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偽婚約者の観察2

誤字脱字すみません、後々手直ししていますが内容には変更はございません

『イケメンと薔薇』のプロポーズ旋風が駆け巡った振替休日明けの火曜日の夜…


明日のお弁当はいなり寿司にしようと、キャラ弁もどきのいなりをキツネに見立てる為に目や口の形を海苔とかまぼこで作っていると、スマホに電話がかかってきた。


んん?あれ三鶴ちゃんだ。只今夜の7時…今日は拓海さんは少し遅くなると連絡があったのだが…んん、よく見ると拓海からメッセージも来ている。キツネの目を切るのに夢中になっていて気が付かなかったのか…


取り敢えず三鶴ちゃんが先だと、慌てて電話に出た。


「もしもし三鶴ちゃん?」


『千夏ちゃん…どうしよう、あのね。拓にぃがまだ仕事中だから千夏に連絡しろって…』


ちょ…ちょっとどうしたの?えらく慌ててるけど…


『駅の改札の向こうにね、ケンジが居るの…多分私を待ってるんだと思う…あのね、拓にぃは、マンションに来いって言ってくれたけど、行ってもいい?』


なんだってぇ!?あのクソケンジめっ!陰湿な別れの後は待ち伏せストーカーだとっ!?


「勿論おいでよっ!駅からマンションまで直ぐだけど私、念の為に駅の外で待ってるから!ケンジに見つからないように電車に戻ってうちにおいで!」


『うん…うん、ごめんね千夏ちゃん』


「後でね!」


電話を切って拓海からのメッセージを確認する。


『三鶴が健司に待ち伏せされている助けてくれ頼む』


拓海も慌ててメッセージを送ってきているみたいで、ハハキトクスグモドレ状態の文面だった。


「三鶴ちゃんと連絡ついたよ。うちに向かってるから駅まで迎えに行ってくる」


文章を送信するとすぐに既読がついて、感謝のスタンプが送られてきた。


私は万が一ケンジが尾行して来た時の為に、ショルダーバッグにまとまったお金とスマホ等を入れた。つまり家までついて来られないように駅前でタクシーなどに乗って遠回りして撒いてやろうという作戦だ。


動きやすいジョガーパンツに履き替えて、運動靴を履き…急いでマンションを飛び出した。


駅まで駆け足で数分で着くと、改札の中を覗きながら三鶴ちゃんの到着を待った。


数本電車が過ぎた後に、三鶴ちゃんの姿が見えた。改札の外から手を振ると、三鶴ちゃんは泣き出していた。


「ち…ちな…ちゃ」


「うんうん、怖かったねぇ~よしよしもう大丈夫だ!」


三鶴ちゃんの後ろを見ると、サラリーマンっぽいお兄さん達が改札から出てくるので、もしかしたらケンジかもしれないと思うと怖くなってきたので、駅横のスーパーに飛び込んだ。


「取り敢えず明るい場所で暫く待機しよう、ついでに晩御飯のおかずも買おうかね」


「う、うん」


三鶴ちゃんとそう言えば、明日はお弁当持って行くかい?などと聞いて、いなりの揚げを追加で買っていなりの横にイクラを使って飾りを描こうかな~とか気分が上がるようになるべく元気に三鶴ちゃんに話しかけた。


「スーパーの中にはケンジはいないね?」


「うん…」


「よし、戻ろうか」


背後を気にしつつ…足早にマンションに戻った。マンションの中に入って三鶴ちゃんはようやく落ち着いたようだった。


「ありがとう…千夏ちゃん」


「ううん、構わないよ。お母さん達にご連絡した?」


三鶴ちゃんは首を横に振った。


「二股されてフラれたなんて言えない…」


「だよね…じゃあ今日は普通にうちに泊まることにして、連絡入れておきなよ」


三鶴ちゃんは頷いて、お家に連絡を入れている。


私は夕食の準備に取り掛かった。


今日はオムライスとオニオンスープ、それとアルファベット型のフライドポテトだ。以前から拓海用に『YOSHIKAWA LOVE』だけの文字を揚げようとしたけれど、面倒なので一袋全部揚げることにした。


