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偽彼氏の観察1

話の進行上各話ごとに文字数がバラバラで読みにくいかと思いますが、ご了承下さい

そのお見合い話を聞いた週末…私は意気揚々と加瀨と嘉川と三人で飲みに出かけた。


さあ聞いてやるよっ!とことん追求してやるよっ!骨の髄まで恋愛話をしゃぶってやるから大人しく差し出しな!


「あんた達の新しい素敵な恋バナはないの?女子を群がるハエを叩き落すが如くに例える恋愛話はもう聞き飽きたから、身を焦がし萌え上がる様な熱い恋愛話をとっとと聞かせなさいよ!」


私が待ち合わせ場所の居酒屋に入るや否や先に店に来ていた、男2人、加瀨 拓海(かせたくみ)嘉川 基尚(よしかわもとなお)に聞くと2人は視線を交わした後に


「実は…俺、そろそろ結婚しようかな~と思って…」


と、嘉川が照れながら幸せ尊いビームを出してきた。


よしっよしっ嘉川キーータぁぁ!まだお酒も飲んでないのに親父ギャグ言っちゃったね…


私は迷わず『愛の狩人』の日記を出してきた。本人を前に観察日記を書くな!と、言われそうだが加瀨と嘉川には


「私は恋愛に身を焦がしている人々を見るのが男女問わず大好きなんだ!」


と公言している。もう何度も日記をしたためている姿も見られているし、怖くはない。


「そうかそうかっ!嘉川っさあ、あんたの素敵な恋の話を聞かせて頂戴!」


と言う訳で、お酒を飲みつつ…嘉川の愛の軌跡を聞かせてもらうことにした。


「ほぉ~お相手は保育園の先生ね~」


「俺の姉ちゃんバツイチで今、実家に戻ってきてるんだ。で、甥っ子はうちの近所の保育園に通ってて…俺が時々姉ちゃんの代わりにお迎えに行ってたんだ。そのせいで俺は姉ちゃんの旦那だと思われてたみたいで、有紀に勘違いされてて…違いますって言って話し始めたのがきっかけで、え~と…なんだか恥ずかしいなコレ…」


「ふんふん、彼女さんのお名前は有紀ちゃんね、へぇ~。…結婚式の馴れ初めを語られる時間の予行練習だと思いなさいよ。これと同じ話を結婚式の司会をする人にも話して聞かせなきゃいけないのよ?」


「へ?なんで?」


「何で…じゃないよ?加瀨。結婚式で司会の人が2人の馴れ初めを紹介する時間があるでしょう?あれの原稿を書く為に打ち合わせの時に今見たいなクソノロケを延々と話さなきゃならないのよ?そのクソノロケ話を簡潔にまとめて司会進行役の方が紹介してくれるって訳。少なくとも最低1回はクソノロケを口に出さなきゃならないのよ?しかも私達すでに聞いちゃったけど、式の本番では嘉川のクソノロケをもう一回同じ内容で聞かされる羽目になるね」


加瀨は困ったような顔になって嘉川を見た。


「有紀ちゃんとの出会いは海に変更しろ」


「出会いを捏造するなよ!それと相笠っ女子が何度もクソなんて言うなよ!」


嘉川がプリッと怒っている。


私は日記に萌えと尊い軌跡をしたためつつ、溜息をついた。


「しかしさ〜良かったよ。嘉川は女子とフラフラ〜フラフラ〜としか付き合ってないと思ってたからさ、崇高で尊い出会いから順調に愛を育んでいたなんて、あんたも輝き男子の仲間入りだよ」


「輝き男子…」


「そりゃどーも。あっ軟骨の唐揚げくださーい」


嘉川はお礼を言いつつ、注文を頼んでいる。嘉川は日記をしたためている私を無視して加瀨の方へ顔を寄せた。


「でさ、拓海はどうなんよ?」


こらこらっ!自分が輝き男子の仲間入りをしたからと言って、悲恋に身を焦がす加瀨に話を聞くんじゃないよ!


私は日記を書く手を止めて、加瀨に目を向けた。答えなくていいんだよ?そんな身を切られるような悲痛な愛の叫びを訴えなくていいんだからね?


