第五章 殺戮者の矜持 1
キュプ王国軍撤退からふた月後、ファウンランドの危機を救った報酬としてレントはイリア村及び周辺の支配権を与えられた。ハイネルド王が割譲と言う形で1国を与える申し出をレントが頑なに拒否した為の折衷案であった。イリア村は道路及び砦の建設増築、補強なども急ピッチで進められていった。
「小なりと言えど国の王として対等の立場でこれからも助け合って行きたかったんだがなぁ」
「そりゃ駄目だ。せっかくの有能な部下が意味もなく分裂、敵対する」
「何を馬鹿なことを・・・」
「少なくともルネアの影響力で猟犬は割れるぞ。それにハイネと俺との間で苦悩するクロロが率いる親衛隊が信頼できるか?」
「あ、いやそれは・・・」
「俺はお前の友だ。内外共に不動の王となるまでそんな事は出来ない」
「だがそれでは俺の気が済まないんだ」
「いつまでもって訳じゃないさ、しかるべき時が来たらテケシュ半島の城塞都市は俺が貰う。その時になったら独立国として互いに助け合う関係を築こうじゃないか」
「わかった。だがそれにはキュプ王国から奪い取る必要があるぞ?」
「当然そうなるさ。だがどっちにしろ同じだ、あそことは必ず雌雄を決する事になる」
「そりゃまぁいつかはそうなるかも知れないが・・・」
「だが今回の件で1つだけ心の底から感謝すべき事がある」
そう言うとレントは鞘から蒼光りする双剣を引き抜いた。僅かに形が違うが明らかに二路であった。
「かつて俺の居た鉱山から産出されるアルム鉱から、まさか二路を創り出せるとは思っても見なかった」
「ドワーフ族の鍛冶師が居たからこそだが、お前それよく持ってられるなぁ」
「ん?なにが?」
「何がじゃねーよ、金の2倍以上の重さの剣なんざ、常識的に持ってられねぇよ」
「ああ、それは問題ない」
「問題ないって・・・お前なぁ・・・」
「重さは手頃だし鋼の5倍以上の硬さってのは魅力的だよなぁ」
「手頃じゃない手頃じゃない。それ2本で500キロはあるぞ」
言い合う2人にクロロが近づいて膝をついた。
「王様、密偵が参りました。取り次ぎを願ってます」
「わかった、ここに通せ」
すぐさま軽装の若者が銀狼2人を伴って通されて来た。
「我が王に報告致します」
「よし、報告せよ」
「かのキュプ王国の君主ウルグァストは未だ自身をアモン王と名乗りテケシュ半島の城塞都市に於いて多数の兵の集結及び調練を行っております。また帰国したイルケルを投獄した事が確認されました」
レントとハイネルドが顔を見合わせてやっぱりなと言う風に頭を振った。
居合わせた者たち総てが同じような反応を見せた。
「クロロ、シューカに伝えてやれ。帰ってたら殺されてただろうとな」
「御意」
一礼し、即座に退室するクロロを横目に見ながらハイネルドが密偵に聞いた。
「攻め込んで来るとすれば、あとどのぐらいだ?」
「おそらく2週間以内には攻め込んで来るかと思われます」
「砦の建設増築を急ピッチでやっておいて良かったな。兵力には圧倒的な差があるが城攻めは兵士が5倍は必要と言われている。泥沼の戦力維持と消耗戦、身を以て教えてやろう」
「それと・・・」
「まだ何かあるのか?」
「はっ、軍船も多数集結しており、そちらはファウンランド本国に向けて出陣するものと思われます」
「なるほど沿岸部の広い地域から攻められると厄介だな、・・・ん?レントお前どこ行くんだ?」
ハイネルドは無言で立ち去ろうとするレントに声をかけた。
「いや、取り敢えずアレだ。俺は首を斬り落とさないと死なないと思うから行ってくる」
「行くってオイまさか・・・」
「ん?当然あの殺し損ねたアモンって王を斬り刻んでくる」
「行くってオイ!ピクニック気分かよ」
「あのアモンってやつも気に入らないが、何よりもこの村もサンドラもつまらない戦争に巻き込みたくないんだ」
「あいつ一人殺して済む話じゃないぞ」
「そうかも知れない、だがそうじゃないかも知れない」
「レント・・・なんでお前はそうなんだよ」
「うーん・・・多分あれだ。今まで散々人を斬り殺して来たからさ、斬らずに済む奴は平穏に暮らして欲しいんだよ。僕はさ、この先何人斬ったって罪深さは変わらないからなぁ」
そのまま立ち去ろうとしたレントが足を止めて振り返った。
「悪いけどサンドラやリンダには黙っててくれよルネア」
柱の影からモヤのように姿を現したルネアが頷いて言った。
「わかりました。その代わりレント様の仕業、ルネアでは無く猟犬のケルベロスとして見届けさせていただきます」
「手助けは要らないからな」
「もちろんです」




