第五章 金床神の地下王国 10
呑鉄竜が火床に手をかざすと蒼黒く大きな鱗がゴロンゴロンと数枚落ちた。
竜玉の炎で赤く輝き出した鱗を素早く引き抜いて鍛造する。
「金床・・・イプイス、小分けした分を引き上げろ」
「は、はい!」
「それとこっちの双龍には灰をかけておけ、グズグズするな!」
「ひぇぇぇぇ!」
2人はカンカンと小気味良い音をさせて鱗を折り重ね、引き伸ばし、手頃な鋼材の塊を作り出して行った。
手際の良さに見惚れているレントに呑鉄竜が声をかけた。
「我とヒパイストとの合作の剣をお前が手にすると言うのもある意味運命なのかも知れんな」
「運命か・・・もうその言葉は聞き飽きたな」
「誰だって運命に動かされてるさ、・・・いや、そうでもないか」
「そうだよ、運命ってのは自分で切り開く物で全てが与えられる物じゃないよ」
「いやいや、そう言う意味では無くてな、死ななくてもいいのに我の犠牲になった者の命に対して運命と言うのはちと酷な気がしてな」
「ああー、そっちか・・・ずいぶん殺っちゃったの?どのぐらい?」
「うーん、どうだろうなー・・・」
「千人?5千人?もしかして1万人ぐらい?」
「いやー・・・規模がそれぞれ違うから何とも言えんが、国が4つ分だなぁ」
座って話を聞いていたレントとルネアが飲んでた紅茶を吹き出した。
「ちょ、まてまて、呑鉄竜!いくらなんでもそれは話を盛りすぎだろう!」
「いや真面目な話なんだがな」
「いや、おかしい、おかしいってそれ!今は竜とは言え元はと言えば人間も同族だろう?殺すなよ!と言うかそんな話今まで聞いた事も・・・あ・・・あった」
確かにレントは3つの文明を滅亡させた竜の話を聞かされていた。
だが、その竜はすでに死んでいるし、竜の持つ黒い従魂はイリア村の泉にに全て注がれているハズだ。
この竜はどこからかその話を聞いて自分の事のように語るのが好きなのだろう。
「我も昔は散々殺されかけたしこっちも本気で国を滅亡させて居たからなぁ」
「まーた適当な嘘を・・・国を滅ぼすなんてホラ話でも言い過ぎだ」
「いやいや、パルマス、ネスカリカ、レムリア、そして我が従魂を注いだ地マグタス」
「マグタス?・・・ちょっと待て、・・・それってイリア村の事じゃねーか!いや、ちょっと待てよ。滅ぼした国は3つって聞いてたんだが追加したのかお前?」
「イリア村?マグタスは今はそう呼ばれているのか?」
「・・・呑鉄竜よ、もしお前の本当の名前を俺が言い当てる事が出来たら運命って物があると信じよう」
「名前?はははは、我には名前など掃いて捨てるほどあるわ」
「人として生まれた時の名前だ。お前・・・もしかしてブルースカイか?」
レントのその言葉にギクリとして呑鉄竜のハンマーが止まった。
ややあって再びハンマーを振り下ろしながらまじまじとレントを見つめた。
「レント・・・いやお前、もしやジークフリードなのか?」
「ないないない、それは無い。古いおとぎ話に出てくる英雄だが俺は違う」
「そうよのう。見目麗しいジークとは雲泥の差じゃからのう」
「口悪いなー、だけどその名前が出てくるって事はブルースカイって事だよなぁ」
「レントよ、我の名を誰から聞いた?」
「泉の底で泥が石になるほどの刻を過ごした後に俺の元へ来た従者だ。そう言えば分かるか?」
「わかる。・・・わかるよ!」
ブルースカイは両手で顔を覆って泣き出した。
「ケルベロス、良かった。やっとヘラクレス様に再会出来たんだね」




