第五章 将の器 7
スピカは自ら放り投げたスプーンを拾い上げるとゆで卵の殻でも壊すようにコンコンとアモンに取り憑かれていたウルグァスト王の頭を叩いた。
「はいオッケー、治癒師は居るか?腕を治してやれ」
スピカの言葉に治癒師や魔法使いが慌てて王の元へと駆けつけた。
虚ろな目を開いたアモンがぼそぼそと呟き、兵たちが耳を近づけてそれを聞いた。
「余は生きているのか?ここは地獄の闇の中なのか?」
「いいや、どちらでもない。ウルグァスト王よ、地獄よりも始末の悪いこの世界へようこそ」
おどけて笑いかけたスピカに恐怖の表情を浮かべて王が後ずさった。
「スピにゃん、そいつ・・・まだ中に居るんじゃないのか?」
「いや、アモンは完全に抜け出してる。髪の毛1本ほども繋がっては・・・」
言いかけてスピカが酷薄な顔になった。
「ああそうか、アモンだった時の記憶があるのか・・・まいったな」
スピカの言葉と表情に反応してウルグァスト王が震えながら身をよじって逃れるように後ろへ下がった。
「余は、余は知らぬ。誰かこの女を捕えよ!いや、斬れ、斬って捨てよ!」
この言葉に反応したレントとハンニバルが王の首を斬り飛ばそうと足を踏み出しかけた。
元々王の首を刎ねる為に来たようなものなのだから、そこに躊躇いは無い。
気配を察したスピカがそれを手で制した。
立ち止まるハンニバルとは逆にレントが加速して飛び出した。
スピカの横をすり抜け、治療に当たっていた治癒師を蹴り飛ばすと後ろに大きく振りかぶって剣を円月に摺り上げた。
レントの剣が王の首を斬り飛ばす刹那、数本の石柱が地面から突き出して打ち込んだ剣が折れ飛んだ。
更に隙間から剣を差し込んで首を突くも、新たに突き出た石柱に阻まれて今度は剣が根元まで砕け散った。
「うあああああ!おおおおおお!!」
レントが雄叫びをあげて石柱を殴って打ち砕く。
手を伸ばして掴みかかろうとするレントが首元を掴まれて後ろに引っ張られた。
「はいはいレント君。冷静になろうか」
「邪魔しないで下さい」
そう言ってレントが乱暴に振りほどこうとして上げた手をスピカが掴んだ。
そして手をそのまま自分の胸に押し当てる。
「な?・・・ちょっ、ま?」
「どう?落ち着いた?」
「お、落ち着くもなにも・・・ちょっと・・・」
「男ってダメよねぇ。ハンきゅんも同じ事されて戦意を喪失しちゃったもんねぇ」
「あーもー、やめますから手を離して下さい」
スピカが手を離すと憮然としてレントがその場にどかりと座り込んだ。
「さっき参ったなって言ったのは精神が同化したって意味でしょう?殺した方が後々面倒が無くていいのに」
「あら、気付いてたの?」
「気付きますよ。それに斬り捨てろと言った以上殺すのが1番の対処法でしょう」
「呆れた・・・あんた本っ当にハンきゅんの弟子だわね」




