あの日求めたもの
今回は少しいつもと違います。それでも駄文です。
暗い
真っ暗だ
それに狭くて息苦しい
あまりにも苦しいから無我夢中で体を動かしてみた。バタバタバタ、コツ、バタバタ、コツコツ、バタバタパリッ。
あ、光だ。
光の線が見える。
バタバタ、パリパリ
もっと強く。
もっと光が見えるようにもがいてみる。
体の節々が痛みだしたけども気にしない。
バタバタバタバタ、パキパキパキパキ。
もう一息、もう少し、もうちょっと、もう一押し、もう一歩。
パキパキパキパキ、メキメキメキメキ、
力を振り絞って前に進んでみる。
あの光の先に、
この暗闇を突き破って
パキャ
真っ白な世界に
「きゅぃー」
荒れ果てた岩場、草木が一本も生えておらず、生命の気配が一切感じられないそんな場所。そこの大きな岩の影に小さな鳴き声が響いた。
砂にまみれた巨大な白い卵。その卵から顔を突き出した生き物がいる。生き物は体を不器用に這いずりさせながら卵から抜け出る。
どこかワニに似た爬虫類独特の顔付き。体は鱗に覆われ、手足には鋭い爪が生えており長い尻尾がある。後ろ足に比べ非常に小さな前足、ブルーの瞳に綺麗に生えそろった牙。極めつけは背中に生えた一対の翼。
伝説として語らえる産まれたての《ドラゴン》がいた。
「きゅぃーーきゅぃーーきゅぃーー」
荒れ果てた岩場に響き渡るドラゴンの鳴き声
しかし、本来であればその場にいるはずの親ドラゴンの姿が見えない。
「きゅぃーーきゅぃーー、きゅぃーーーー!。きゅぃ、きゅぃぃ。」
それでもあらんかぎりの声で鳴くドラゴン。だが、いつまでたってもその声に答える声も姿も現れない。
「きゅぃーーーー。きゅぃぃ・・・・・・きゅぃーー」
いかなる動物も、産まれたてすぐは弱者である。たとえ伝説のドラゴンであっても例外ではない。身を守ってくれる親がいなければ、いずれ肉食動物に襲われてしまうだろう。
この産まれたてのドラゴンの周囲に危険な動物がいないのは、そこがドラゴンの巣という訳ではなく、ただ単にこの岩場が生き物の住む場所ではないだけである。
「・・・きゅぃぃ、・・・きゅぃぃ」
ヨロヨロとおぼつかない足取りで歩きだすドラゴン
鳴き疲れ、座り込まずに歩きだしたのは野生の本能か、はたまた偶然か。
「・・・きゅぃぃー、きゅぃぃーっ!ぎゅぃっ」
石につまずくドラゴン。
ヨロヨロとした足取りでは岩場を進むのはなかなかうまくいかない。二足歩行のドラゴンではなおさらである。しかもこの岩場、平坦な大地にあるのではなく。剣山のような切り立った山々が連なる山脈の一部、山と山の間にあるのである。急斜面に10mを超える巨大な岩、ナイフのように尖った岩石もそこら中に転がっている。
「きゅっ・・・きゅぃーー、きゅぃーー。・・・きゅぃーー。」
それでもドラゴンは歩みを止めない。なにかを求めるように鳴きながら岩場をヨロヨロ進んで行く。
雲一つ無い空からはギラギラと太陽が照りつける。産まれてまもない体にはその光は強すぎた。
「・・・きゅぃぃ。・・・きゅっ?」
日差しにあてられてフラッと立ちくらむ。足場の悪い岩場ではそれはあまりに危険である。
「きゅぃーっ!」
案の定、足を踏み外すドラゴン。不運にもそこは急斜面になっている。ガラガラと音をたてて落ちてゆく、爪を地面に刺してもいくすじもの後を残すだけで意味がない。体制を立て直そうとするが産まれたての力ではうまくいかない。
「きゅいっ、ぎゅっ!、ぎっきゅっ。」
勢いが納まることなく、それどころかどんどんスピードが上がっていく。やがてゴロゴロと転がりはじめ、やがて・・・
「きゅっ?・・・きゅぃーーーーーーーーーーーーーー!!」
垂直に切り立った崖
つまり、谷底に向かって落下する。
必死に、本能的に翼を羽ばたかせる。しかし、風を掴むには、空を飛ぶにはあまりにも小さな翼だった。
「きゅぃーーーーーーー!!」
大小の石や岩と一緒に落ちてゆくドラゴン。手足を伸ばすが壁には届かない、翼をはためかせても飛べない。
何十メートルも落ち、そして
ドッッポーーーンッ!!
