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森に行こう

「行ってきまーす。」

「行ってらっしゃぁーい(きゅぃー)」

今日も母ミーメルが元気に出勤していく。

今日も娘メルトが笑顔で見送る。

今日もドラゴンのコドラがのんびり鳴く。

今日もビットマン家は平和である。


いつものようにてきぱきと日課の片付けを終わらせたメルト。

今度は洗濯をしながらコドラに言う。

「よぉっし。今日はねぇコドラぁ。行く場所をもう決めてるんだぁ♪」

「きゅうい?」

コドラが首をかしげると、メルトはいつもより少しだけ意気込んで

「今日は”森”に行くよぉ♪」

と、窓の外を指差して笑顔で高らかに宣言した。

「きゅい!」

コドラも外を見ながらうなずいた。

今日も外は快晴、空は青く風が気持ちいい日である。

お気に入りの帽子をかぶったメルトと、首に昼食入りのバスケットを掛け、リュックを背負ったコドラ。普段通りの格好である。


余談だが、コドラが背負っているリュックは、母ミーメルが背負いやすいように腕にかける部分を調整し、荷物が落ちにくいように蓋を換えて、翼でおさえられるように改造してあったりする。

まさに、母の愛である。

まあ、ただ単に、あまりにリュックを背負ったコドラが不恰好だったため、苦笑いしながら短時間の内に完成させたのであるが。

裁縫はこの世界の女性には必須スキルなのである。


閑話休題


メルトとコドラが目指す森というのは、二人?が出会った森ではなく、家の南側にある小さな森のことである。そこは、どちらかというと林に近い感じであり、比較的歩きやすく迷うことはほとんど無い。それに危険な野生動物も滅多に出没しないため、よくメルトが行く場所の一つである。



「♪か〜ぜに〜とまどぉ〜♪よ〜わっきな〜ぼ〜くぅ♪」

「きゅいる〜♪」

上機嫌に森の中を歩く一人+一匹。ほどよく繁った木々は日射しを遮りつつも、やわらかな明るさを生み出している。獣道のように細い道だが、馴れた様子で歩くメルトの足取りは軽い、とっ、

「きゅい!」

例のごとくコドラが目の前に現れたヘビに驚き固まる。

「♪ほ〜んと〜はぁ〜、とっ、ほいっ」

そのヘビをためらうことなく掴んで

「ほいなぁっ!」

ポーンっと投げ捨てるメルト。もはや職人芸である。しかし、ヘビを躊躇なく掴むのは女の子としてどうかと思う。


「♪みた〜めい〜じょ〜うにぃ〜♪」

そして何事もなかったかのように歌いながら歩きだす。

「・・・!きゅいぃ。」

慌てて追いかけるコドラの姿も、もはや恒例になりつつある。

すると今度はメルトが突然立ち止まり、茂みを覗きこみ。

「あっ、ドコダミの花だぁ。うーん、でもまだ実はないかぁー。こっちはムラサキトマトかなぁ?これもまだまだだねぇー。」

草花を手にとりながそう言った。

歩きながらでも薬草探しは忘れないのがメルトである。普通の人なら見落としてしまいそうな小さなものまで目ざとく見つけることができ、薬草とわかると収穫して持って帰るのである。

「きゅぃーー!!」

「ほいっ、よっ、たぁっ!」

しかも、探しながらでもコドラを助けている。

器用な奴である。

そしてコドラはあまり役立ってない。荷物持ちが関の山である。

ドラゴンに薬草探しをさせるのもおかしな話かもしれないが。


「あっ!ピネシキセルモドキノツモリだぁ。珍しいぃー!」

しゃがんで声を上げるメルト

確かに珍しい名前である。

それはさておき

切り株に生えているキノコを熱心に見つめるメルト。コドラも一緒に眺める。

このキノコ、外見はヒョロリとしており傘の部分が丸くなっていて、全体的に緑色っぽい。

そのキノコを眺めながらコドラに説明するメルト

「このキノコはねぇー、食べると気持ちよくなって夢の世界に行けるらしいんだよぉ。」

マジックマッシュルーム!?

そのキノコはヤバイぞメルト!

「きゅぃ?」

間違っても食べるなよコドラ!