加瀨はチラッと私の方を見た。い…色っぽい。


「報われないかな…俺の場合」


き…きたーーっ!本人(嘉川)を前にしての告白に私は身を震わせた。つ、辛いけどこれぞ悲恋よっ!ああ、胸が動悸が…尊いわ。このまま萌えて死にそうだ…


「何でよ、押せって…この間も諦めないとか言ってただろ?」


「押しても大丈夫かな?」


ん?と言って加瀨を見詰める嘉川…あああっ眩しいっ!想われる男と想い焦がれる男…すれ違い、報われない恋っ…ああ、泣けるっ尊い!


必死に日記を書き殴る。萌えるっ尊い。恋する男子のなんて儚くも脆い美しい瞬間なんだろうか。くうぅぅ…お酒も進む!


感動でむせび泣きながら、空き皿を片付けに来た店員さんに声をかけた。


「すみません注文をっ梅酒炭酸割で!それと刺身八種盛りとタラバガニのクリームコロッケと鳥釜飯下さい!」


「……」


尊い輝き放つ男子達が私を見詰める、何だよ?


「お前よく食うな…」


「また肉付きが良くなるぞ…」


お前らっ!輝き男子のくせに女子の心を貶める発言を、綺麗な顔で言うんじゃねぇよ!


輝き男子の萌えをツマミにして飲んだ…食った…若干足元がフラフラするが心地よい。


「じゃあ~な!気を付けて帰れよ」


会計を割り勘で済ませ、店の外へ出ると、嘉川が手を振りながら帰って行く。


ん?私は隣に立つ加瀨を見上げた。


「あれ?加瀨ぇいつも嘉川と一緒に帰ってなかったっけ?」


「ん…今日は相笠を送って行くよ」


んん?どうしたんだろうか~?と、思いながらも結構です…と断ろうと口を開こうとした時、私のスマホが着信音を鳴らした。


もう誰だぁ~?…『貴明』上の兄の方だ。


「もしも~し。なぁに?貴にぃ~」


『千夏、明日は喜代さんと母さんが10時に迎えに行くからな?』


「ふぇ?何で喜代さんも?」


『お前…もしかして酔ってるのか?今どこだ?迎えに行く』


もぅ~~また束縛夫予備軍の動きをしようとするぅ~


「大丈夫だよぉ~平気平気。あ、友達と一緒だからぁ…」


『友達?女の子か?まさか男友…』


「じゃあね、明日ね」


ピシャンとスマホを切ると、おい…と低い声で加瀨から呼びかけられた。顔を上げると加瀨が怖い顔をして私を見下ろしている。


「今の誰?」


あれぇ??何で怒っているのかなぁ~?


「あ…今のはえっと兄なの。2人、兄がいて…」


「へえ…そうなんだ」


一気に酔いが覚めたよ。そうだった明日、お見合いだった。


「お前ん家どこ?タクシー呼ぼう」


加瀨がスマホを操作し出したので私は慌てて


「いや、電車一本で帰れるし駅から家近いし…」


そう言うと加瀨は


「んじゃ、電車か?まだ終電あるな、家まで送るよ」


と言って来た。何が何でも家まで送ってくれるようだ。いやいやあの…


「だ、大丈夫だよ!電車乗ったらすぐだし…」


加瀨の目が鋭くなる。


「なんか頑なだな…何で家バレが嫌なのか?俺が知って何かするとか思ってるの?」


「そうじゃないしっえ…とドン引きするといいますか…」


加瀨は私の手を掴んだ。うわっとっ…!


「グダグダ言うな。どんなボロアパートでも気にすんな」


イヤ、ボロい方のドン引きじゃないんだけど…


加瀨と電車に乗りました。我が家は駅から歩いて2分の好立地です。


「こちらで御座います」


と、手で指し示した時に気がついた。加瀨をドン引きさせるであろうホテルのような外装のマンションの門扉の前に……元義兄の2人が居た。


「あ…え…どうしよう」


「どうしたんだ?」


加瀨がそう聞いてきたと同時に元、義兄達が叫んだ。


「千夏!お前…明日お見合いだっていうのに飲んで…!」


「千夏…?その男誰だ?」


ひやぁぁ…ちょっと何これどういうことだ?


