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第五章 砦の王 2

 日が傾き始めていた。

レントとハイネルド王、そして身近な者達と少数の護衛だけで侵攻軍の拠点へと再び足を運んでいた。

既に軍勢の姿は無く、取り残された帷幕や資材が散乱していた。


「なんだかなー、血気盛んな連中が突っ込んでくるのを期待してたんだけど・・・」

「全然来ないどころか本当に撤退してるとはな・・・」

「まぁ本当に撤退してるかどうかはこれから確かめるさ」


 そう言ってレントが遠くまで意識を張り巡らせ呪文を唱えようとしたその時、リンダが叫んだ。


「うっそ、なにこれ信じらんない!ちょっとみんな来てよ!」


 促されてレント達が目にしたのは魔法陣にぎっしりと呪文の書かれた敷物だった。


「なんだよリンダ、ただの敷物じゃないか。」

「いや待てよレント、これは・・・ポケビーだ」

「・・・え?いやちょっと待てよハイネ、そんなもんこんな所にあるわけ・・・・ポケビーだ」


 居合わせた者たちが無言になったのを見てサンドラがレントに聞いた。


「えっと・・・ポケビーって何?」

「・・・オモチャだ。王都で爆発的に流行した挙句に発売禁止になった子供のオモチャなんだ」


 呆れてそれ以上言葉の出ないレントに代わってリンダが説明を始めた。


「正式名称はポケットビーストカードって言うんだけど思念魔法で単純に魔力を送ればカードに封印された状態で低級な魔物を呼び出して一定期間飼う事が出来るって言うオモチャでね」

「こいつが販売禁止に追い込んだ」


 ハイネルドがレントを指差して言った。それに対して苦し紛れにレントが反論する。


「ハ、ハハハイネルド、俺のせいにするなよ。公式試合をお前がすっぽかしたからだろうが!」

「仕方ねぇだろう!称号の授与式をすっぽかしてカードゲーム大会に出る王子が居るか!」

「えーと・・・リンダさんが説明してくれるかしら?」


 このカードって簡略な召喚魔法陣が描かれていて両手の親指と人差し指を四隅のポイントに置いて魔力を送り込むだけで中央のガラス質の枠の中に魔物を封印された状態で呼び出すことができるのよ。

大体10日ほどで封印が解けて中から居なくなると言う子供用のおもちゃなんだけど時々出るレアな魔物を保存したままにしたければ定期的に封印が解けないように魔力を注入するの。もちろん有料でね。

んで、お互いのカードを別売りのゲームボードに置くと魔物同士を戦わせる事が出来るの。

ハイネはこのゲームが大好きで大会にエントリーしてたんだけど予想外に勝ち進んで大事な用のある日にまで試合が食い込んじゃったってワケ。

で、このゲームで一度も遊んだ事のないレントに代理出場させたんだけど・・・


「させたんだけど・・・なに?」

「大概はツノウサギとかの低レベルな魔物召喚しかできなくて、どんなにレアと言われてもせいぜい出てもブルーアンデッドぐらいの物なんだけど・・・レントは4枚の黒い翼を持った悪魔を召喚してしまったの。しかも未分類のめっちゃヤバイ奴をね。」


 聞かされたサンドラが無言になった。

居合わせた者たちも青ざめて呆然とレントを見つめた。

ボソリと誰かがシャレにならねぇと呟いた。


「しかもタチの悪い事に通常だと枠の封印から外に出る事は絶対に無いと言われていたポケビーカードの封印を破ってその悪魔が出そうになったのよ」

「なによそれ、最悪じゃない」

「具現化の途中で居合わせた召喚師や魔導師達が結界封印して召喚を取り消した事でなんとかなったんだけどね。あれを封印出来る人が誰も居ない学校でやってたら具現化した悪魔に王国が壊滅的な被害を被ったかもしれない」

「そりゃ発売中止にもなるわね」

「で、この敷物を見て欲しいんだけどポケビーカードとほぼ同じ作りなの。違うのは大きさと具現可能な処置が取られてる事、後は契約を結ぶ箇所ね」

「オモチャを武器にしちゃったって事?」

「そう。魔力さえあれば誰でも魔物を召喚契約する事が出来る恐ろしいオモチャよ」


 ひと通りの話を聞いて難しい顔をしているサンドラにリンダが訝しそうな顔をした。


「サンドラさんどうしたの?」

「え?・・・うん、私は例の魔法を使うレントしか知らないからそんな強大な魔力があるとか、にわかには信じられなくて」

「だったらいい機会だからレントに今やってもらいましょうよ。幸いここには召喚師も魔導師も居るしちょうどいいわ。レントもいいでしょ?」

「えええええ?いきなりそんな・・・」

「いいじゃないの。さぁこっちに来て敷物の上に両手と膝をついてちょうだい」


 促されるままに手足をついたレントが不安そうにリンダに問いかけた。


「これで、どうすればいいの?」

「意識をその魔法陣に集中して知っている魔物や魔族の名前を言って。そうすれば魔力の高さ次第で召喚に応じてくれるわ」

「応じてくれるって言われても魔物の名前なんか全然知らないよ。だいたい唯一面識があるのってアマイモモって言う名前の・・・」


 レントが言い終わらぬうちに敷物を中心として黒々とした渦が生じた。稲光を放ちながら空まで伸びた渦の中に7翼の翼を持ち、4本の腕に漆黒の剣を持った巨大な悪魔が居た。頭上には赤と白の光輪が輝いている。

カルビが悲鳴を上げるように叫んだ。


「我が王!なんでよりにもよって旦那様を召喚したんですか!」

「え?いや、違う!魔法陣に意識なんか集中してなかったし、つい名前を言っただけで・・・」

「なんということをしてくれたんですかぁ・・・」

「いや、カルビ、すまん」


 すまんどころの話ではなかった。

リンダやサンドラは恐怖で凍りつき、兵士や召喚師の中には気絶したり失禁する者まで居た。


「我を召喚せし者よ。汝の望みを言え」


 神々しくさえあるアマイモモの問いかけに答えるべきか、レントはそばに居る召喚師たちに顔を向けた。


「お前たち、アレを封印できるか?」

「無理無理無理無理!絶対無理です!!」


 答えた召喚師は既に半狂乱になり失禁していた。

更に地中から這い上がって逃げ出すキュプ王国軍兵士たちをレントが視界の端に捉えた。

その数およそ2千、隙を見て襲いかかるべく穴を掘って隠れていたのだろう。

レントは意識を20キロほどまで伸ばして東天紅を唱えた。

果たして、かすかに鶏の鳴く声が聞こえて来た。

意を決したレントが大悪魔アマイモモに奏上した。


「我がファウンランドに害を成そうとするキュプ王国軍を滅ぼしていただきたい。周囲は20キロ、逃げる者はその限りにあらず。伏してお願い致します。」


 青黒い息を吐きながらアマイモモがそれに応じた。聞く者の心を恐怖で凍らせるその声で言い放つ。




「承知した。我と汝の仲だ、契約も見返りも要らん」


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