川に落ちた。
「・・・・・・きゅっ?」
ドラゴンが目を覚ます。
あれだけの高さから落ちたのにケガが無いのはドラゴンゆえか、はたまた運がよかったからか。
「・・・きゅい?」
首を回して周りを眺めてみる。どれだけ時間が経ったのかすでにあたりは暗闇につつまれている。
「きゅっ・・・」
そこは産まれた岩場とまったく違う草原だった。
後ろにはサラサラと流れる川があり尻尾はまだ水に浸かっている。どこをどうどれだけ流されたのか、あの岩場のあった山々は見当たらない。
「きゅぃぃーーーーーー!!!!」
力一杯鳴くドラゴン
だが、その鳴き声は漆黒の草原にこだまするだけである。
ザザァーーと音をさせながら風が吹く。果ての見えない草原と、夜空に浮かぶ星々も今は孤独を感じさせるだけである。
「・・・・・・きゅぃ」
ヨロヨロと立ち上がり川から上がるドラゴン、だが
「・・・きゅっ」
ドサリと、すぐ力尽きてしまった。
「・・・クゥーー、クゥーー、クゥーー。」
そしてそのまま寝てしまった。
母の愛も、父の優しさも知らないまま、産まれたてのドラゴンは、孤独に初めての夜を向えた。
グギュルゥー
「・・・・・・きゅぃ」
自らの腹の音で目を覚ますドラゴン。
太陽はすでに顔を出しており、空は澄み渡っている。
「きゅぃーーーーー!!」
グギュルゥー
鳴いても答える声は腹の音だけである。
「・・・・・・きゅぃ」
産まれてからまだ何も口にしていないのである、空腹は隠しようがない。しかし、本来食事を与えるべき存在はそこにはいない。狩りの仕方を知らない、知っていても今の状態では成功しないだろう。川の水を飲んで飢えをしのぐしかないのである。
「・・・きゅぃ・・・」
ヨロヨロと、むしろフラフラとあてもなく彷徨うドラゴン。見渡す限りの草原には、目指すべき目標もないのだから仕方ない。雄大な景色では満腹にはならないし、なによりこのドラゴンが求めているのはそんなことではない。
っと、
《ピューーーーール》
どこからか、鳥の鳴き声が聞こえてきた。見上げると、一羽のトンビが上空を飛んでいく。
ドラゴンにとってそれは産まれて初めて見た生き物であった。
「きゅぃーーー!きゅぃーーー!」
後を必死に追いかける。
もしかしたら、遥か彼方を飛ぶ親ドラゴンと思ったのかも知れないし、単純に好奇心か本能で追ったのかもしれない。
だが悲しいかな。空を飛ぶ鳥と、地を行く産まれたてのドラゴンでは追い付くはずもなかった。やがてトンビは、遥か地平線の先に消えてしまった。
「きゅぃーーー!きゅぃーーー!きゅぃーーーーーーー!!・・・・・・きゅぃぃ。」
飛び去った方角に叫んでみるものの、再び姿を見せることはなかった。
「・・・・・・きゅぃぃ。」
気力と体力を使い果たしたドラゴンは、その場にドサリと横になると、クゥーークゥーーと寝息をたてて寝てしまった。
孤独と空腹を我慢して。
「・・・・・・きゅぃ?」
次の日。なんらかなの気配を感じて目を覚ましたドラゴン。相変わらずの空腹感はあるし、喉も渇いている。だがそれ以上に生物の気配がしていた。
「・・・きゅい?きゅい?」
首を回して周囲を探ると、
10m程前方に、一匹の《狼》がいた。
「・・・きゅぃる!!」
人間であれば逃げ出すかしていただろうが、昨日見た鳥を含めて、二匹目の生き物との遭遇だったドラゴンは、喜んで狼に近づいていった。
たしかに、狼に比べてこのドラゴンは一回りか二回り程大きい。警戒心も持たずにいるのは無理ないことかもしれない。
だが、
狼は理解していたのである。ドラゴンが弱っていることに、一匹だけでいることに、なんら力を持っていないことに。
「ぎゅいっ!?」
突然倒れるドラゴン。
背中に別の狼が乗っている。
「きゅぃぃ、ぎゅぃぃ」
たまらず振り落とすドラゴン。乗っていた狼は身軽にジャンプして、目の前の狼の隣に並ぶ。
目を白黒させるドラゴン
自分が攻撃されたことを理解できないのである。
「「「グルルーーーー」」」
いつのまにか後ろには、三匹の狼達が唸り声を上げて迫っている。
やがて、ダンッと一匹が地を蹴ってドラゴンに攻撃すると、他の狼達もそれぞれタイミングを合わせて、ドラゴンに飛び掛かった。
