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第四章 旅団長レント 7

 レント達の一行がパブ『バーガンディ』に入るなり店内に居た客の半分ほどが逃げ出し、代わりに両耳の無い初老の男が駆け寄ってきた。


「わ、我が主よ。よくお見えになられました。我ら一同首を長くして待っておりました。」


 一緒に居たハイネルドやその取り巻き、レントの部下たちがあっけにとられる中、深々と頭を下げる男に一瞥をくれるとレントは何も言わずに一番奥のテーブルに着いた。


「なぁダーク、地金から削り出して宝飾品を作るのは結構時間がかかるんじゃないのか?」

「およそ4時間、夕刻までには完成させまする。それまでしばしお待ちを。」

「よし、おいサム、酒の支度を頼む。」


 声を掛けられたバーテンがすかさずボトルやグラスを魔法のようにテーブルに広げた。

間髪入れずに奥からコックみずから肉料理を運んでくる。


「とにかく乾杯しようじゃないか。」

「乾杯も結構だが店から逃げ出した連中、ありゃ何だ?お前を怪物でも見るような顔をしてたぞ。」

「ん?ああ、怪物か。そうかも知れんな。なぁサム?」


 声を掛けられたバーテンが真っ青な顔になってのけぞった。


「と、とととと、とんでもございません。レント様は怪物などではなく、慈悲深い主でございます。」


 ハイネルドとマルコス、クロロが顔を見合わせて憐れむように首を横に振った。


「こいつは相変わらず自由勝手に生きてるな。」

「間違いねぇな。」

「御意。」

「う、うるせえよ!」


 うろたえるレントを横目で見ながらハイネルドがにやりと笑ってグラスを掲げた。


「我が国最強の蠍旅団団長に乾杯だ。」


 居合わせた一同が互いにグラスを打ち鳴らした。

全員が一気に酒を飲み干すと同時にステージ上でギターが鳴り響いた。


「こんにちわー!ツインリーフのシカでーっす!」

「ナノちゃんでーーす。」

「今日もたくさんのお客さんに私たちの歌を・・お、お、・・・王様?」


 シカがハイネルドを見て硬直した。


「あー、緊張しなくていいよ。王様って言っても大陸の覇者ってわけじゃなし、その辺の酔っぱらいと変わんないよ。」

「お前ー、雑すぎんぞ!」

「え、あ、あの・・・レントさんと王様ってお知り合いなんですか?」

「ん?ああ、まぁそうだけど・・・」

「すっごおおおおおおい!ファウンランドの王様とお知り合いだなんて!」


 ステージから降りてきた2人の前にバニラが立ち塞がった。

グラス一杯の酒ですっかり酔っ払っている。


「あんたたち!王様は私と結婚するの!近くに寄らないでちょうだい!」

「おいおい、勝手に結婚とか言うなよこら!」


 言い合いをしている所で豪快にパブのドアを開け放ってサリティとブーメン所長、鉱山の作業員が流れ込んできた。


「おーうレント、ここに居たのかぁ。おい、お前らも適当に空いてるところに座れ。おーい、酒持ってこーい」

「さ、サリティ君、王様が居られるのだぞ、口の利き方に・・・」

「なーに言ってんだ所長。酒の席で王様も漁師もねぇだろうがよ。それによ、そんな話をしたらレントなんざ王国軍の旅団長様だぜ。」

「ひ、ひえええええええ」


 騒がしくも2度3度と乾杯の声が交わされた。すでに店内はぎゅうぎゅう詰めになっている。

ギターをかき鳴らしてシカがナノに気合を入れる。


「こんだけの聴衆を見逃す手は無いよ!さぁ、ナノ歌うわよ!」


 ツインリーフの2人がステージで熱唱する中、ドルテに連れられてシユケとアイリスが入って来た。


「ほうら、ワシが言った通りバーガンディに居ったじゃろうが。」


 ハイネルドが驚いた顔で立ち上がるとドルテの手を両手で固く握った。


「ド、ドルテ師!お久しぶりです。」

「これはハイネルド王子、いやハイネルド王、久しぶりじゃのう。」

「なんだハイネルド、ドルテさんを知ってるのか?」

「バッカ、ドルテ師は国家認定の特級魔道士筆頭で俺の先生だった人だ。かの伝説の魔導師スピカの再来と言われる程の方だぞ!」

「いやそのスピカって誰だよ。」

「知らんのか。この物知らずが!」

「まぁまぁ2人ともやめるんじゃ。いさかいは良くないぞえ。」

「は、はぁ。」

「レントさん、日が高いうちから酒盛りっスか。私たちも混ぜて欲しいっス」

「レント、噴水広場のバルから炙りバラ肉買ってきたぞ。」


 半ばあきれ顔でレントが肩をすくめ、それをハイネルドが揶揄った。


「お前と居るといつもお祭り騒ぎだな。まぁ村祭りではあるんだが・・・それはそれとして俺にもお前の仲間を紹介しろよ。」

「え、ああ。まずはこのでかいのがサリティ。傭兵仲間だった男で酒と女が大好きな奴だ。」

「おいおい、喧嘩と博打も好きだぞ。」

「自慢気に言うな!」

「そうか。よろしくなサリティ」

「えへへへ、こちらこそよろしく王様。」

「それで隣の銀髪で黒ずくめのシスターナースがアイリス・・・」

「あー!教会でシスターも兼任しているお医者様ってもしかしてあなた?」

「こらこらバニラ、割り込むな」

「いーじゃないよ、ねえねえあっちでお話しましょ。私は王国の査問長官でバニラって言います。一番好きなのが拷問で、次が尋問です。アイリスさんも大好きだって聞きましたわ。」

「大好きっス。じゃあそっちの席で・・・ほらそこのゴツイお前たち、さっさとどくっス、場所を空けないと痛くするっスよ!」


 喧騒の中をかき分けてバニラとアイリスが離れた席に向かうのを眺めながらハイネルドがため息をついた。


「バニラもいい加減ぶっ壊れてるがお前の知り合いも相当だな。」

「まぁ出会って5分で背中に刃物を5,6本刺し込むような女だからなぁ。」

「マジか?」

「ああ、大マジ。」


 2人は顔を見合わせて互いに苦笑いしながらグラスの酒を飲み干した。

そのあいだにもどんどん樽の酒と大皿に乗った追加の肉が運ばれてくる。

どれほどの時間が過ぎたのか、居合わせた全員がいい感じに酔って来た頃、荒々しく店の扉を開けてアークが駆け込んで来た。


「団長!装備が整いました!!」


 ほぼ同時にダークも叫んだ。


「団長!贈り物が完成しました!!」


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