救う場所、救う人《中編》
「無いねぇーコドラぁ。」
「きゅい」
ビットマン家の倉庫の中でメルトとコドラがガサゴソと何か探している。
実は昨晩帰ってきたミーメルが聞いてきた薬草を探しているのである。もちろん探し物の薬草とは昨日病院にやってきた子供の為の薬草である。
「よっ、・・・う〜〜ん?これでもないねぇ。」
「きゅぃ?」
木箱の中をやガラス瓶を覗き込んで探すメルト、ミーメルがいつもより朝早く出勤していったため代わりに探しているのである。
「この棚で最後だけど・・・やっぱり無さそうだねぇコドラぁ」
「きゅぃぃぃ」
昨晩の内にめぼしい所はミーメルと二人で探していたため今朝はそんなに探す量はない。
この薬草を保管している倉庫、両側に棚が置いてあり部屋の奥には作業用の机が置いてある。普段はキチンと整理整頓されているが、今は棚から取り出した木箱やガラス瓶、薬草の入った袋などが散乱していて足の踏み場もない。
「・・・ん?・・・これっぽいなぁ〜。コドラぁーちょっとメモ見せてぇ。」
「きゅうい」
薬草の入ったガラス瓶を手にとってコドラを呼ぶメルト。すると口にミーメルから渡された薬草の特徴が書かれたメモ用紙を咥えてトコトコとコドラが近寄っていく。
「う〜〜〜ん。・・・違うかぁ〜〜。やっぱり無かったねぇ。」
「きゅぃぃ」
ガックリと肩を落とすメルト、コドラもうなだれている。
と、
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドんドンドンドドンドンドンドンドドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!ズドンダァーン!!ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドドンドンドドンドンドンドンドドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンンドンドンドンドンドンドンンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!アタ!・・・イッタ〜・・・ドンドンドンドンドンドンドンドン!スダンスダンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!!
もはや恒例のノックが聞こえてきた。
「誰だろう?お客さんかなぁ〜?」
いや、こんなノックする奴は一人しかいないぞメルト
「きゅぃーー!!」
相変わらずビビるんだなコドラ
「おはようメーーール!!いるんでしょーーー!!。おとなしく開けなさーい!!」
家を揺るがす程の大音量の声も聞こえてくる。
「はぁーーい。今行きまーす。」
トコトコと小走りで玄関まで行くメルト、コドラもビビリながらも後を付いてきてメルトの背に隠れている。ガチャリと扉を開けると案の定金髪ポニーテールのヒルダーが腰に手をあてて立っていた。
「ヒルダーちゃんだぁー。いらっしゃーい。」
ノックについてはノーリアクションで挨拶をするメルト。
「・・・俺もいるぞー。」
玄関の前で何故か偉そうにしているヒルダーの後ろから相変わらず死んだ魚のような目をしたアルも顔を出して挨拶する。
「おはよう二人ともぉ。今日はどうしたのぉ?」
いつもよりだいぶ早い時間に来た二人に不思議がるメルト
「何言ってるの!?昨日病院にやってきた子の野草を探しに行くためにわざわざ早くきたんでしょうが!」
ふふんっ!と鼻を鳴らしながら胸を張るヒルダー
「なんで知ってるのぉ?」
小首を傾げるメルトにアルが説明する。
「いやなに、朝早くにテッラさんがうちの店に来てよ、こんな薬草がないか聞いてきたんだよ。まあ結局うちの店には無かったんだけど偶然ヒルダーがその話を聞いて、なら自分達が探す、なんて言い出して俺を無理矢理連れてココまで来たって訳だ。」
若干疲れた口調で語るアル。どうやら朝からヒルダーに振り回されているようである。
「でも私もこの薬草のある場所を知らないよ?」