「きゅぃー!きゅぃー!」たまらず逃げ出すドラゴン。いくら鱗に覆われているとはいえ、確実にダメージは与えられていく。なにより、何故自分が攻撃されるかを理解することができていないのである。産まれてすぐの状態で、自然の理も、弱肉強食の世界も知らないドラゴンには仕方ないことなのかもしれない。
「グルルッーー」
しかし、そんなことは狼達には関係がない。これは狩りであり。相手は自分達より大きいとはいえ弱りきっているのである。いくら固い鱗でもやがて、力尽きるはずである。
「きゅぃーー!きゅぃーー!」
「「「グルルーー」」」
ドラゴンは必死に逃げる。
だが、四足の狼と二足のドラゴンでは直ぐ追い付かれて攻撃される。
「きゅぃーーー!」
一匹のドラゴンを五匹の狼達が草原をどこまでも追っていく。
やがて草原の終わり、ドラゴンが地平線だと思っていたところまで逃げてきたドラゴン。そこは地平線ではなく、切り立った崖だった。しかし、ドラゴンは狼達から逃げるのに必死で、崖があることに気付かない。そして、そのまま
「きゅっ?・・・きゅぃーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
崖から落ちていった。
「グルルーーー」
狼達は落ちていったドラゴンを悔しそいに眺めていたが、
「アオーーーーーーン!」
最初にドラゴンの前に現れた狼が一鳴きすると、踵を返し、やがて草原に消えていった。
「・・・・・・きゅぃぃ?」
ドラゴンが目を覚ましたのは大きな木の枝の上だった。体を動かそうとすると、
ドシンッ!
と、地面に落ちた。
「きゅぃぃぃぃ?」
痛みに耐えて頭上を見上げる。そこには緑の葉を茂らせた巨木がそびえ立っていた。この巨木のおかげで助かったらしい。狼達からの攻撃も、固い鱗で防ぎきったようである。
視線をしたに移すと、似たような巨木が鬱蒼と生い茂る森の中にいることがわかった。と、
グギュルゥーー
何度目かわからない腹の音が鳴った。
「きゅぃぃぃ」
さすがに限界が近く、立っているのもやっとの状態である。
すると、地面にオレンジ色のリンゴに似た果実が落ちていた。どうやら木に落ちた際に衝撃で落下したらしい。それも10個は地面に転がっている。
「・・・・・・きゅー?・・・・・・パクッ。むしゃむしゃむしゃむしゃ。きゅぃーーー♪」
少し匂いを嗅いでから食べてみるドラゴン。どうやら美味しいらしい。
「きゅい!きゅい!パクパクむしゃむしゃパクパクむしゃむしゃパクパクむしゃむしゃパクパクむしゃむしゃパクパクむしゃむしゃ。」
あっというまに落ちている果実全部食べてしまった。産まれてから何一つ食べていなかったため仕方ないことなのかもしれない。
食べ終えた後、改めて周囲を見渡すドラゴン。視界すべてが出口の見えない森である。
「きゅぃーーーーーーー!!」
叫んでも、ギャァギャァと得体のしれない鳥の声がするだけで、ドラゴンの鳴き声は返ってこない。
「・・・・・・きゅぃぃ。」
再び当てもなく彷徨うドラゴンであった。
「・・・きゅぃ!?」
数時間森の中を彷徨うと、ようやく他の動物を見つけた。
それは、倒れた木と地面の間に脚を挟まれた一匹の子鹿だった。
「きゅぃ?」
警戒心もなく近寄っていくドラゴン。子鹿もドラゴンに気付いたようである。すると鹿は必死に身体を動かして脱出しようとした。
当たり前である。子鹿にとってドラゴンは恐ろしい捕食者にしか見えないのだから。
「きゅぃー?」
だがこのドラゴンは子鹿を食べようなんて思っていなかった。もともと本能が薄いのか、はたまた狩りの仕方もわからず、動物を食べたことがな無いせいなのか。
ドラゴンは子鹿の脚が挟まれていることを確認すると、自分の鼻先を倒木と地面の間に入れて、
「きゅぃーっ!!」
っと、力一杯に倒木を押し上げた。
なんとか脱出する子鹿。
その姿を見て安心したドラゴンは、
「ぎゅぃぃぃぃ!?」
真横に吹き飛ばされた。
見ると、さっきまでドラゴンがいた場所に立派な角を持った雄鹿がいた。
どうやらこの雄鹿が体当たりをしたらしい。
子鹿の前に立ちドラゴンを威嚇する雄鹿。おそらく子鹿の親であろう。我が子を守ろうと恐ろしいドラゴンの前に立ちはだかる。
対するドラゴンは、
「きゅぃーー!きゅぃーー!」
と、必死に自分に敵意が無いことを伝えようとする。が、この鹿の親子には伝わらなかったようである。
