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第五章 将の器 10

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本当は感想が1番嬉しいです。


でもつまらなかったら無理して付けなくて大丈夫です(´;ω;`)ぴえん

 我先にと兵たちが逃げ出す中でシューカもまた王の元へと駆け出そうとした、それを黒いタール状の液体を吐き出しながらレントが押さえつける。


「お前はダメだ。お前の部下達もな」

「な、なぜそんな!王は正気を取り戻されて戦は回避されたのですよ」

「それとこれとは別さ、お前たちは『俺の』捕虜だ」


 そのやり取りに気付いたウルグァスト王が立ち止まって咎めるようにレントを見た。

苦しそうに立ち上がりながらレントもまたウルグァスト王を睨みつけた。


「ウルグァスト王よ、不服があるなら今からでも遅くはない。戦り合おうじゃないか」

「や、やり合う・・・だと?理不尽な理屈を通した挙句、最後は力づくか?」


 ウルグァスト王の言葉にレントが一瞬黙り込んだ。

的を得た指摘を受けたからではない。むしろその真逆だった。

明確な殺意を周囲に撒き散らしながらレントが低い声で言い放った。


「・・・おい、布告なしの侵略を仕掛けておいて言う事はそれだけか?」

「あ、いやそれは・・・余は操られていたに過ぎんのだ。アモンと言う魔導師こそが・・・」

「死にたくなかったら黙れ。これ以上何か言ったら確実におまえを殺す。最初にお前の顔を見た時と今のお前の顔は何も変わっていない」


 捨て台詞も言えずに苦い顔をして踵を返すウルグァスト王に更にレントが宣言した。


「撤退の際に間違っても略奪はするな。確認報告が入ったら玉座までお前の首を奪りに行くぞ」


 これ以上大胆な言葉もない。

単独で首都、王城まで攻め込んで首を奪るなど酔漢のたわごとと同じで出来る訳がない。

そう、普通ならば絶対に出来ない。だがその場に居た誰もがこの男なら単独で乗り込んで来るだろうと確信していた。結果として首が奪れるとか奪れないと言うのはまた別の話だ。


キュプ王国軍が撤退し見えなくなった頃にやっとレントの体に精霊が戻り始めた。

その様子を目の当たりにし、怯え切って青くなった顔のシューカに問いかけた。


「シューカ、離脱した部下の中で1番王が目をかけていたのはお前か?」

「い、いえ、イルケルと言う若者です」

「そいつは自国に戻ると思うか?」

「王が正気に戻ったと聞けば戻るでしょう」

「間違いないか?」

「間違いございません」

「ならイルケルとやらが国に戻って3ヶ月・・・いや、半年後にお前を国に戻してやる。何事もなかったらの話だがな」

「何事も?再度戦を仕向けてくるとでも言うのですか?」


 その言葉にレントが呆れたように言った。


「そう言う意味じゃない。イルケルと言う若者の身に何もなければって意味だ」


 シューカの背中にドッと冷や汗が流れた。

その危険など全く考えてはいなかった。だが可能性が無い訳ではない。

シューカ自身、王と共に自国に帰っていたら処刑されて居たかも知れない。

ヒザが震えて倒れるように座り込んだシューカに笑顔でレントが言った。


「まぁそれまでは築城とか使役をやってもらうぞ。あいつはいつ攻めて来てもおかしくないからな」

「は、はぁ・・・まぁ捕虜ですからやりますが、来ますかね?」

「まぁ先生も居なくなっちゃったし村長代理としてはやらなきゃなぁ」


 王の軍が撤退するのを見届けてスピカはすでにハンニバルの手を取ってかき消すように去っていた。

裂けた胸当てを手にしたサンドラがリンダとルネアを伴ってレントの元にやって来た。


「いま試してみたらこの胸当て、裂け目がスピカ母さんに繋がってるみたいね」

「何か通しても通過しない?」

「ええ、だから緊急の時は手紙を通せばきっと届く筈だわ」

「じゃあ大事に取って置かなくちゃな」

「それにしても父上が居なくなって大丈夫かしら?長老たちが不満を訴えなければ良いんだけど」

「不満?漏らした時点で重労働でもさせるようにしようか?」

「私は不満が出ないように努力するって言葉が聞きたかったわ。暴君みたいな事はしないでね」

「しないしない。ちょっと言ってみただけだよ」


 シューカを含めたその場に居る全員がレントなら本当にやりそうだと思った。



 揺られる馬車の中でウルグァスト王の目が険悪に光っている。

あれから丸一日が経ち、既に治癒魔法によって腕のほとんどが再生されていた。


「・・・この馬車はどこに向かって居るのだ?」

「どこと言われましても・・・キュプ本国の王都に向かっております」

「行く先は城塞都市だ」

「な?・・・撤退するのではないのですか?」

「いや、撤退などせぬ。今ならスピカもハンニバルも居ない。軍を再編成して不意を突くべきだ」

「ですが・・・お約束され・・・」

「約束だと?甘いな。余なら是が非でも首を斬り落として居るだろう。つまり奴らは勝機を逃したのだ。天は余にこの大陸を治めよと言っているのだ」


 馬車の中に居合わせた者達はこの男はもうかつての王ではない。王の器ではないと思ったが顔に出さないように努めた。気取られたら待っているのは残忍な処罰だ。


「それと余は今後もアモンと名乗る事とする。コロコロと名前を変えては国民も戸惑うだろうからな」




馬車は東に進路を変え、城塞都市へと向かった。

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