っと、

「えいっ!」

ぐしゃっと、いきなりキノコをメルトが踏み潰した。

「ゴメンねぇ。可哀想だけど見つけたら危ないから潰しなさいってぇ、ママが言ってたんだぁ。コドラも食べちゃダメだよぉー。」

「・・・・・・きゅぃ」

突然のメルトの行動に若干引きながらも頷くコドラ。

そりゃあ誰だって目の前のキノコを足で踏み潰されたら驚くだろう

うなずくコドラを見て満足したのか再び歩きだすメルト。

「♪〜〜あさ〜り♪しめ〜〜じ〜〜♪」

何事もなかったかのように上機嫌である。

「きゅい!」

心なしかメルトの後を追うコドラが距離を空けているような気がする。

上機嫌のメルトは、そんな些細なことには気付かなずに探索を進める。

「あっ!クマコロシの実が生ってるぅ。」

すると今度は、茂みに生えている草の実を見つけたメルト。

大きなトゲトゲしい葉っぱに、ビー玉サイズの赤黒い実、葉っぱは全体的に紫色をしている。

見た目は絶対に毒がありそうである。

名前からして《熊殺し》と毒々しい感じがする。

「きゅうぃぃぃ」

コドラも怪しそうに眺める。と、


ヒョイッ!パクッ!


メルトが摘んで食べた。

「きゅっ!!」

驚き固まるコドラ

コドラの驚きをよそに、口の中でクマコロシの実を咀嚼するメルト

その様子を不安そうに眺めるコドラ、と、

「甘ーーーい♪」

叫んびながら笑顔になるメルト

どうやら大丈夫そうである。

むしろ満足げである。

しかし、あの見た目の実を躊躇なく食べれるのはすごい。

薬草以外にもこういった食べれる植物の知識は沢山あるメルト。この調子なら山の中で一ヶ月遭難しても生き残りそうである。

マジで、

「ママにも持ってこーーっと。」そう言って次々とコドラの背負っているリュックに詰め込んでいく。

「クマコッロシー♪クッマコッロシー♪」

その鼻歌はどうかと思うぞメルト、

いやマジで。



そうこうしながら森の奥まで進んでいくと、

ポツリ、ポツリ、ポツリ

「あれ?」

「きゅい?」

水滴が落ちる音がしはじめ

ポツ、ポツ、ポツ、ポツ

「あ、雨だぁ!」

「きゅぃーー!」

あれだけ晴れていた空から雨が降ってきた。

実はキノコのあたりから空は雲ってきていたのだが、薬草探しに集中していたせいで気付かなかったのである。

雨は徐々に勢いを増していく

「あの木まで走ってコドラぁ!」

「きゅぃる!」

全力疾走するメルトとコドラが駆け込んだのは、樹齢数百年を超えるであろう巨木であった。

胴回りは10mはありそうなほど太く、その中心は空洞となってポッカリと口を開けている、空洞の天井は塞がっており雨は入ってこない。

その中に入って雨宿りするメルトとコドラ

「本降りになってきたねコドラぁ。」

「きゅぅい」

雨は止むどころかザァーーザァーーと音をたてながら強くなっていく。

さらに、ゴロゴロと遠くから雷鳴も聞こ始めた。

「止むまでここにいるしかないねぇ。」

「きゅぃぃ」

巨木の中に入り雨が止むのを待つメルトとコドラ。巨木の中は暗く、身体をくっつけないといけない程狭い。それに湿気のせいでジメジメとして、快適とは言えない。とっ、

ピカッ!!

空が一瞬光った。そして、

ゴロゴロ!!

大きな雷鳴が轟いた。

「きゅぃーー!」

縮み上がるコドラ。震えながらメルトに身体を寄せている。

「大丈夫だよぉ。」

メルトが気楽そうに言う。すると、

ピカッ!!

っと、先程より強烈な光が辺りを照らし、

トゴーーーン!!