子鹿は痛む脚を引きずりながら森の奥に逃げていった。雄鹿は、子鹿が逃げていったのを確認すると、ドラゴンを威嚇しながら子鹿の後を追って森の中に消えていった。
取り残されたドラゴン
「・・・・・・きゅぃぃ」
力なく鳴くと、鹿の親子が消えていった方角とは逆の方向にすごすごと歩いていった。
それから何日・何週間・何ヵ月か過ぎた。
ドラゴンは相変わらず森の中を当てもなく彷徨っていた。
あれから何度か別の動物達にも出会った。しかし、大抵の動物はドラゴンを見ると一目散に逃げてしまった。猪や大蛇等は逆にドラゴンに襲い掛かってきたりした。
果実やキノコ等の植物で飢えをしのぎながらドラゴンは森の中を彷徨った。
孤独からくる淋しさ。
襲われる恐怖。
返ってこない鳴き声。
出口の無い森。
寒く恐ろしい夜。
明日生きれるかという不安
泣きたくなる雨
いつのまにかドラゴンは、求めるように鳴くのをやめていた。
動物達と出会っても、その場に這いつくばって嵐が去るのを待った。
どこまでも臆病で弱虫なドラゴンがそこにいた。
そのドラゴンは今、森の中の泉を茂みの中から見ていた。
視線の先には初めてみる不思議な箱があった。しかもその箱から美味そうな匂いがする。昨日から何も食べていなかったドラゴンは、誘われるようにフラフラと箱に近づいていった。
鼻先で箱の上を押し上げると、パカと蓋が開いた。中には見たこともない食べ物が入っていた。ドラゴンは我慢できずに箱の中に顔を入れて食べ始めた。っと、
「・・?」
泉の中から声がした。
思わずビクリとなり、ソロソロと顔を上げてみる。
泉の中心くらいに、初めてみる動物がいた。
自分と同じように二足歩行し、自分より背が高い。なにより真っ直ぐ見つめてきていた。
ドラゴンは動けなくなってしまう。やがてその動物は自分の近くまでやってきた。そして何か呟く。
その声が悲しそうだったから、思わず地面にペタリと這いつくばった。
「きゅぃぃぃーーー」
と、情けない声もでた。
そうして嵐が去るのを待った。
すると、自分の隣に座る気配を感じた。
やがて薄目を開けると、鼻先に先程食べていた食べ物が置いてあった。困惑しながらも誘惑に負けて食べるドラゴン。
動物はなにかささやいている。
食べ終えるとドラゴンは、その動物を見上げる。
隣に座って、何事か呟きながら自分を見つめる動物。
その右手は自分の頭に添えられているが、不思議と恐怖は感じなかった。っと、
ガサリッ
と、背後から音がして、反射的に動物の背に隠れてしまった。
すると動物から、楽しげに、どことなく優しい声が聞こえてきた。
少し怯えながら動物を見上げるドラゴン。
動物はやおら立ち上がると、再び真っ直ぐドラゴンを見つめて
「私は、メルト・ビットマン。みんなはメルって呼んでるよ。」そう言って微笑んだ。
木々の隙間から零れた光が少女を照らしだす。
森を駆け抜ける風が髪をなびかせる。
水のせせらぎの音が泉の周りを包み込む。
少女はドラゴンに向かってすっと、右手を差し出す。そして微笑みながら言う。
「私と一緒に行く?」
それは、ドラゴンが生まれて初めて与えられた優しさ。
ドラゴンが、鳴き叫びながら求め続けたもの。
ドラゴンが、諦めようとして諦めきれなかったもの。
ドラゴンが、彷徨いながら夢見たもの。
だからドラゴンは答える
真っ直ぐ少女を見つめ返しながら
「きゅぃ!」
「きゅぃぃーーー!」
目を開けると窓から朝日が見えた。
「きゅっ?」
見渡すとどこかの部屋だと分かった。壁には一枚の絵が飾ってある。
「きゅう」
もぞもぞとベットの上で動く気配がした。
視線をそちらに向けると黄金色の髪をした少女が眠気まなこでこちらを見ている。
「きゅうい?」
少女と見つめあう。
すると少女は
「おはようコドラぁ。」
そう言って柔らかく微笑んだ。
今日もいつもの日々が始まる。
精一杯の喜びと幸せを感じる日々が
コドラ編でしたぁ。産まれてからメルトに会うまでのコドラです。だからコドラは生後一年も経っていないかもしれません。最後の方はメルトとの出逢いのシーンです。一話目と二話目にあたります。次回はまたいつものダラダラに戻ります。ミーメル編もそろそろ書きたいですね。では、ご閲覧ありがとうございました。