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第四章 旅団長レント 5

 バニラがレントを窺うように上目遣いで見つめた。


「私のコレ、気になるんでしょう?」


 そう言ってバニラはムカデのような肉盛りを指さした。


「え?いや、特に気にならないけど?」

「気にしなさいよ!それどうしたのとか聞きなさいよ!それがエチケットってもんでしょうが!!」

「あ、ええと、はい。・・・皮膚が盛り上がってるけどそれどうしたの?」

「男の人ってなんでこうデリカシーのない質問するの?まぁいいわ。今日は機嫌がいいから特別に教えてあげる。」


 レントがうんざりしたように小さな声でハイネルドに囁いた。


「ハイネルド、何なんだこの女は?凄いめんどくさいぞ。」

「俺はその面倒臭いのと2年以上関わってるんだ。少しぐらい我慢しろ。」

「こらそこ!私が話してる時におしゃべりしない。静かに聞きなさい。」


 誇らしげに咳払いをしてバニラが嬉しさを噛み殺しながら話し出した。


「これはね、今まで私が拷問してきた中でも飛び切りの精神力を見せてくれた人のお肉なの。」

「・・・肉?」

「そう。2センチほどに細長く削ぎ取った肉を、同じように削ぎ落とした箇所に縫い付けたのよ。20人に1人ぐらいの割で腐らずに私の体の1部になってくれてるのよ。」

「おいハイネルド、この女処刑してしまわなくて大丈夫なのか?」

「いや、実際成果を上げてるからそれは出来ないよ。」

「こらそこ!私が話してる時におしゃべりしない。静かに聞きなさい。」

「あ、はい。」

「あとね、この左肩のケルベロス様を見て。」


 そう言うとレントに押し付けるように左肩を前に出した。

たじろぐレントの横でカルビが感嘆の声を上げた。


「これはね、私の崇拝するケルベロス様を彫り込んだ物なの。小刀を刺しては肉をめくり上げて時間と愛情を込めて彫った自信作よ。」

「あー・・・そう言えばテントにもケルベロスらしき魔獣が描かれてるね。」

「もちろんよ。なんてったって崇拝し、愛してやまない存在なのですか・・・」


 喋っていたバニラが絶句した。同時にレントも、そしてハイネルドも突然の重苦しい圧迫感と冷気に背筋が凍りつくような感覚に襲われた。言うまでもなくその気はカルビから発せられていた。

紫色の唾液がしたたり落ち、変色した地面から青黒く小さな薔薇が生える。苦しそうに感情を抑えた声でカルビが言った。


「ご、ご主人様。申し訳ありませんがこの娘と2人で話をさせて下さい。決して殺したりは致しませんから、どうか、どうかお願いいたします。」


 お願いと言いながらもそれは命令に等しかった。半ば狂気に陥ったカルビの申し出を断るなど出来るわけもない。体中から殺気を発散させるカルビにその場に居た全員が戦慄した。


「ハイネルド、・・・ハイネルド!!今すぐテントから全員連れ出せ。」

「え?あ、おお。」


 だが行動に移すまでもなくテントから次々と人が飛び出してきた。恐らくはバニラの部下と、剃髪の男たちは例の連れ攫われた親衛隊長たちだろう。半狂乱になり口から泡を吐き出しながら逃げ去っていく。中には失禁している者まで居た。これが普通の人間の反応だとレントは思った。自分が怪物に姿を変えた時の事を思い出したのだ。むしろ逃げずに踏みとどまって居るハイネルドとバニラの胆力に驚いていた。


「カルビ、僕は許可を王に委ねる。王が駄目だと言ったら諦めろ。」

「俺はバニラの判断に任せよう。・・・バニラ、どうだ?怖くて2人きりになりたくないか?」

「いいえ、いいえ!こんなにも強大で禍々しい魔族の方が私ごとき者とお話をしたいなどと、今後の人生でも2度とは無いでしょう。王様、是非にでもお願い致します。」


 その返事にハイネルドはレントに頷いて見せ、レントもまたカルビに頷いてみせた。


「さあバニラよ。奥にまいりましょうか。案内なさい。」


 猫の姿のまま体中から真っ黒で不吉なオーラを立ち登らせたカルビが言い、言われるままにバニラがテントの奥へと案内をした。

金属をこすり合わせるようなカタカタと言う音にふとレントが目を向けると同時にハイネルドが座り込んだ。体中が震えていた。


「小便を漏らすかと思ったぜ。魔界でも相当な力を持つ者だと下級悪魔が言っていたとは聞かされていたが・・・想像の遥か上だ。」

「お前のプライドもなく怖いものは怖いと言える所は本当に凄いな。」

「プライドの置き所が違うんだよ。怖くても小便漏らしても逃げずに踏みとどまる事にこそ王の価値があるってモンだろうが。」

「まぁそう言うモンかもな。」

「そしてその命を守るのがお前の仕事だ。」


 指差されたレントが苦笑いをした。

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