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第五章 金床神の地下王国 8

 しばしレントに見入っていた呑鉄竜が惜しそうにつぶやいた。


「かつて人間だった頃、我は剣を鍛える仕事をしていた。なるほどその剣は名のある刀工がアルム鋼で鍛えた立派な物ではあるが・・・」

「何か不満でもあるのか?」

「剣としてのしなやかさが無い。例えばその剣でアルム鋼の塊に斬りつけたら剣の方が折れてしまうだろう」

「妙な事を言う竜だな。それは鋼の剣でも同じだろう?」

「そうだ、それが無垢鋼と言う物だ。だからこそお前は我には勝てぬ」

「それはやってみないと分からないな」


 そう言って剣を構えたレントに呑鉄竜が冷たく言い放った。


「我は呑鉄竜、あらゆる金属を好んで喰らう竜だ。とりわけアルム鋼を好む。そしてこの体は喰らった金属で出来ている。その8割方はアルム鋼だ。この意味が分かるか?」

「お前自身が巨大でしなやかな剣って事か」

「そうだ。そして無垢のアルム鋼の剣では我は斬れない。その剣は潰れず曲がらずいきなり折れ飛ぶ」

「ならお前と戦うのはやめておくか。俺としては未完成でも折れていない剣を持っていた方がマシだからな」

「フフフ、レントよ、お前面白いな」


 不思議と言葉を交わす呑鉄竜の目に敵意を感じない。

戦意を削がれたレントが双龍を鞘に納めながら問いかけた。


「呑鉄竜よ、この剣を折れなくする為にはどうすればいいか分かるか?」

「知れた事よ。鈍り鉄、鈍り鋼を背に練り込み鍛え直す。どうやらこの剣はその工程を踏む為に敢えて未完成の形になっているようだな」

「なぜそう思う?」

「ひと目見た時に思っていたが、この剣は背の部分の厚みが刃と変わらぬぐらいに薄い」

「重量を抑える為では無いのか?」

「違うな。巨人族のお前が本来持つべき厚身の剛剣とは程遠い。これは鈍り鋼を盛る必要がある」

「ふむ・・・イプイス、そうなのか?」


 振り向いて聞いたレントに対して両手と首を横に振って金床神が答える。


「知らん知らん。そんな工程など聞いた事もない」

「おいおい、お前ホントに鍛冶師の神様かよ!」

「クククク、お前たち本当に面白いな。どうだ、その剣を我に鍛え直させてくれぬか?」

「そりゃまぁ有り難い申し出だが竜に鉄槌は持てないだろう」

「その心配はいらぬ」


 そう言うと呑鉄竜は青い髪の女性へと姿を変えた。


「これでよし、後は鍛冶場だが・・・金床神よ、お前の工房を使わせてもらうぞ」

「え?私の工房をですか?」

「なんだ、何か不満でもあるのか?」

「いえいえいえいえ、とんでもない。大歓迎です」

「おっと、忘れるところだった」


 そう言うと呑鉄竜は手刀で炎竜の腹を斬り裂き、真っ赤に輝く宝玉を取り出した。


「それは・・・?」

「これは竜玉と言われる竜各々の能力の結晶だ」

「そんな物を何に使うんだ?」

「こいつの炎を使って剣を鍛えるのさ、思ったより小さい竜玉だが剣を2本ばかり鍛えるには充分だろう。炎竜の業火で鍛え上げた剣はまた格別だぞ」

「こんな奴の炎なんて使いたくないんだがなぁ」

「まぁそう言うな。竜玉に罪は無いさ。さぁ金床神、早くお前の工房に案内せよ」


言われたイプイスが泣きそうな顔でぼやいた。




「とんでもない事になっちまったなぁ・・・」


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