加瀨にそう言うと


「それこそ本末転倒だろ?お前を送りにまた俺が送りに出ることになる」


と、行って帰って行ったけど心配だ。


とりあえず、お風呂に入って上がってからスマホを見ると…嘉川からグループメッセージで一斉送信が来ていた。


『これが、有紀だよ♡』


嘉川と頬をくっ付けているボブカットの可愛い女の子、有紀ちゃんの写真が送られてきている。


「こらっ何故グループに一斉に送るんだ!メンバーは私と加瀨しかいないけど、加瀨のダメージを考えろっ!」


と1人で嘉川に怒鳴ってから


『可愛いじゃない』


との返事を嘉川に返した後に、加瀨の方にだけメッセージを送った。


『加瀨、大丈夫かな?』


すると加瀨からすぐに返事が来た。


『お母さん達とは、穏便に話して機嫌よく別れたよ。明日また連絡する』


「そっちじゃねえ!」


いやまあ、お義母達の動向も気にはなったけど、私は加瀨の恋心のダメージの方が気になる…


グループメッセージに加瀨からのメッセージが表示された。


『有紀ちゃん可愛いな。流石、嘉川!今度会えるの楽しみにしてるよ』


「ああっああっ…有紀ちゃん誉めちぎってるよ…ああっ、自分の想いを圧し殺して…辛い切ない…萌えるぅ尊いっ」


加瀨の滲み出る切ない想い…ああ、やっぱり間近で観察出来るなら加瀨の偽装彼氏の恋愛観察は無駄じゃないよぉ。早く観察してぇぇ…今イケメンフェイスを曇らせてこの文字打ってるんだと妄想するだけでどんぶり飯5杯はいけるっ!


床に萌え転がりながら、体を震わせてビクビクしていてハッと我に返った。


これじゃまるで変態じゃないか…


急に1人で滾たぎっていた自分が恥ずかしくなる。萌え転がるのは明日以降のお楽しみに取っておこう。


結局萌え転がるのかっ!


…というツッコミがどこからか聞こえたような気もしたが、その日はもう眠ることにした。


◇■◇


『愛の狩人』


××月××日(土)


追記


加瀨に色々とバレた。しかしアレだ。イケメンだからか、うちの家の玄関先に立っているだけでも王子様みたいな雰囲気を醸し出していた。


私みたいなチンチクリンじゃ壁の大理石の無駄遣いになっていたが、ここに引っ越して来て約10年…イケメン壁ドンにより、豪華な大理石が始めて生かされた瞬間を目撃出来た。


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