そんなアルをスルーしてヒルダーに意見するメルト。
「そんなのわかってるわよ!いいメル、アル。今まで見たことが無いなら今まで行ったことの無い場所に行けばいいのよ!!」
ドーーン!!と高らかに宣言するヒルダー。
おお〜と小さく拍手はするメルトとは対称的にアルは。
「・・・そんな簡単なもんじゃないだろうが。」
と、呟く。そんな小さな嘆きは無視してメルトは着替えと準備をし始めた。
もちろんコドラにはバスケットとリュックを装着して
「・・・はぁ〜。」
今日も騒がしくなりそうだとアルは溜め息をつく
「よしっ!準備出来たわね。それじゃあ行くとしましょうかっ!」
準備完了した二人?を見て意気込むヒルダー
「・・・てか場所は決めてるのか?」
アルが重要な事をつっこむ。
「そりゃあーメルが行ったことない場所でしょうが。」
「・・・で、メルは何処に行ったことないんだ?」
さも当然のように言うヒルダーに呆れながらもメルトにたずねるアル。
「ん〜〜とっ、・・・・・そうだっ!森の泉の奥には行ったこと無いよ。」
適当に答えるメルト。
「それじゃあ森の泉の先を目指すとしましょうか。」
即決するヒルダー。
「・・・もうちょい考えろよ。」
「ならアルは何か思い当たる場所あるの?」
「・・いや・・そりゃあ無いけどよ。」
「ならグダグダ文句を言わない!」
「・・・行って無かったどうするんだよ。」
「また別の場所を探せばいいでしょう?」
「・・・そういう問題か?」
「いいの!探してあったら万事OK。無かったらまた今度。それでいいでしょう!?。」
「・・・もっと効率的に探そうとは思わないのかよ。」
「あ〜〜ごちゃごちゃうるさいわね〜〜!!とりあえず行ってから考える!いいわね!?」
ギャーギャーと二人が騒いでいると
「ヒルダーちゃんもアルちゃんも何話してるの〜〜。置いてくよぉ〜〜。」
「きゅい〜〜」
メルトとコドラが遥か前方で手を振って呼んできた。
「こらー!あたしを置いてくなー。メーーール。」
叫んで駆け出したヒルダーに対してアルは
「・・・もうどうにでもなれ。」
と、投げやりに言い捨てて後をついていった。
で、森の中である。
「ここが泉だよぉ♪」
ヒルダーとアルを先導するうに歩いていたメルトが指差した先には綺麗な清水を湛えた泉があった。
「ここでコドラと出会ったんだよぉー。」
「きゅい?」
後ろを歩く二人に説明しながらメルトは隣のコドラの瞳を覗き込む。コドラはわかっているのかいないのか首を捻っている。
゛ガサッ!゛
「きゅぃぃー!!」
いや、物音がするたびに驚いているところからするとそれどころじゃないようだ。
「きゅぃー!」
でも、もうちょいしっかりしてくれ。
「ふ〜〜ん。ならこの泉の奥はメルトも知らないわけね。」
「そうだよぉ。」
「う〜〜ん、なんか熊とか出そうな感じね・・。」
「大丈夫だよぉ。いままで出会ったことないからぁ。」
「そう、なら安心ね。とりあえずこのまま真っ直ぐ歩いてみましょうか。」
「おーーー。」
「よし、それじゃあここから先はそれっぽい草を見つけたら必ず確認すること!むしろ片っ端から持って帰ること!。」
「はぁーい。でも、帰り道はどうするのぉ?」
「もし迷ってもいいように木に目印をつけながら歩いていきましょう。帰る時はその印をたどっていけば戻れるわ!」
「さすがヒルダーちゃん♪」
そんなコドラを無視してヒルダーとメルトは話しを進めて森の奥に足を進めていく。
「・・・いいなぁ気楽で。・・・お前もそう思うだろう?」
ルンルン気分で前を歩く二人を見ながらアルは横でビクビクしているコドラに力なく呟いた。
「なにボーっとしてんのよ!置いてくわよーー!」
「きゅいーーー」
「・・はぁ〜〜〜・・・・はいはい今行きますよっと。」
ヒルダーに急かされてダラダラと歩いていくアル。
気持ちは分かるがもうちょい元気にいこうや。
「あっ・・・う〜〜ん・・・これも違うかぁー。」
メルトはメルトでアル達のことなど気にせずに薬草を探してるし。
薬草探しの道のりは遠そうである。
