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第一章 (4)猛将の進撃 其の4

 ドルテを背負って走っているサリティの耳にも、その音は聞こえた。


「おい婆さん、今でかい音がしたけどあれもあの女がやったのかよ?」

「他に居らんじゃろが、広場の方じゃ、ほれ、急がんかい!」

「急げって言われても・・・お?おおお?」


 道路脇に停めてある配達用の自転車に目を留めたサリティが、鍵を蹴り壊してドルテを背負ったまま飛び乗った。


「おっしゃあ!飛ばして行くぜ、落ちるなよ婆さん!」


 そう言うなり通りを走り抜けていった。

サリティが見えなくなった頃に雑貨屋の若者が店から出てきた。

周囲を見回すと近くの人達が呆れたように肩を竦めたり頭を振ったりした。

足元に転がっている鍵に気が付いた若者が空を仰いだ。


 一方広場ではフェイの怒りが猛威を振るっていた。


「・・・オマエ・・・か?」


 広場に倒れている若者の1人の肩に足を置いてフェイが問いかけた。


「レントを殺そうとしたのはお前か?」


 恐怖で口も利けない若者の肩を踏み砕いて横を向く。


「オマエなのか?」


 返事を待たずに足を踏み砕いた。

「まさかとは思うが・・・」


 言いながら次々と若者たちの手足を踏み砕いて行く。


「私のレントを・・・」


 誰も動けず、逃げられない。怪我のせいでは無い。

蛇に睨まれたカエルのように恐怖で動けないのだ。


「私のレントを殺したのでは無いだろうな?」


 言いながら蹴り飛ばした若者が窓を突き破って民家に消えた。


「もしそうなら・・・・お前たち全員・・・・」


 そう言いながら倒れている若者の頭に足を置いた。

その時やっとフェイは気が付いた。

若者たちが1つの方向を指差して居ることに。

そしてフェイは見た。

返り血で赤くなっているレントと包丁とナイフを持っているシユケを。

フェイは槍を拾い上げると疾風のように駆け出した。


「ウォォォオオオオオ!シユケェェェェェェエエエエエ!!」


 叫びながら駆けてくる姿がレントとシユケに見えた。


「シユケ、何かヤバくない?」

「フェイの奴、何か勘違いしてるみたいだが・・・疑いを晴らす前に勢いで殺されそうな気がする。」

「勢い余って僕まで巻き込まれそうな気がする。」

「ダメだ。僕は逃げるぞ。」

「逃げるって・・・どこに?」

「どこって・・・フェイの家に逃げよう。」

「そうだね、うんそうしよう。」


 言うなり2人は全力で走り出した。


「レント、何で君まで一緒に逃げるんだよ。君と一緒に居たら限りなく高確率で僕の危険度が上がるだろうが。」

「いや、そうは言うけど僕もあの状態のフェイは怖いよぉ。」

「大丈夫だ。君はフェイのいとしのダーリンなんだから多分殺される事はない。うん、多分大丈夫だ。」

「多分ってなんだよ。そんなバクチみたいな・・・あれ?サリティ?」


 走る2人の前にドルテを背負ったサリティが自転車でやって来た。


「サリティ、乗せてくれ!」


 言うが早いか荷台に飛び乗った。


「訳は後だ、ハンニバル先生の所へ急いでくれ!」

「よ、よし、わかった。」


 いつの間にか、ちゃっかりシユケも前カゴにしがみついて居る。

ペダルを一生懸命踏みながらサリティがレントに声を掛けた。


「それであの女、フェイはどうしたんだよ?会えなかったのか?」


 黙り込んで居る2人にサリティが更に聞いた。


「おい、どうしたんだよレント?」

「会えなかった・・・怖くて・・・サリティ、後ろ見てみなよ。」


 言われて何気なく後ろを見たサリティの顔から血の気が引いた。

軍神のような勢いで槍を横一文字に構えたフェイが追って来ているのだ。

しかもぐんぐんと距離を縮めて来ている。

サリティはペダルを踏む足を速めた。頭の中で何かがヤバイと叫んでいる。全力で通りを走り抜ける。


「あー!それ!!俺の自転車!!」


 食品雑貨を抱えた若者がサリティ達を追いかけてきた。


「返せよ、俺の自転車!おい、止まれってば!!」

「何だよサリティ、この自転車盗んだのか?」

「うるせーな、緊急措置ってやつだよ。気に入らなきゃ降りろよ!」

「いやいや、文句なんてとんでもない。盗難自転車大いに結構。いよ、憎いよこの自転車泥棒!」

「ケンカ売ってんのかコラ!」


 前カゴにしがみついて後ろ向きになっているシユケが叫んだ。


「いいから早く走ってくれ!フェイが近付いて来てる!!」


 追いかけている若者にフッと影が差した。

底冷えのするような目をしたフェイである。


「ジャマだ・・・」


 言うなり槍を横に薙いで若者を打ち飛ばした。

若者は飛ばされた先の川に落ちて水柱が立った。

レントたちの頭にクッキーやリンゴが落ちて来た。


「おい、お前・・・シユケだっけ?後ろ見てたんだろ?何があった?」

「・・・知らない方がいい。」

「まぁいいや、とにかく後で自転車を返さねーとな。」

「返しても当分乗れないと思うがな・・・」

自転車は大通りを抜けて路地を抜けて・・・


「よおし、見えてきた。このまま玄関横まで突っ込むぞ!」


 ニワトリや犬を蹴散らして玄関横へ乗り入れる。

同時に全員が飛び降りて家の中へと駆け込みドアを閉めた。

ハンニバルや村人たちが呆気に取られている中、ぐったりと座り込んでレントたちは安堵のため息をついた。

レントの顔を見た村人たちが一斉に騒ぎはじめた。


「村長、こいつです!こいつが若者たちを次々と・・・」

「こんな奴追っ払って下さい。」

「何なら我々がつまみ出して・・・・・うわぁ!!」


 大きな音を立てて飛ばされて来た玄関のドアが村人に激突した。

フェイがゆっくりと入って来た。

全員が押し黙った。

フェイの体から浮き出た精霊がドアの残骸をベッと吐き出した。

村人たちは壁伝いに玄関ににじり寄ると一目散に逃げ出していった。

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