オムライスのベースは今日はチキンとコーンを入れた。三鶴ちゃん用のオムライスを作っていると、電話を終えた三鶴ちゃんがダイニングに入って来た。


「今日泊って仕事、ここから行っていい?」


「勿論、うちには私の服もあるからそれ着て行けばいいしね…え?」


リンゴーンと玄関のチャイムが鳴った。いきなり玄関だ…まさかケンジ?三鶴ちゃんの顔色が変わった。2人で恐る恐る玄関モニターを覗き込んだ。そこに映っていたのは…


「なんだぁ!貴明お兄様じゃない!脅かすなっ…ああ私の上の兄なの」


玄関の鍵を開けると、上の兄の柘植 貴明三十路様がゆったりと入って来た。


「…ん?この子誰?」


三鶴ちゃんはオロオロしながら頭を下げた。


「初めましてっ加瀨 三鶴と申します!」


三鶴ちゃんが自己紹介をすると、貴明兄は破顔した。


「お~っ拓海君の妹さんかな?初めまして、柘植 貴明です。あれ?拓海君は?」


「今日、ちょっと残業だって~」


貴明兄は遠慮も無しにリビングに行くと、何か袋を置いている。何でしょうかね?


「出張でフランスとイタリアに行ってきたんだ。ワインとチーズ」


「わあっ!」


「貴明兄様!ありがとう」


思わず三鶴ちゃんと私が歓喜の声を上げると、貴明兄はまた破顔した。


「今日は夕食何?」


おや?お兄様食べていくのか?オムライスだけど、お兄様食べるのか?


「は~いオムライスでーす!まずは三鶴ちゃんに~」


オムライスの卵の上に『MITUKA』とケチャップで書いてみた。


「うはぁ~小学校以来の名前入り!」


三鶴ちゃん大喜びで写メを撮っている。何故か貴明兄はワインとチーズを勝手にテーブルの上にセッティングして三鶴ちゃんとグラスをカチン…なんてやって飲みだしている。


「ああっ!ずるい!お兄様…」


「オムライスを早くしろ」


「……」


うぬぬ…貴明兄の分のオムライスは卵の上に『GO TO HELL』と書いてやろうかぁ!?


貴明お兄様にオムライスを作り、オニオンスープも出し…アルファベット型ポテトと唐揚げも出した。


キッチンに戻るとスマホがピカピカ光っている。拓海からメッセージがきている。


『三鶴どうだった?』


そうだ、うっかり拓海に連絡するのを忘れていたよ。


『無事に連れて帰って来たよ、貴明兄が来てるから2人でワインとチーズを食べて楽しそうだよ』


『お義兄さんいるのか…了解!もうすぐ帰るわ』


そして拓海が帰って来たのでオムライスを作り…さっき揚げておいたアルファベット型ポテトをYOSHIKAWAだけをより分けて、拓海用に出してオムライスに『LOVE』と書いて出した。


「きゃあ!」


「お前っ!」


写メを撮る三鶴ちゃんと貴明兄様と顔を真っ赤にする拓海。拓海の顔を見ながらニヨニヨしてしまうよ。心の中で嘉川への愛の賛歌を詠っておいて~


その後、ワインを開け日本酒まで飲んだ酔っぱらった貴明お兄様は今日は泊まっていく~と言い出した。まあ部屋は余ってるし?お好きにどうぞ。三鶴ちゃんにもパジャマと新しい下着を渡して…明日の通勤用の服も貸した。


ふぅ…


「今日は悪かったな」


拓海が内風呂で済ませて来たのか、キッチンで明日のお弁当の仕込みをしてる所へやってきた。


「ううん、ストーカーに悩まされるのは痛いほど気持ちが分かるもの」


「…っ」


拓海が背後から私に抱き付いてきた。ちょっと待て!


