第五章 砦の王 1
村に戻って来たレントを驚かせる光景が広がっていた。
かつての村の面影は無く、そこには堅牢な砦があった。
飛行艇をバラして作られた枠型に土砂を詰め込み石組みで補強された高い壁、村の中には同じく飛行艇外装を張って作られた簡易テントがあった。
「おいクロロ・・・これは凄いな。半日で村一つを砦にしちまうのか」
「何言ってんですか団長、今どきこのぐらいの事が出来ない兵は我が国には居ませんよ」
「そ、そうか・・・それにしても大したもんだ」
ひとしきり感心しているレントにハイネルドが駆けつけてきた。
「レント聞いたぞ。すげえなおい、30万もの軍勢を蹴散らしてきたそうじゃないか」
「まぁカルビと旅団員が立てた手柄だ。俺はさっさと帰れって言っただけだよ」
「謙遜するなよ。お前が巨人のハンマーを振るって屈強な兵を打ち倒した報告は受けてる」
「そんな事より戦況戦略はどうなってる?」
レントの言葉にハイネルドがふっと顔を曇らせた。
「実は本国の方にも侵攻軍が迫ってるらしい。規模はおよそ50万だそうだ」
「こっちと合わせて80万か。ずいぶんと本腰を入れて侵攻してきたな」
「我がファウンランドも国境の守りに50万ほど詰めては居るがこちらの支援に割ける様な人員は無い」
「人員が居てもここに来るまでに全滅すんだろうがよ」
「まぁそりゃそうだ」
「持ち駒は2万5千の兵とこの村に居る精霊の騎士、まぁ約千人と言ったところか」
「救援を待つなら余裕だが援軍のアテも無しじゃキツイな」
「キュプ王国との国土、国力の差は?」
「国土で約4倍、国力は7~8倍はあるだろうな」
「なるほど・・・よし、降伏しちまえ」
「ば、ばばばばば、馬鹿野郎!!そんな事出来る訳無えだろうが!」
本気で怒り出したハイネルドを横目で見て笑いながら呟いた。
「ま、そりゃそうだよなぁ。とりあえず引き上げる部隊もあるだろうからこちらからの攻撃は控えるか?」
「それまでに侵攻してきた兵団にだけ対応する感じで行くか。敵兵は少しでも少ない方がいいからな」
「さてと・・・それじゃあ俺は用があるから少し行ってくる」
「用?・・・ああ、そういう事か。うんうん早くサンドラの所に行ってやれよ」
「そっちじゃない。死んじまった顔見知りの女の子を弔いに行くのさ」
「それってもしかしてあの子か?」
ハイネルドの指さした先に炊き出しと配給で忙しそうに働いている例の少女が居た。
シユケが小突かれてアゴで使われている。それを見た瞬間レントの頭の中が真っ白になった。
道をあけろと叫びながら人垣を押しのけてレントが少女の許へと駆けていった。
「あらレントさん。帰ってきたん・・・」
言い終わらぬうちにレントが少女を抱きしめた。
「生きてた。良かった。本当に良かった」
「ち、ちょっと?レントさん?人前でそんな・・・サンドラさんだって見てますよ」
ハッとして冷静さを取り戻したレントに怒気を孕んだ低い声でサンドラが言った。
「レント・・・あなたって人はもう浮気を始めるのかしら?」
「え?あ、いや・・・そうじゃなくて・・・」
「レントさんの事は好きだけど私まだ子供だからあと5年待ってね」
「ちがうちがう。勘違いするな」
「レントの浮気者、幼女性愛者!」
「ちが、ちがううううう!」
この少女が前世でレントの血縁者だった事を、遠巻きに見ていたカルビが直感として気付いていた。
「まぁ我が王にわざわざ言う事でもないわね。・・・それにしても一国の危機だって言うのにこの緊張感の無さといったらないわ」
サンドラとレントの追いかけっこを眺めながらカルビが半ば呆れて呟いた。




