第五章 将の器 2
初めは雑然と夥しい兵馬が立ち並ぶだけだった。だがやがて盾を持った鎧兵が隊列を組む姿が見受けられ、先を進むにつれ整然たる陣形へと変わって行った。もはやシューカが道を開けさせる必要もない。
王は間違いなくこの3人の行動を知っている。その上で待ち構えている。
「やはりさっきのカラスだろうな」
「ですね。先生」
それまで淡々と進んでいたハンニバルが馬を止め、次いでレントも前を見て唖然とした。
2人とも信じられない思いだった。
布張り革張りの帷幕ではなく、石壁造りの館が建っていた。
組み立て式の資材を運搬して設置したとしても並大抵ではない。
そして階段の上、広間中央の玉座にアモン王が腰掛けていた。
ハンニバルはシューカに馬上に居るように告げるとレントと共に馬から降りた。
禿頭に鷲鼻の色浅黒い偉丈夫の男、アモンが玉座で片肘をついたまま鋭い眼光を2人に向けた。
2人もまたアモンと言う男の姿を頭に刻みつけた。
「余がキュプ王国国王アモンである。跪け」
「我こそは精霊の騎士の長、剣聖ハンニバルである。お主こそ跪け」
ハンニバルもまた自信に満ちた堂々たる態度で言い返す。
片眉を吊り上げたアモンが指を動かしかけてビクリと止めた。
視線の先にレントが立っていた。アモンの背筋に冷たいものが走った。
(この若者はいったい何者だ?この体中から溢れる魔力はいったいどういう事だ?これほどの魔力を持った者がなぜここに居る?)
心の動揺を悟られまいとしてアモンが態度を和らげた。
「ははははは、我が軍の威容を見て怯えもせぬかよ。気に入らんな」
「怯える理由がない。それは命が惜しい者の発想だな」
「それは余の事を皮肉っているのか?」
「どうとでも捉えていただいて結構」
しばし睨み合い、やがてアモンが投げやりに言った。
「それで用件はなんだ?降伏するのか?和睦したいのか?どっちだ?」
ハンニバルはその問いには答えず、振り返る事なく馬上のシューカに声をかけた。
「・・・シューカ、お前は先に村に戻ってろ」
「え?いや、しかし・・・」
「いいから早く行け。モタモタしてると殺すぞ!」
ハンニバルの殺気に怯えた馬がいなないて向きを変えた。
尚も言い募ろうとするシューカに低く殺気立った声でレントが言った。
「先生に同じ事を何度も言わせるな。失せろ」
レントの体中から滲み出す魔力と殺気に気圧されて躊躇いながらもシューカが馬を走らせた。
ハンニバル達を乗せてきた2頭もこれに続いた。
恐怖で目が飛び出しそうに膨らみ、口から泡を吐きながら馬が全力で駆け出した。
遮る者は誰ひとりとして居なかった。アモンですら息を飲んで馬が走り去るのを見つめていた。
やがてハンニバルの太い溜め息でその場に居た者たちがハッと我に帰った。
「おい、クソ魔法使い。お前この俺に降伏するのかと聞いたな。誰が誰に向かって口を利いてるつもりだ?」
「き、貴様!無礼であろう」
言いざま剣を引き抜こうとした騎士の口をレントの二路が差し貫いた。
そのまま躊躇いもなくスライドさせて口から上を斬り飛ばした。誰も止める間も無かった。
血を噴き出して即死した騎士を横目で見ながらアモンがハンニバルに対して頭を下げた。
「戦鬼殿に対して無礼であった」
「・・・まだ言う事があるだろう」
訝しげな顔をしたアモンにハンニバルがぴしゃりと言った。
「さっきお前は俺に攻撃魔法をかけようとしたな」
ビクリとしたアモンが重ねて詫びた。
「よ、余の無礼を許して欲しい」
「ふぅ、・・・分かれば良い」
百万の軍勢を率いる王が折れた。このやりとりで場の力関係が完全にひっくり返されたと言ってもいい。
「所でそこの若者は魔法使いかね?それとも・・・魔導師かね?」
「いや、あなたも身のこなしを見たでしょう。彼はただの剣士です」
「う、嘘を言うな。どんなに偽ってもその滲み出る魔力は隠し通せるもんじゃない」
「私も嘘であって欲しいですよ。なぁレント?」
レントと言う名前にアモンがハッとした。
(そうか、この若者がレントか。・・・なるほど宿替え憑依するには最高の素材と言えるな)
心の内でほくそ笑むアモンにハンニバルが切り出した。
「それでは話し合いに入ろうか」