兄達はずんずんと歩いて来ると、私と加瀨の前で止まった。


加瀨が低い声で


「明日…お見合い?」


と呟いている。右隣と前に立つ男達が怖い。何だか怖い、色々怖い。


貴明兄様がジロッと加瀨を睨んだ。


「君は誰だ?」


私はアワアワしながら


「上の兄の貴明」


と貴明兄様を紹介した。加瀨は綺麗な45度のお辞儀をすると


「千夏さんの同僚の加瀨と申します」


と自己紹介をした。


すると貴司兄様が余計なことを言い出した。


「こんな夜遅くまで飲みに連れ回すなんて、どういうことかな?千夏は嫁入り前だよ?」


おいっ兄っよく目を見開いて私を見ろよ?私、もう27歳だよ?嫁入り前じゃなくても十分、お局の域のアラサーだからっ!


「はい、千夏さんに大事がないよう守っています。節度あるお付き合いをさせて頂いております」


セツドアルオツキアイ?


ギギギ…と加瀨の方に首を向けようとしたら、急に加瀨に肩を抱かれて引き寄せられた。


「俺と付き合っているのにお見合いするなんてびっくりですね、アハハ…」


イヤ本当びっくりだね。いつどこで私と加瀨が付き合ってたんだろうねーアハハ。


「千夏…」


「お前…」


兄達が茫然とした様子で呟いている。


私が加瀨を見上げると加瀨は私を見詰めてきた。至近距離で見ていると端正な顔がちょっと近づいてきた。


「後で話しがしたい」


あ……これ。もしかして?


「貴明兄様、貴司兄様、明日のお見合いには行きません」


私は加瀨の手を掴むと駆け出した。急いで門扉の中に駆け込むと振り返って、茫然と立ち尽くす兄様達に叫んだ。


「お母様に伝えておいて下さい!」


入口の玄関ドアのロックを開けると、エントランスに入った。


「お帰りなさいませ、相笠様」


「ただいま戻りました」


受付のコンシェルジュの女性に頭を下げてから、エレベーターの前に移動した。


「びっくりだ」


「驚かせてゴメン」


加瀨を見上げるとエントランスを見たり、廊下を見たりキョロキョロしている。


エレベーターが来たので乗り込むと、8を押した。


「最上階…」


「そうです」


ほら見ろ加瀨、ドン引きだろう?大概の奴らはドン引きしてから豹変する。


歴代の…2人しか付き合ったことないけど、最初の彼氏には金をタカられ…その次の彼氏はヒモになっていいか?と言われて、断るとストーカー化した。


参ったな…加瀨とこんな感じで家バレしたくなかったな…


ポーン…到着音がして8階で加瀨と共に降りた。


「えっ?何これ?」


エレベーターから降りて加瀨は挙動不審になっていた。


それもそのはず


8階のエレベーターを降りると直ぐに玄関ポーチがある。門扉の鍵を開けて、指紋認証つきのオートロックの玄関ドアをゆっくりと開けた。


玄関を開けて苦々しく思いながら加瀨の方を振り向いた。


「ワンフロア、全部私の家なの」


ガシャン…と音をたてて加瀨は門扉を開けて私と一緒に家の中に入って来ると、玄関先でいきなり壁ドンを私にしてきた。


何事なの?


壁ドン…しかもイケメンからの壁ドン。


漫画やドラマの二次元では見たことがあるが間近で見ることになるとは…


◇■◇


『愛の狩人』


××月××日(土)


嘉川から愛の軌跡を聞き出せた。やっぱり愛を語る調べは聞いていると自然と胸が弾む。尊過ぎて体の震えが止まらない。次は有紀ちゃんサイドからの軌跡を聞いてみたい。有紀ちゃんと会わせろ!と嘉川に詰め寄っておいた。


※今日頂いたタラバガニのクリームコロッケは美味だった。『居酒屋八方美人』また食べたい、憶えておこう。


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