表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

母の思い出

今回ちょっと違います。ドラゴンと少女は出ません。母ミーメルのお話です。ちょっとだけシリアス?です。

「カバンよし、薬草よし、お弁当よし、えーと、いろいろよし!、それじゃぁいってきまーーす。危ない所にいっちゃだめよー。」

「いってらっしゃぁーい。」

娘のメルトに送られて家を出たミーメル。

今回は、そんな母ミーメルの話し。

家から勤め先である病院までは歩いて45分ほどかかる。いつもであれば仕事のことか、夕飯のことを考えているのであるが。今日は違うことを考えていた。




もちろんメルトが連れてきたドラゴン《コドラ》のことである。

「家族っかー。なんであんなこと言ったかしらね?やっぱり私も淋しかったのかかしら。」

昨晩、コドラをペットではなく家族として受け入れたミーメル。実は、何故コドラを受け入れたのかはミーメル自身もよくわかっていなかった。ただ、コドラの瞳を見た瞬間に不安や、恐怖といった感情が一切なくなり、懐かしい気持ちになってしまったのだ。「あの時ハルちゃんがいたらなんて言ったしらね。」

ハルちゃん。今は亡き夫のハルベルトを思い出すミーメル。






頼りになって優しくて、いつも笑顔だった最愛の人

画家だった彼は結婚する前から今の家に住み、この町のいろいろな風景を描いていた。二人共両親がいなかったため、お互いに寂しさを埋めあいつつ生活していた。やがてメルトが誕生すると

《いつかメルトの絵を描いて、その絵でこの国一番の画家になってやる》と、笑いながら語っていたハルベルト。

しかし、幸せは長く続かなかった。メルトが4歳になる少し前に突然ハルが倒れたのである。病院にも行き、教会で祈祷だってしてもらった。必死に医術を独学で勉強し、薬草を探しに森や山、城下町の薬局まで足を運んだ。

そんなミーメルの努力を悪魔が嘲笑うかのように少しずつ病状が悪化していく。

それでもハルベルトは

《いつか三人で海を見にいこうか。》

そう言って笑っていた。

やがて最後の時が近づいても

《見なよ、メルト寝顔。ミーメルそっくりだよ。》

ひたすら笑顔で、今が幸せなんだと、今が一番楽しいんだと笑いながら語り。






そして死んでいった。






何日も泣いた。墓の前で泣き、家で泣き、思い出しては泣き、明日を思っては泣き、夕日を見て泣き、朝日を眺めて泣き、寝ては夢で泣き、泣いて、泣いて、涙が枯れはてても泣いていた。

やがて何も考えられなくなり。ただの脱け殻のようになった。

そんなある日。ハルベルトの思い出の品を眺めながら部屋で座りこんでいると、〔コトリ〕と後ろから音がした。

ゆっくり振り返ると。

そこには娘のメルトが立っていた。

ああ、食事の準備しないとと、無気力な頭で考えていると、

「・・・・マ・・・ママ〜、・・ごっ・・・・御飯でき・・できた・よぉ・・・」

震える声でそう言った。




「・・・・・・え?」




理解できずにメルトを凝視する。

両手でトレーを持ち、その上にはシチューの入った皿がのっている。トレーを持つ両手の指は、馴れない包丁で傷つけたのかところどころ血が滲んだりしてボロボロになっている。

それでも、

両手の痛みをこらえながも必死に、

笑顔を自分に向けていた。

その笑顔があまりに痛々しくて




頭が真っ白になり












気が付けばメルトを強く抱きしめていた。



ゴメンネと、

もう泣かないからと、

もっと強くなるからと、

ちゃんと笑えるからと、

トレーが落ち、シチューが服につくのも気にせず、

ただ、

ただ、

ただ、

   抱き締めた




次の日から今度は必死に生きはじめた。ハルベルトがお世話になった病院に手伝いとして雇ってもらい。メルトに勉強を教え。

家の空き室に薬草倉庫を造った。足りない分のお金はハルベルトの絵を売った。皮肉な話し、絵というものは作者が死去すると希少価値が上がり高く売れた。

いつの間にか自然と笑顔ができるようになり。メルトと二人の生活に幸せを感じていた。



そこまで思い出して気が付く

「そっか。あのドラゴンの目はあの時のメルトの目に似てたのね。」

必死に笑顔になりながら。それでも目には、見捨てられれるんじゃないかという不安と、傷つけられるんじゃないかという恐怖、それでも生きたいという気持ちが籠もっていた。


「あんな目をされたらね」

クスリと笑いながら病院の扉を開けるミーメル

「あっ、ミーメルさんだ。」

「ミーさんおはようございまーす。」

「おはよーミーメル」

「おはよう。イーナ、マテリル、テッラ」

同僚の〔女性〕に挨拶をする。彼女達はミーメルと違って正式な看護師だがイーナ、マテリル共に若く、ミーメルのことを姉か母ように慕っている。テッラは年も近いため気軽に話せる間柄である。

「ねーテッラ。院長はもう来てる?」

「院長室にいるわ。どうしかしたの?」

「いい加減給料上げてもらいにねっ」

おおー!っと三人は唸ると

「応援するわ」

「頑張ってください」

「もし上がったらなにかおごってくだあーい。」

と、応援?してくれた。

「ありがとう。マテリルは今度ね」

三人娘に見送られて院長室に入る。

「ファーティー院長。少しお話よろしいですか?」

「おはようミス・ビットマン。いきなりどうしたんじゃ?」

「実は・・・・・・」




今頃あの一人+一匹はどいしているだろうか考える。

あの目ができる一人+一匹なら大丈夫だろうと思いながら。


「・・・・という訳で、給料を上げて頂きたいのですが。」

「はぁ〜〜。しょうがないのぉ〜〜〜。判ったわい。なんとかするわい。」

「ありがとうございます。ファーティー院長」

イーナとマテリルは20代前半の設定です。テッラはミーメルの親友みたいか感じです。ファーティー院長は50歳くらいのおじいちゃん。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