「メ〜〜ル!!、これはなんかどう?それっぽいんだけど。」
「見せてぇ・・・・・これは違うよヒルダーちゃん。ただの雑草だよぉ。」
「またハズレ〜〜〜!?ならもっと奥まで行くしかないわね。」
「・・・この草は違うか?」
「え〜〜と・・・アルちゃんのも違うね〜〜。」
「・・・はぁ〜〜。・・・念のために持ってかえるか・・・。」
「きゅいー?」
「わわわっ!その草はだめだよコドラぁ、毒があるからすぐ捨てて!。」
「きゅぃぃぃ!」
視線を落として薬草をひたすらに探しながらさまよい歩く三人と一匹。ちゃんと薬草を判別できるのがメルト一人だけなのでそれっぽい草を見つけてはメルトに確認してもらうという作業を繰り返している。一応ダメな草もコドラに背負わせたリュックに詰め込み持ち帰ってから再度確認することにしている。もしかしたら正解が混じっているかもしれないから。
期待はしていないが・・・
木の根や岩などに四苦八苦しながら奥に進めば進むほど日光が届かない鬱蒼とした森になっていく。樹齢何百年と経っていそうな木々が所々に立ち、どこからともなくギャーギャーと鳥や動物の鳴き声が湿った風と一緒に聞こえてくる。生えている草や木々の種類も泉周辺のものとはだいぶ変わってきており同じ森とは思えないほど辺りの景色は様変わりしている。
「きゅぃぃぃぃ」
コドラはずっとビビリっぱなしである。背中の翼はぺタリと垂れ下がりキョロキョロと挙動不審に首を振ってあたりを警戒し、メルトのそばから離れようとしない。
・・・・あれ?いつものことか。
「きゅぃい?」
まあ、それでも薬草らしき草を発見するとちゃんと咥えてメルトに見せているから少しは立派かな。
「どれどれコドラぁ・・・う〜ん違うねぇー。」
「きゅぃぃ」
正解は引き当てていないようだが。
っと、肩を怒らせながらヒルダーがメルトの前までやってきた。
「これはどうだーー!!」
意気揚々と手にした草を見せる。
「全然違うよヒルダーちゃん。」
即座に否定するメルトに
「うが〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!いつになったら見つかるのよ〜〜〜!!」
とうとうヒルダーがキレた。もしくは壊れた。
「なんなのよも〜〜〜!ぜんっぜん見つからないじゃない!む〜か〜つ〜く〜。」
叫びながらその辺の木やら地面にガンガンゲシゲシと八つ当たりするヒルダー。コドラはその様子に完全にビビったようで「ききゅぅぅ」と鳴きながらメルトの後ろに隠れてしまった。
「これも違うねぇー」
メルトはヒルダーのことなど気にせずマイペースに薬草探しを続行している。
友人は無視しちゃいけないぞメルト
「疲れた〜〜〜!!!喉渇いた〜〜!!!飽きた〜〜!!!!」
ドガンッバキンッボガッっと熊でさえ逃げ出してしまいそうなくらいヒルダーが暴れていると、大分疲れた様子でアルが近づいてきた。
「・・・・・・・・・・・なあ、一言だけ言わせてもらっていいか?。」
「あ〜〜〜〜、なによ!!」
「・・・・・・・・・・・ここに探しにくることを決めたのはたしかお前だろう?。」
どよーーんとした表情でヒルダーを見つめるアル。彼の瞳はどこか非難めいている。
「そんなことは関係ない!あたしは過去に興味無いの!!とにかく疲れたーー!」
ヒルダーもいい性格をしている。
「・・・・・・・さよか。」
喚き続けるヒルダーに呆れたアルはため息をつくと、額に流れる汗を腕で拭いながら頭上の空を眺めた。
木々の間から見える青空は夕暮れの空気を少しずつ運んでいる。
「・・・・・今日はもう帰るか・・・。」
ポツリと呟いた言葉にヒルダーが飛びつくように叫ぶ、
「賛成ーー。帰ろう!今すぐ帰ろう!すぐさま帰ろう!」
今度は帰ろうコールを始めるヒルダー
「・・・元気じゃねーか。・・・おーーいメールト。帰るぞーーー。」
はしゃぐヒルダーを横目で見ながらメルトを呼ぶアル。コドラと一緒に茂みに頭を突っ込んでいたメルトは声が聞こえると髪の毛に葉っぱを乗せながらトコトコと二人の場所までやってきた。
「もう帰るのぉ?」
