母は決意し、子は名を決める。
ドラゴンの名前が決定。
母ミーメルが再起動し、娘メルトに対してドラゴンが犬ではなく伝説の生物だと説明し終えるころにはもう日が暮れようとしていた。
いまさら母ミーメルも、このドラゴンをもといた場所に戻してきなさい、などとはさすがに言えず。だからと言って《ペットとして飼う》かと聞かれれば、YES、とは言えない。
まず、飼い方や躾けの方法なども全くわからないし、もしも、母ドラゴンがやってきたらどうなるかを、考えるだけでも恐ろしい。
結果
「・・・飼うべきかしら・・・でも、・・・?・・・やっぱり・・ハルちゃんなら・・・?・・メルだって・・・」
と、独り言をぶつぶつ言いながら夕飯の支度をしている。
余談だが、ハルちゃんとは亡くなった夫のことである。
本名 ハルベルト=ビットマン
閑話休題
母ミーメルがぶつぶつと危ない人になっている横で、メルトは夕飯の手伝いをしていた。
母親の様子がおかしいのに普通にしているのは性格ゆえか、はたまた慣れているのか。
因みに、ドラゴンはというと、机の下に隠れて二人の様子を観察中である。ペタリと地面に這いつくばったまま。
キミはもっと自分に自信をもった方がいい。
絶対に
「・・・でも・・もし・バレたら・・・ハルちゃんも・・・二人でヨットに乗ったなー・・・帰り道キスをしてー・・・ハルちゃん不気味だから・・・」
ミーメルさーん、それは考え事じゃなくて夫との幸せを振り返ってるだけですよー。現実逃避は何も解決しませんからー。
なんだかんだあって夕食タイム!
机に向かい合ってメルトとミーメルが座り、机の下からドラゴンが顔だけ出している。
這いつくばったままであるが。
二人+一匹の前には出来上がった料理が並んでいる。
「「天の恵みに感謝して、いただきます。」」
「!!きゅぅえ?」
キチンと神様に感謝してから食事を始める二人。ドラゴンはその声にさえ驚いている。しかも、目の前の食事を食べていいのかどうかわからず困惑の表情を浮かべている。
ドラゴンにも表情筋はあるようである。
「メル、本当にこの子を飼いたいの?」
そんなドラゴンを不思議な生き物を見るように見ながらミーメルは娘のメルトに話しかける。
「ハムハム・・・むしゃ・?・・・ゴクン、そうだよぉ!。・・むしゃむしゃ・・・ハム」
ものすごい勢いで食べるメルト。そういえばお昼ご飯をドラゴンにあげたんだっけ。お腹も空いてあたりまえである。
「本当にこの子一人?だけだったのね?親ドラゴンは居なかったのよね?」
「むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ・・・んぐっ、本当だよ。この子がお腹を空かせて一人?で居たからサンドイッチ全部あげたんだから。・・・ごくごく・・それにぃ、お母さんかお父さんがいたら一緒に連れてくるもん。むしゃむしゃむしゃむしゃ」
ある意味大物発言である。
「そう、・・・それならいいんだけど。」
よくない
「モグモグモグモグ、・・それにぃ、多分この子は迷子なんだよ。パクパクパクパクゴクン。・・・だからぁ、そのまま森にかえしても困っちゃうよ。むしゃむしゃ」料理は逃げないからゆっくりたべなさい。
「ごちそうさまぁ!!」
って、早っ!!
「おかわりぃ!!」
「無いわよ。」
そりぁそうである。今日はドラゴンがいるため余分な分は無いのである。
「しょーがないわねー、ママのおかずを少しあげるから。」
基本的にミーメルママは優しいのである。
決して今日のおかずに嫌いな物が入っているからではない。
決してメルトが好き嫌いしないように無理して食べているわけではない。
決してちょっと喜んでなどいない。
「ありがとうママぁー。」
メルトはそんな母親の気持ちに気づいているのかいないのか、喜んでおかわりをする。
和やかな?食卓を下から覗いいたドラゴンはというと、こんなことを考えていた。
《大きな人間が小さな人間に餌を与えている。つまり大きな人間は小さな人間の親。つまり自分の目の前にある餌は、大きな人間=親、が与えたものだから食べてよし。》
単純である。
そんなドラゴンに気づいたのは、意外にもメルトだった。
「あっ、ママぁー、ドラゴンちゃん食べてるぅー。」
「少しなら・・・でも・・そしたら・・・みりんは・・・って、ドラゴンがどうかしたの?」
どうやらミーメルさんは再び独り言モードに入っていたようである。
「だからぁー、ママの料理をドラゴンちゃんが食べてるのぉー。」
「あら、本当ね。」
二人に見られているのに気づくことなくドラゴンは美味しそうに食べている。
「ほらぁー、食べたんだからぁ、ちゃんとママにも懐いてくれるよ。だからぁ飼ってもいいでしょう。」
ミーメルの瞳を真っ直ぐ見つめるメルト、まさに母性本能をくすぐる表情である。
「えーとねっ、メルの気持ちもわかるけどね、やっぱりこの子にもママやパパもいると思うの。きっと必死に探してるはずだよ、ねっ?この子だってママやパパに会いたいはずだよ。メルだってママと離ればなれになったら寂しでしょ。」ミーメルママも必死に抵抗してみる。
「それじゃあぁ、ドラゴンちゃんに直接聞いてみようよ。」
そう言うとメルトは椅子から降りると、ドラゴンの前まで進み、しゃがんで目を合わせる。そして
「私とママと一緒に暮らしてみる?ママとパパが迎えに来るまでこの家にいたい?」
っと、優しく尋ねた。
ドラゴンは、
「きゅいっ!」
っと、わかっているのかいないのか不明だが、頷きながら元気よく答えた。
そんな二人?を見つめたままミーメルは《はぁ》と、溜め息をつくと、
「しょうがないわねー」
ドラゴンを受け入れることを決め。
「だけどペットじゃないわよ。この家で一緒に暮らすんだから《家族》よ。」
と、締めくくった。
例えなにがあろうともメルトを守ると、例え親ドラゴンが来てもちゃんと胸を張って送り出してあげると決意した。
そんな母親の決意など微塵も気づかないまま、メルトはドラゴンの小さな両前足と握手して、喜びを表しながら。
「やったぁー。それじゃぁ名前を決めないとね。」
と、満面の笑みを浮かべている。
そんな娘の様子を微笑ましく見つめる母親もやはり笑顔である。
「うんっ!!キミの名前は《コドラ》だぁっ!!子どものドラゴンだからコドラぁ。」
なんて単純な、
《はぁ》と、ミーメルが小さな溜め息ををついた。
それでも二人とも笑顔のまま。名前を与えられたドラゴンも心なしか嬉しそうな表情をしている。
小さな家に溢れる小さな幸せ、
ささやかな笑顔は確かな絆。
ミーメルが食費について考えが及ぶのはこれから30分後のこと。