第四章 宵宮 1
リンダが2人の許へ行き、取りなすようにサンドラに言った。
「レンちゃんはそういう子だからもう許してあげて」
「そ・・・そうね。私もちょっとやりすぎたわ」
「でも・・・ここが王都じゃなくて本当に良かったですわサンドラさん」
サンドラとレント、そして周囲の者が怪訝そうな顔をした。
「王都だと何か?」
「まぁ普通に処刑されますがそういう意味じゃなくて・・・レンちゃんならきっとハイネの王冠をプレゼントの為に力ずくで奪いに行ったと思うんですよね。」
リンダの言葉にレントの背中がビクリとし、同時にサンドラが笑い出した。
「いっくらレントが非常識だって言ってもそこまではしないわよ」
「レンちゃんから聞いてないんですか?王都に居た頃に王冠を奪いに行くってのを私とハイネで止めた事があるんですよ」
「そんなの子供の頃の話でしょ?さすがに今はそんな事する訳無いわよ。ねぇレント?」
サンドラが振り返るよりも早くレントが後ろも見ずにダッシュで駆け出して行った。
「に・・・逃げた?」
「レンちゃん逃げちゃった・・・図星だったみたいね。ホントここが王都じゃなくて本当に良かったです」
「あっきれた・・・でも何でまた王冠を奪いに行くって話になったの?」
「牢屋から出してくれたお礼に何か欲しいものはあるか?って聞かれて私王冠が欲しいって言っちゃったの」
「俺が玉座が欲しいって言ったら王様が座る前に椅子取りゲームみたいに座れとか言われたがな」
「遠回しにお礼なんか要らないって意味だったのにねぇ・・・」
サンドラが心底あきれたと言う顔をしてため息をついた。
「私あの人とやっていける自信が揺らいできたわ」
「自信なんか無くていいんです。好きだって気持ちだけあれば何とでもなります」
「そうね。本当リンダさんの言う通りだわ」
しばし思案顔をしたサンドラが側に控えていたルネアに声をかけた。
「さてと、最愛の夫となるレントに最大の礼儀をもって応えなければいけないわね。ルネアいらっしゃい」
そう言うとサンドラは挨拶もそこそこに足早に自宅へと駆けていった。
ぼーっと見送っていたハイネルドが怪訝そうな顔でリンダに尋ねた。
「なぁリンダ、今言ってた最大の礼儀ってどういう事なんだ?」
「恐らくレンちゃんと改めて決闘するつもりじゃないかしら」
「け、決闘?改めてって、どういう事だよ?」
「ああそっか、ハイネも知らなかったんだっけ。まぁすぐにわかるから私たちも行きましょうよ」
そう言うとレントの走っていった方角へ指をさした。
一方レントは村はずれの巨石に駆け上がると荒い息をして座り込んだ。あまりの速さに部下たちはレントを見失い、付いて来たのはカルビだけだった。
息が静まるのを待って岩の上に仰向けに寝転んだ。
「まいったな。何で金貨を溶かすって発想が無かったのか自分でも分かんないよ」
「ご主人様って時々即死レベルのボケをかましますよね」
「え?何?カルビお前知ってて何も言わなかったのか?」
「むしろせっかくの楽しみに水を差すかと思いまして・・・」
「そんなわけ・・・いや、確かに楽しかった・・・」
そう言うとがっくりと肩を落としてレントがため息をついた。
やがて鎧の打ち合う音と共にアークたちが息も絶え絶えに走って来た。
「団長ー!そこに居られるのですかー?」
「団長ーー!!」
「おー、来たか。ここだここだ。」
レントが起き上がって手を振るとフラフラになりながらも全員が気力で駆け寄ってきた。
「団長ォォォオオオオ!!すいませんでした。俺が団長を試したせいで・・・ううううう・・・」
うずくまりながらダークが泣き叫ぶ。
周りの部下たちも感極まって泣き出していた。
嫌味のひとつでも言ってやろうと思っていたレントも、さすがに泣き出す部下を見て気が削がれてしまった。
「いや、そういうの要らないから。ほら、泣くんじゃねぇよバカヤロウ」
「グスッグズッ・・・すいません・・・ううう・・・」
「まったくもう何なんだかなー、まぁ明日になればサンドラの怒りも納まるだろうから気にすんな」
「じゃあもし今見つかったら・・・?」
「生き方とか考え方とかずーっと説教されるのだけは間違いないな。今夜のところはお前らの幕舎で休ませてもらうか」
「ぜひそうして下さいよ団長」
「せっかくだから旅団の結成式、パーっとやりましょうよ団長」
「そうだ!親衛隊の宴会幕舎をぶんどって盛大にやりましょう」
「おお、それはいいな」
ダークたちの会話を聞いて小刻みに震えていたレントが怒りを爆発させた。
「てめぇらふざけんなぁ!んな事ばっかしてたら俺がサンドラに殺されるわ!!」