「飾りの海苔が飛んじゃうから!」


「…飾り?お前何作ってんの?」


「これは企業秘密なのっ明日のお楽しみなの~」


拓海をキッチンから追い出して、いなりの揚げを出汁で煮た。イクラの寿司を作ろうとご飯の形を色々と考えた。よしよし…


さあ、明日はキャラ弁作るぞ~と部屋に戻ると、拓海が私のベッドで横になっていた。丸くなっているのか…背中が淋しそうだ。


愛を詠う者…人目を忍ぶ恋に生きる者…拓海をつれなくしてしまったのは愛の巡礼者としてはいけないことだよね。


拓海には不純な動機で申し訳ないんだけど、拓海と触れ合うのは非常に気持ち良かったのが本音です。きっとこれを伝えたらドン引きされちゃうから、言わないけど…私にとっては良い記念になりましたよ…


「拓海…」


「俺より弁当の方が大事なんだなっ」


否めない。いえ、天秤にかけるのがおかしい気もする…


「明日、三鶴ちゃんもお弁当持って行ってくれるって言うから~気合い入ってるんだよぉ」


そう言って拓海の背中を擦っていると…グルンと視界が回っていつの間にか拓海が私の上に馬乗りになっていた。


無言で見詰め合う。


静かに拓海の綺麗な顔が近付いて来た。


拓海…許して欲しい。私は今、貴方に欲情している…今だけ許して欲しい、貴方の気持ちは違う所にあると知っているのに触れ合うことに喜びを感じている。



……


まだ拓海は寝ている。少し早いけど起きてお弁当を作ろう。静かに起こさないように、部屋を出て服を着るとキッチンに入った。


いなり寿司を作り、キツネに見えるように飾りをいなりに乗せて、イクラ寿司も詰めていった。デザートは栗の甘露煮と生柿だ。これは昨日スーパーに寄った時に三鶴ちゃんに聞いて、拓海も三鶴ちゃんも好きだということも調査済みだ。


「おおっ…可愛い」


いなりキツネが可愛くこちらを見ている。キャラ弁を写真に収めた。角度を変えて何枚も写真を撮っていると、フト…キッチンの入口を見ると拓海がニヤニヤしながら立っていた。


急いでお弁当の蓋を閉めた。


「中を見るな!企業秘密だぁ」


「はいはいぃ~おはよっ」


拓海は私の傍にやって来ると、素早くキスをしてきた。こらっ!ここには貴明お兄様と三鶴ちゃんもいるだろうが!


2人に変に誤解されたくない。これは拓海の本心ではなく本能的なものだ、きっとそうだ。


そして、そろそろ出勤の時間かも…と、貴明お兄様は寝起きが最悪なので私が起こしに行った。


「お兄様、朝です…よっ!?」


くぉらぁ!?貴明ぃぃ何故、全裸で寝ている!拓海にパジャマとか色々借りていただろうが!


「三十路の汚れた体は見たくないわぁぁ~三鶴ちゃんに見られる前に急いで仕舞え!片付けて!」


「……千夏は…いつも酷いな…」


寝起きの不機嫌そうな顔で私を睨む三十路様。目が座っている。


ここに三鶴ちゃんという恋に破れてストーカーに怯える天使がいるんだぞっ!おっさんの裸体なんて気持ち悪すぎてアウトだろ!


私がプンスカ怒りながらキッチンに戻ると、三鶴ちゃんは既に着替えてダイニングに座っていた。


「千夏ちゃんおはよう…貴明さん起きてた?」


「寝起き最悪のおっさんの全裸を見ちゃったわ!朝から目が腐る!」


「貴明さん、おじさんじゃないよ~全然カッコイイじゃない?」


あれま、若いお嬢さん的には一応おじさん枠に入ってないのね、アレ。


朝食は、買ってきたクロワッサンとくるみ入りのロールパンに生ハム入りサラダ、それに昨日のオニオンスープにキノコを入れてキノコスープにした。キャラ弁に注力を注ぎ過ぎて朝食が手抜きになった。


「三鶴ちゃん、朝は俺が車で送って行ってあげるよ」


「えっ!?」


黙々と朝ごはんを食べていると思ったら、急にそんなことを言い出した貴明兄…どうしたの?


昨日、三鶴ちゃんから例のケンジの二股&待ち伏せ事件のことを聞いていたらしい。


「脅すようで申し訳ないが、粘着質な男なら三鶴ちゃんの会社の前で待ち伏せしている可能性もある」


貴明兄様の言う通りだっ!そうだ…その危険性もあった。そう言えば…


「ケンジは同じ会社なの?」


私が聞くと、三鶴ちゃんが頷いた。


「ああ…そりゃいかんねぇ部署は?」


「私は総務であっちは営業だからフロアが違う…だから直接は会わないと思う」


「朝から気持ち悪い男と対峙するより、避けれるところは避けたほうがいい、そうしなさい」


うおぅ!お兄様ってばこんな所でヒエラルキーのトップ(社長)の風格出して、上司圧出してくるのぉ?


