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第五章 人にあらざる者 3

 疲れ果ててぐったりと座り込んでいた鍛冶師が同じように座り込んでいる騎馬管理官に言った。

「王様の命令とは言え尋常じゃねえな。鉄鎖で兵士の身体を騎馬に繋ぎ留めたら逃げるどころか身動きも取れねぇだろうによ」

「仮に馬から降りたとしてもあの重装備じゃ自力で走る事も出来ないよ」

「それって・・・」

「馬と一蓮托生ってやつだな。落馬したら死ぬ。馬が倒れたら死ぬ。よってたかってなぶり殺されるって事だ」

「ちょっと待てよ。じゃああいつらそれを承知であの悪魔に乗った旅団長に付いて行ったのかよ?」

「命がいくつあっても足りんが全員笑ってやがったな。ありゃ死なないと思ってるんじゃない。死んでも構わないって顔だ」

「そんな奴らが30万の敵軍に突っ込んで行くのか・・・ただ殺される為だけに」

「行く方も行く方だがそれを許す王様も王様だ。犬死にじゃないか」


 通りかかったマルコスが2人の話に割り込んだ。


「お前たち、それは違うぞ。王様は彼らが犬死にするなどとは露ほども思ってはいない」

「マルコス様、じゃあ王様はどう思っていなさるんで?」

「決まってるじゃないか。出陣する以上敵を敗走させる以外に何がある?」


 言われた2人がきょとんと顔を見合わせた。



一方のキュプ王国軍もまた予想もしなかった自軍殲滅の報告に浮き足立っていた。

幕舎で緊急の軍事会議が開かれ、善後策の協議が行われていた。


「先遣隊の1万の兵が全滅だと?たわけたことを言うな。」

「間違いのない確かな報告だ。紫色の光が村から発射された直後に部隊の居た場所が蒸発したそうだ」

「蒸発・・・だと?」

「ああ、火柱はここからも確認出来ただろう。あれで全滅だそうだ」

「・・・遺物だろうな。やっかいな事だ」

「ウルグァスト王になんと報告すればよいのだ」

「王は昨日より御名をアモンと号された。その名前を言ったのが知れたらただでは済まんぞ」

「アモン?なんでまた?」

「スピカ師からの御神託らしい。王はスピカ師を崇めて居られるからな」

「高々魔導師風情が王に名を変えさせるなどおこがましい」

「ともかく小さな村1つに手こずっていてはこの先が思いやられるわい。」

「そうだな。わしらが出向いて陛下の威光を示さねばならぬ。」

「ではまずワシが2万の軍を率いて・・・何だ?外が騒がしいぞ。衛兵、静めて来い!」


 幔幕に向かった兵士が立ち止まり、そして後ろに下がって片膝をついた。


「どうした?なぜ行かん?」

「いえ、それがその・・・」


 言いよどむ兵士の膝が震え、顔からは血の気が引いていた。

やがて幕舎を覆うほどの大きな影が差した。影は手を大きく上げて、振り下ろすと同時に幕舎を打ち壊した。

日の光の中、キュプ王国軍の幹部は3つの頭を持つ巨大で禍々しい魔族を、そして暗緑色の鎧を着た小柄な騎士を目の当たりにした。片膝をついた兵士は下を向いたまま震えていた。


「き、貴様は誰だ?誰の許可を得てここに来た?」


 幹部の1人が怒鳴るとレントはゆっくりと周囲を見渡した。

レントの後ろには兵士が退き、または切り伏せられて倒れている大きな道が数百メートルに渡って出来ていた。

幕舎を取り囲む兵士は10万を下る事はないだろう。

しかし兵士の誰1人として斬りかかる事も咎める事も出来ずにいた。

恐れ、逃げ惑い、またはただ呆然としているだけだった。


「許可か・・・」


 そう言うとレントは兜のひさしを上げて咎め立てた男に詰め寄った。

二路を引き抜くと同時にその男の両腕を下から斬り飛ばした。

無言のまま二路を鞘に納めると呆然としている男を蹴り上げた。鎧が紙屑のようにひしゃげて男はその場に崩れ落ちた。血だまりが広がって行く。即死であった。


「お前たちこそ誰の許可を得て宣戦の布告も無く村に攻め入ったのだ?」


 レントの問いに答える者は無かった。

その時ケルベロスが怒りのこもった声で叫んだ。


「我が王の問いに答えぬか下郎ども!!」


 空気を震わせるほどの威圧のこもった声に、目の前の軍幹部はおろか何人もの兵士がその場でへなへなと座り込んだ。歩を進めるレントの前に数人の革鎧を着た兵士が立ち塞がる。見上げるような巨体、広い肩幅、彫りの深い顔、紛れもなく巨人族であった。なるほど持って生まれた肉体は何もしなくても兵士の5人やそこらなど造作もなく叩き伏せる事が出来るだろう。だが胸板も筋肉も薄い。


「慢心したか?明らかに鍛錬不足だな」


 言い終わる間も無く巨人の1人が鉄の大ハンマーを振り下ろしてきた。

遅すぎる力任せの緩慢な攻撃。

軽くかわして避けたレントの心に同族嫌悪とも言える感情が湧き上がった。

巨人族に共通した欠点と言うものがある。

幼少期ににして既に成人男性と同じぐらいの体格と筋力を持っている為に思い上がり、傲慢で何でも強引に力ずくで押し通そうとするようになる。そして動きが緩慢で知恵や配慮が足りない。愚鈍と言う言葉がそのままぴたりと当てはまるような存在。自分より小さな者には絶対に負けるわけがないと言う驕り、それらすべてに対する憤りでレントの頭の芯がチリチリと熱くなった。

無造作にハンマーを持つ手を殴りつける。鈍い音と共に巨人が折れた腕を抱えて叫んだ。

敢えて兜を脱ぎ捨てたレントがハンマーをひょいと持ち上げると思い切り巨人に叩き込んだ。即死である。

背後の気配に気付いたレントが振り向きもせずに背筋の凍るような低い声で言った。


「カルビ、そしてお前らも手を出すな。これは俺の問題だ」


 ハンマーを片手に持ったままレントが巨人を、そしてキュプ王国軍幹部を冷たい目で見据えた。




「俺の名前はレント・オルフィス。この名を心に刻みつけて死ね」

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