一瞬の間をあけてすぐさま耳を破壊するような雷鳴が鳴り響いた。

「きゅぃぃーーっ!!」

今にも泣き出しそうな悲鳴を上げるコドラ。身体はカタカタと震え、翼はペタリと下がり、目をぎゅっと瞑っている。

まるで怯えきった子猫のようである。

そんなコドラを見たメルトは、

優しくコドラの頭を撫でると、


「♪いつでも誰かが〜」


ささやくように歌いだした。

「♪ずっと、そこにいる〜〜♪思い出しておくれ〜♪綺麗なその名を〜〜♪」

暗い巨木の空洞にこだまする歌声

「♪ところが沈んで〜♪何も見えな冬〜〜♪ずっと、ずっとお前が〜〜♪いつもそばにいる〜〜♪」

雨は止まないし、雷は轟いている。

それでもコドラの耳にはしっかりとメルトの歌声は届いた。

「♪雨の、降る道〜♪いったいどうする〜〜♪坂を登れば〜♪やっぱり一人かい〜♪」

明るく楽しく、それでも優しい歌声が、雨に負けじと森の中に響き渡る。

「♪うまれた家を〜♪遠く離れても〜〜♪無くさないでおくれ〜〜♪あの町の夢を〜〜〜♪」


観客がたった一匹のコンサート

けれども、森の中すべてを包み込むコンサート

雨は手拍子となって

雷鳴は拍手となる

いつしか観客も歌いだす。太陽が見えるまで小さなコンサートは続く




いつでも誰かが

ずっと、そばにいる

思い出しておくれ

綺麗なその名を

いつでもお前が

ずっと、そばにいる

無くさないでおくれ 

素敵なその顔

争いに疲れ果て

明日が見えないなら

耳を澄ましてくれ

唄が聞こえるよ

涙も辛さも

いつか癒えてゆく

そうさきっとお前が

微笑みの歌を

いつでも誰かが

ずっと、そばにいる

隠さないでおくれ

素敵なその歌









「晴れたねぇー」

「きゅい」

空が再び光を取り戻したのはそれから一時間後であった。

眩しそうに手で太陽を隠しながらメルトが空を見上げる。

コドラは全身をグーーーっと、伸ばしている。

雨上がり独特の空気に包まれた森の中、水溜まりがいくつも出来上がり、薄い霧がたちこめている。

「もう少し探したら帰ろうかコドラぁ。」

「きゅぃ!」

どこか清々しいメルトとコドラ。いつもは後ろに隠れるようにしているコドラが、今はメルトの横に並んでいる。

どうやら、少しだけコドラの中の何かが変わったようである。

「よっし!それじゃあ今度はあっちに行ってみようか♪」

「きゅい♪」

来た時と同じように

だけれど少しだけ違って歩く一人と一匹

森の中をゆっくり進んでゆく







「きゅぃーー!!」

「あっ!大きなカエル。よいしょ、たぁーー!」

カエルに驚き固まるコドラに、掴んで投げるメルト。

やっぱりそう簡単には変わらないみたいである。




なにはともあれ日暮れ後。


「ただいまー。」

「おかえりぃママぁ。」

「きゅい。」母ミーメルが帰宅すると、メルトがいつものように収穫物を選別していた。

「あら、珍しいわね、クマコロシの実じゃない。」

「森に行ったらあったのぉ。」

机の上に並んだ収穫物を見るミーメル。ふと、ひとつの物が目にとまった。

「ねー、メルト。そのキノコは・・・?」

「これぇ?このキノコは初めて見つけたから採ってきたのぉ。」

巨大で真っ白なキノコを掴むメルト。そんなメルトに若干引きつった笑顔でミーメルは

「・・・そのキノコの名前はねメルト。《オオカミコロリ》っていうの。」

と、言った。

「ねぇ、ママぁ。もしかしてこのキノコはぁ・・・。」

「ええ、毒キノコよ。」

「きゅぃー!?」

たまには間違うこともあるメルトである。




「まあ、人が食べても死にはしないんだけどねー。」

引きつった笑顔から微笑みに変えたミーメルはメルトの頭を軽く撫でると、

「それじゃ、御飯にしましょうか。」

そう言って台所に向かった。

「あっ、手伝うよママぁ。」

「きゅぃ」

なんだかんだで今日も平和に一日が終わるようである。

メルトが歌った曲ですが、元ネタは、「平〇狸〇戦ぽんぽ〇」のエンディングに流れていた歌です。てかほとんど似たような歌詞です。むしろ原曲を聴いて思いついたネタです。是非原曲の方を聴いてみてください。

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