三鶴ちゃんは社長の圧に耐えかねて頷いてる。朝からオッサンが済まんね…お金持ちの坊ちゃんだから言い出したら聞かないから…


三鶴ちゃんに渾身のキャラ弁を渡し、貴明兄に俺のはないのか!とヤキモチを焼かれ…そんな2人を送り出した。


そんな俺様社長様の貴明兄運転の外車に乗り込んで、手を振った三鶴ちゃんに手を振り返して私達も駅に向かった。


「大丈夫かな…付き合っている男は同じ会社だとは聞いてたけど、マズいよな」


「あんな姑息な別れ方をしてくる輩が会社で騒いで恥の上塗りをするかな…あっ!」


歩きながら大きな声を上げた私に拓海はびっくりしたみたいだ。


「なんだよ、脅かすなよ…んん?メッセージ送ってるの?」


「貴明兄が…外車で会社の前に乗り込んで三鶴ちゃんを姫エスコートしてあげればクソケンジの話題より、王子様降臨!の方が話題になりそうじゃない?一応全裸の三十路様でも大金持ちの我儘御曹司だけど、貴明兄は目付きが怖いけど腐ってもイケメン枠だからさ」


「千夏が随所に貴明さんの悪口を言っているのだけは分かる…」


私は拓海の呟きが聞こえないフリをしてメッセージを貴明兄に送った。


□ □ □ ■ □ □ □


「ん?ちょっと失礼」


運転中に柘植 貴明が路肩に車を寄せて、スマホを操作している。


「あいつ…フフ」


三鶴は慣れない高級外車の助手席でモゾモゾしながら、運転席の将来の義理の姉の兄の顔を見た。


カッコイイな…千夏ちゃんはおじさん呼びしていたけど、まだ三十才くらいだよね?切れ長の涼し気な目元で顔があっさりとした雰囲気で、和風美男子という感じだ。


高級なスーツに良い匂いのフレグランス、外車…全てが嫌味でもなくぴったりとフィットする洗練された大人の男性…


千夏ちゃんが拓海お兄ちゃんの婚約者じゃなかったら絶対お近づきにならない雲の上の人だ…と溜め息が漏れた。


「三鶴ちゃん…」


「はぁい!」


三鶴は慌てて返事をして、自分の隣にいる雲の上の人を見た。切れ長で涼し気な目が優しく微笑んでいる。クッソイケメンとはこの事かな?と心の中で唸った。


「待たせてごめんね、じゃあ行こうか」


「はい…」


まだ、含み笑いをしているけど何だろうか?と三鶴は首を捻ったが動き出した車の窓から雑踏を眺めた。もし健司が会社の一階のロビーにでもいたらどうしようか?もし、総務部まで乗り込んで来て騒いだらどうしようか…


私が悪いと逆に罵られたらどうしようか…


「三鶴ちゃん、前を向いていなさい。君には恥ずべき所は何も無い」


貴明の声は上に立つ者独特の命令することに慣れている声音というのか、頷かなければいけない…と思わせる威厳と自信に満ち溢れていた。


「は…はいっ!」


そうだ、私は1人じゃないこうやって心配してくれる、拓海お兄ちゃん、千夏ちゃん、凛香に悠太、そして貴明さんもいる。よしっ…


静かに車は三鶴の会社の前に着いた。車から降りようとした三鶴を、貴明が手で制したので不思議に思っていると…車を回り込んできた貴明が助手席のドアを開けて、手を差し出してきたのだ。


「さぁ、レディ着きましたよ」


三鶴は差し出された貴明の手に震える自分の手を重ねた。少し体温の低い貴明の手に引っ張られるようにして車外に降り立った。


「ケンジはいないね?」


貴明の言葉に社の入口の周りを見て、三鶴は頷いた。


自然な動作で貴明は三鶴の背に手を当てると、優しく前に押し出してくれた。


「行っておいで」


目を上げると涼やかな笑顔を浮かべた貴明の顔がある。三鶴は握った拳に力を入れた。


「はい、送って頂いてありがとうございました!」


三鶴は深々と頭を下げると、勢いよく社の入口へ駆け出した。そして恐る恐る後ろを見ると…


うはぁ!和風イケメンが高級外車に体を凭れかけて、私に手を振っている!


