「付き合う」という事
処女作となります。
投稿して僅か、しかも超短編にもが変わらず評価して下さった方、本当にありがとうございます。
――――――― 好きって気持ちがわからなかった。
嫌いなモノなら数えきれないのに――
付き合うという事がわからなかった。
好きですと言われても困るだけだから――
最初は敬遠していたが、周りから付き合うだの付き合わないだの毎回のように騒がれれば少しだけ気になった――
それでも「付き合う」という事がわからなかった――
わからないから、わからないなりに聞いてみた。
「好きです!付き合ってください!」と告白して来た子に、「付き合うってどういう事?」と素直に――
その子は言った。
「えぇと、一緒に下校したり一緒に遊んだり、とにかく他の事よりも大切に、優先して一緒にいる事です!」と――
なるほど、と思った。
一緒にいるという事なら、俺でもできると思えた。他の事よりも優先して一緒にいる事ぐらいならと――
彼女は委員会や部活で遅くなりがちだった。
俺は友達に誘われても断って彼女といるようにし、お互いが委員会で遅れるときは必ず待つようにして家まで送っていた――
それから3か月――
ある日俺が委員会の会議から解放されて教室に戻ったら、誰も居なかった――
付き合っているはずなのに、「何よりも優先して一緒にいる」はずなのに――
もしかしたら彼女も委員会か部活かで遅れているだかなのかもしれない、そう思った。
最終下校の曲が流れ、先生に怒られても、俺は城門で待った。
八時もまわり九時に差し掛かったころ、携帯電話に彼女から着信があった。
出てみると「友達と先に帰っちゃって、もしかしたら心配してるかなって思って」
俺はとりあえず「あぁ、わかった」と告げて電話を切った――
「付き合うという事」が、またわからなくなった――
翌日彼女へと確認をした。もしかしたら詰問になっていたかもしれない――
「昨日は友達と帰ったんだ?」
「そうなの。たまたま部活も委員会も無かったから、友達に誘われて」
「たまたま、か……」
「え?何?何かあったの?」
頭が痛かった――
「他の何より優先して一緒に居る、って言うのが『付き合う』って事だって聞いたはずだったんだが……聞き間違いだったのかな。」
「あ、ごめん。もしかして……待ってた?」
「ずっと心配してな」
「でもでも、私だって友達と帰ったり遊んだりしたいんだもん」
「私だって?」
心が騒めきたてはじめるのを知覚した。
「俺君だって、友達と一緒にいることもあるでしょ?」
「あぁ、教室でな」
「だって、独りの時間だって欲しいんだよ?」
「恩着せがましい事を言うようで嫌なんだが、俺はお前と付き合ってから常に一緒に帰るようにしていたぞ」
「あ」
「別に友達と帰ったからと、怒ってる訳じゃ無い」
そうか、この騒めきは怒りだ――
「電話も伝言も、何も無かったから怒ってるんだ」
「ご、ごめん……なさい」
「ずっと一緒に、優先して、それはお前から言った事だろ?」
「う、うん。はい、そう……です」
「事故や事件に巻き込まれてるかも知れないって、お前の電話が来るまで、ずっと待ち続けていたよ。わらえるよな」
「わ、笑えないよ……」
「笑えよ。ずっと一緒にって言うから、俺はそう心掛けてきたつもりだ」
「うん」
「俺はバカだから、言われた事を精一杯やる事だけでいっぱいいっぱいさ」
「……」
「『付き合う事』=ずっと一緒に居るだったら、一緒に居れない俺らは付き合っている意味無いよな」
「そんな事ない!」
「そんな事だよ。」
「なんで……」
「そんな事の積み重ねじゃないのか」
思えば一緒に居る時でも上の空な事があった――
「別れよう。自分が作ったルールすら守れないのは、俺には無理だわ」
「やだ!別れたくない!」
「約束は約束だ、どんな事だって」
そう言って俺は携帯を取り出すと、彼女の目の前で連絡先を消して見せた。
「さよなら」
そう告げて帰ったきり、その彼女とは交友は無い。
それでも「付き合うって事」を教えてくれた彼女へ、僅かばかりの感謝を添えよう――
俺は覚えていても、きっと彼女は忘れているだろう「そんな事」――