「きゅぃーー?」
「・・・ああ、うちのお姫さんが限界だそうだ。」
「まだ薬草見つけてないよぉ。」
「きゅいきゅい」
「・・・明日また探せばいいだろう。今日はもう止めようや。」
「はーーい。残念だったねコドラぁ。」
「きゅいぃ」
「あーーーーーーーーーー!!!。」
アルとメルト(コドラ)がのんびり会話していると、さっきまで帰るコールをしていたヒルダーが突然叫んだ。
「・・・今度はなんだよ。」
「どうしたのヒルダーちゃん?」
「きゅいぃぃぃ!?」ムンクの叫びの表情のまま固まった顔をギチギチと二人と一匹を振り向くヒルダー
「・・・・・・・困ったことになったわ・・・」
「どうしたのぉ?」
「くきゅい?}
「・・・・・?」
「・・・・・帰り道が分からないの・・・・・・」
「「「え?(きゅい?)」」
見事に二人+一匹がハモった。
「・・・・えへ♪」
ポニーテールをゆらして小さく舌を出すヒルダー。
「・・・いやいやいやいやいやいや、ちょっと待てって。帰り道が分からないってお前{木に目印つけてく}って言ってたじゃねーか、付けた目印はどこだよ。」
「そうだよヒルダーちゃん、そこは{えへ♪}じゃなくて{てへ♪}だよ。」
メルト、そのツッコミは間違っている。
「いや〜〜〜その目印をつけるのを途中から忘れてちゃってた♪」
「忘れちゃってた♪じゃねーよーーー!!!。えっ、なに?、つーことは本気で帰り道がわからないのかよ!!!。」
「おーーー性格が変わってるねアルちゃん。」
だから、そのツッコミ(?)は間違っているぞメルト。
「メルトはもっと慌てろよっ!どうするよ、どうするんだよ。しゃれにならないじゃねーかよ。」
「あはははは、どうしようか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嘘だろ。」
メルトの笑い声にガックリと膝を落とすアル。
んばれ常識人
なんてこと言ってる場合じゃなくて迷子である。もう100%迷子である。「きゅいー?」
コドラはいまいち状況を把握していないようである。「・・・・・・・・・・・・・・・とりあえず俺達が歩いた痕跡を捜そうか。足跡とかがのこっているかもしれない。」
「草むらやら茂みの中を歩いてきたのよ、そんなの残っているわけないじゃない。」
「・・・なら山の標高の高い所に行こう。山頂から見渡せば町が見えるかもしれない。」
「ここは森の中よ?山なんかなないしずっと平坦だったじゃない。」
「・・・ならどうすんだよ。」
「今考えてるわよ!!」
「・・・逆ギレすんなよな。メルトとコドラを見ろよ、この状況でも冷静だぞ。」
「う〜〜〜ん、この草がそれっぽいけどやっぱり違うねぇー。」
「きゅい」
「あれは状況を理解していないだけよ。」
迷子になっても気にせずに薬草探しを続けるメルトとコドラ。アルもヒルダーもその様子を見て慌てるのがバカらしく思えてきた。
「・・・よし。まずは落ち着いて考えよう。おそらく日暮れまでは後二、三時間はあるはずだ。それまでに森を脱出しよう。俺達がここにいることを知っているのは誰もいないから自力でどうにかするしかない。」
「そうね、それに食べ物も無いし夜になれば凶暴な動物が来る可能性があるわ。」
「・・・ますますダメじゃねーかっ!?」
「だから落ち着つけって言ってるでしょうがっ!!」
「これが落ち着いてられるかってんだ!」
「キャラ壊してまで叫ぶなっ!!」
「関係ねーだろが!しかもこれだと迷子つーか遭難だろーが。本気で死ぬぞ!?」
喧々囂々と騒ぐ二人をよそにメルトが叫ぶ。
「薬草発見〜〜〜ん♪」
「きゅぃぃー♪」
どこまでマイペースなんだお前は
「「・・・・・・」」
ぽかーん、と顔を見合わせる二人。満面の笑顔で喜びを表現するメルト。背中のリュックを揺らしてはしゃぐコドラ。
たっぷり5分間ほど沈黙するアルとヒルダー。やがて二人同時に長い溜め息をついて呟く。
「「なんでこのタイミングで見つけるかな!?。」」
まったくである。
どうすればコドラが目立つのか。誰か教えてください。