三鶴はもう一度お辞儀をするとビルの中に入って行った。


「三鶴!」


「加瀨さん!」


急に呼びかけられて三鶴が慌てて後ろを向くと同じ総務部の尚美と高橋静稀が真っ赤な顔をして立っていた。


「今の人誰っ誰!?外車!?男前!」


「朝帰り?朝帰り!?」


三鶴は同僚に囲まれて、実は…健司に二股されて別れて…そして兄と婚約者の住むマンションに逃げて…そこで婚約者のお兄さんの先程の彼に送ってもらったのだと、説明した。


三鶴はその時気が付いていなかったが、ロビーには経理部のお姉様数名と健司と同じ営業部の面子もいたのだ。皆、貴明と三鶴を見ていたし興味津々で聞き耳を立てていたのだ。


その日のうちに『営業の高木 健司が二股した挙句に、待ち伏せストーカーをしていた!』という情報が広まったのだ。


そして女性社員からは外車に乗った王子様現る!の一報も併せて拡散されたのだった。


□ □ □ ■ □ □ □


「よっ!加瀨嫁!」


「嘉川…大声で言うんじゃない!それにどうして今日は皆揃ってるのよ…」


お昼に社食に出かけた時に、企画営業部のメンバーとかち合った。拓海もいる……


「いやぁ~もしかして結婚後の嫁と旦那の同席を初めて見るわ~」


「まだ結婚してないっ!嘉川はイラネ!さっさと企画営業部に帰れ!」


嘉川は大袈裟に体をくねくねさせながら、拓海の背後に隠れて大袈裟に泣いたふりをしていた。


「嫁が怖~い!」


……ちっ、やりにくいな。拓海の想い人のくせにっ!


仕方ない、川上さん達と共に企画営業のメンバーでゾロゾロと社員食堂に入って行った。


おまけに拓海と隣同士の席にされた。拓海の反対側には嘉川が座っている。男を挟んで愛人と本妻がせめぎ合っているみたいなこの構図はなんだっ!?


「拓海ぃ~今日の弁当なんだ?」


嘉川に聞かれて拓海がニヨニヨしながら私を見てくる。


「何か朝から企業秘密とか言って中身見せてくれなかったんだけど……せーの!」


「おおっ!可愛いじゃねえ!写真だーー」


嘉川黙れっ!拓海まで歓声をあげて写真を撮っている。おまけに企画営業の若手のメンバーも背後から覗き込んできて大騒ぎだ。


「いなりキツネだねー!可愛い~」


私のお弁当も開ける。実はいなりキツネとイクラ寿司の配置とか具材も拓海と三鶴ちゃんとで微妙に変えているのだ。


「きゃあ!相笠さんの方は格子柄の配置だね!わっ…加瀨さんはイクラ寿司♡型…ウフフ」


川上さんと堀田さん、市川さんは忍び笑いをしながら拓海と私のお弁当を写真に収めている。


「いなり旨い!」


「こ…こらーーっ!嘉川っあんたが食べてんじゃないわよ!」


拓海も食べてはいるが嘉川の馬鹿の方が沢山食べてるじゃない!


「そう怒んなよ~拓海から奪った分は俺が天ぷらうどん奢るからさっ!」


嘉川を睨んでいると、私のスマホにメッセージがきた。開くと三鶴ちゃんからだった。


『いなり寿司のキツネ可愛いね!千夏ちゃんありがとう~』


写メ付きのいなり寿司とイクラ寿司をてまり寿司風にした三鶴ちゃん用のお弁当の写真を見て、私もニヨニヨしてしまう。


「三鶴からか?おっ…あっちは、てまり寿司か…お前凝ってるなぁ」


「へへへ…」


私と拓海が微笑み合っていると、一瞬食堂の中が静まり返った…ような気がした。


「イチャイチャするなぁ!」


食堂の中で笑い声と怒号?が入り乱れてまた歓声が上がった。


ああ…恥ずかしい。


すれ違い~ああっすれ違い~うっかりと『愛の狩人』日記を書くのを忘れていました。

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